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序章
目の前には食べたら死ぬと言い伝えられている葡萄が1粒、2粒、3粒と大変御行儀良く並んでいた。その光景は少し不気味にも見えるが、とても神秘的であった。
きっと画家ならば、この瞬間を描かずにはいられない。また写真家ならばこの瞬間を写さずにはいられないだろう。
少女は緊張した面持ちで透き通った紫色のそれに手を伸ばす。
水々しく、とても美味しそうに思えるが中身を開けるとそれは薔薇だ。
1度手を伸ばしたらもう戻れはしない。
それでも少女は自分の手を止める事は出来なかった。例え、それが法を犯していたとしてもきっと抑えがきかなかったはずだ。その位、少女の目に映るのは誰にも見られない様に大切にされたキラキラと輝く宝物の様なものだった。さぞ、魅力的に見えた事だろう。
びちゃ__。
どうやら、力の加減を間違えてしまったようだ。
そっと手を開いた少女の目に赤黒い色が映り込む。
顔を歪めた少女は特等席から立ち上がると、誰もいない客席を抜け出口の方へと足を運んで行った。
舞台には2粒の葡萄が置かれている。