8
コツコツと廊下を歩く足音が1つ。
__2つ。
アユカは立ち止まって振り向いた。
「ねぇ、ずっと気になってたの。目の色が変わらないこと。私の力が効かないこと。それと、どうして倒れ__」
ユカリが全てを言い終わる前にアユカは口を開いた。
「2人の記憶は消せても私の記憶は消せない」いつにも増して真剣な眼差しでユカリを見つめたアユカは彼女の心臓を討ち取るかのように距離を詰めた。そこは緊迫した空気に包まれている。
「答えになってないけど?」
「私だけ答えるなんて不平等」
「素直に教えてくださいって言えばいいのにね」
「こっちの台詞」
お互い会話の速度は一定だが、様子を伺いながら次の一手を考えているように見えた。
「気付いていると思うけど、私は記憶を消すことができる」
「つまり、相手を動けなくさせるなんてことは不可能。そしてユイは簡単に言うと洗脳のようなことが出来る。ユカリとの相性は抜群に良い」
「そこまで分かってるなら……!」
ユカリは感情を露にしてアザミの胸ぐらを掴んだ。しかしアユカは顔色を変える事なくそっとユカリの手を掴んだ。その後顔を歪めたユカリとのコントラストが滑稽さを強調していた。
「そもそもどうして私達は『キョウキ』持ちだと思う」
「……分からない」それに続いてアユカは頷いた。
「私も確信は持ててない」
「じゃあなんで聞いたわけ?」
意味が分からないと言いたげな瞳だったが、アユカはその目を変える発言を抱えていた。
「その答えを持っている人物のところに行こうと思って」
「は?」先程からコロコロと表情が変わっていくユカリだが無理もないだろう。
「この言葉ユイにも言ったけど、覚悟ある?」相変わらず問いかけてるのか断言しているのか定かではない口調だが今回ばかりは、はっきりと疑問の音が聞こえたようだ。
その証拠にユカリは、はっきりと頷いてみせた。だが、別にユカリはここで覚悟を決めなくたってよかったのだ。しかし、彼女は気付いてしまった。この力で幸せにすることが果たして本当に出来たのかと。それゆえ引けなかった。それ程までに知りたかったから。強い決意を感じる瞳。握られたままの手。
「じゃあ行こうか。ずっと盗み聞きしてるユイも一緒に」柱の後ろに隠れていたユイはびくりと肩を震わせ2人の元に歩み寄った。何故バレたのだろう、それもいつからと疑問を口にする前にアユカは歩き出していた。