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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

俺には彼女と彼氏、2人いる……二股します!……多重人格はセーフですか?(汗)

作者: 色世 ゆうま

ひたすらイチャイチャ、甘々と書き殴りました。

『ねぇ、勇樹ゆうき。これからどんな”あたし”になってしまったとしてもずっといっしょにいてくれる?』


『なに言ってんだよ!おれたちはこれからもずうっといっしょだぜ!』


『うん!これからもずっといっしょ!だから約束しよ!ほらこうして!』


 あどけない笑顔を浮かべて透き通った黒い瞳をキラキラさせながら人差し指、中指、薬指の三本を丸めて親指と小指を指一杯に伸ばす。この手の形を耳にまで持っていけば電話の真似をしていると周りから笑われるであろう。


 俺はその幼い笑顔に思わず見とれてしまい心臓がドクドクと大きな音を立てていて恥ずかしいと思いながらも、


『ねぇ、まだぁ?』と頬をプクッと膨らませて早くしろと急かしてきたので俺は自分の羞恥心を誤魔化すようにかわいいプクリ顔を見て『もう、あわただしいやつだな』と少し赤く染まり膨れた頬を人差し指で潰してふにふにと小さくも柔らかい。あまりにも触り心地がよかったので何度も指の腹で押したりして遊んでいると『むぅ~』と細目でジッと睨んでくるが正直全く怖くない。むしろこれはこれでかわいい。


 早くやめろと睨みつけているようで照れているのか髪の後ろに隠れている小さな耳まで真っ赤に染まっており、それが照れ隠しなのだとわかる。


 おまけに目は睨みつけているかもしれないが、口角はきっちりと斜めに上がっており、もっとして欲しいと要求しているようにしか見えない。


 まぁそんなことを口走れば余計に不機嫌になるのは目に見えているので言葉にはしない。むしろ俺としてはこのほのぼのとした時間がとてもありがたい。


 しばらく、指で突っついたり軽く摘まんで引っ張ったりして遊んでいると羞恥の限界が来たのか『もう、むりぃ~』と俺の手から離れて自分の顔を隠すように小さな頭を俺の胸にグリグリと押しつけてくる。


 いきなりすぎる行動にドキドキがさらに加速して顔が熱くなるのを感じるが彼女に顔を見られていないことにホッとする。


(余計なことをしやがって……)


 俺の内心なんか知ったこともなく照れ隠しのために抱きついてくる彼女に逆に俺がドギマギさせられるはめになり、そんな羞恥心を誤魔化すように俺は覚束ない手つきではあるものの彼女に後ろに手を回して後頭部を優しく撫でながら『ごめん、ちょっとからかいすぎたな』と呟くと彼女が俺の腕の中で『むぅ、勇樹のバカ……』と小さく反論してきた。


 そんなこんなで彼女が『仕切り直し!』と言ったので、俺も彼女が作る手の形に合わせて親指と小指をくっつけて彼女のくりくりとした丸っこい目を見つめる。


 見つめているとその瞳がうるうるとしているがその黒い瞳は少しも逸れることなく俺を見てくれているのがわかる。


 これが、俺と彼女の昔からの約束の形だった。


 この約束の形をいつから始めたのか、どっちがやろうと言いだしたのかはわからないが気づけばこの形が俺達2人の間で定着していた。


 だけど、これを始めたのは彼女からなのではないかと俺は勝手に思っている。普通約束と言ったら、小指を互いに絡めながらやる指切りげんまんが一般的だろう。

 その一般的な手法をとらないあたり、奇想天外な発想を持つ彼女だからとしか考えられない。


 だけど、そんな彼女と初めて交わした約束は未だにちゃんと覚えている。


『これから、あたしたちがどんな風になっても、ずぅっといっしょだよ!勇樹!』


 白い歯を思いっきり見せるほどの希望に満ちたキラキラと輝かしくそして愛らしい笑顔で彼女はそう約束を宣言する。


 俺はその純粋無垢な笑顔の全てが自分に向けられているのだと思うと小っ恥ずかしくなるがこの約束を無下にするわけにはいかないので羞恥心を押えながら、笑顔で微笑み返し同様に約束を結ぶ。


『あぁ!約束だ、ずっといっしょにいような、あい


 風の音も、人の声も、車なんかが通る音も何も聞こえない。


 彼女の背景にあるものもぼやけてでしか見ることができない。そんな小さな2人の世界は当時の俺にとって最高に幸せな2人だけの世界だった。


 そんな世界では自分の心臓がドッ、ドッ、……と暴れ狂うように立てている音も全く不快に感じない。むしろこの音が彼女のことをそれだけ想う証なのだと思えた。


 互いに約束を結んだ俺達は空がオレンジ色に染まったのを見てくっつけていた指を離す。指の腹2点からではあったが触れていた彼女の温もりが名残惜しい。


『ふふっ、これでまた約束がふえたね!』


『おいおい、また数増やして、覚えていられるのか?』


『んーー、わかんない!』


『おい』


 わかんないと悪げなく言う彼女の頭を俺は軽く、いやちょっと強めにチョップを叩き込む。だからか、『いたいなぁ……』と頭を押えて目をぎゅっと瞑っている。


(おれはちゃんと覚えてるんだけどな……なのにこいつは……)


 俺は一言一句交わした約束事を覚えているのに無邪気に約束を交わしてくる彼女は覚える必要もないくらいどうでもいいことだったのか?と少し悔しい思いが募ってくる。


 しかし、そんな俺の様子は一目見て筒抜けなのか、痛みから解放された彼女が穏やかな笑みで諭すように言葉を紡ぐ。


『だいじょうぶ……ちゃんと覚えているよ。勇樹とのはじめての約束から今日までのことぜんぶ』


『……そっ、そうか……なら、いいよ……』


 彼女が言ってくれた言葉が嬉しすぎて内心バクバクなので俺は高鳴る鼓動を感じながらもそれを悟られないように目を逸らした。


(かわいいけど、きれいだった……)


 彼女の幼いはずなのにとてもあの一瞬だけは大人っぽく感じられて温かく柔らかい微笑みに俺は見とれてしまっていた。


 彼女の顔の一つ一つのパーツがとても艶やかに見えて少女になんて気持ちを抱くんだ自分は……と責めたくなるほどだった。


 しかし、そんなことを言っている俺自身も彼女と同じ年で小学校5年生であった。


 そんな俺の顔をわざわざ覗いて『おやぁ?照れてる?』とニヤニヤ顔で迫って来るので俺は逃げるように彼女の手を掴み帰路に着く。


『ほら!さっさと帰るぞ!』


『もう、しょうがないな照れ屋さんは』


『だれが照れ屋だ!』


 俺は彼女に有無を言わせずに、だけど転んでしまわないようにだけは気をつけながら小さい歩幅でまっすぐに家に帰っていく。


 その道中俺は手を引かれながら後ろを歩く彼女に振り返ることなく言う。


『これからもよろしくな、愛』


 そして背中から、


『うん!これからもだよ、勇樹!…………大好きな勇樹といっしょに……』


『えっ?最後なんて言った?』


 マジで聞こえなかったんだよ。名前を呼ばれた後に何か言われた気がしたのだが小さすぎて聞き逃してしまった。


『なんでもなーい』


『うそだ、ぜったい何か言ってたぞ』


『ふふっ、それじゃあわかるまであたしだけのひみつ!』


『なんだよそれ、ずるいぞ』


『へへへっ!、だったら当ててみてよ!ぜひとも勇樹から当てて欲しいなぁ』


『言ったな!絶対に当ててやるからちゃんと待ってろよ』


『待ってるから、なるべくお早めにね』


 そんなことを言い合いながら2人で帰り道を歩く。


 後ろにいたはずの彼女はいつの間にか俺の隣に来ており、小さくて細い手は俺の手ときっちりと握られていた。




「ていうことが昔にあったんだけど、昨日の夜は久々にそんな夢を見たんだよ」


「ん、そうなんだ……その子が羨ましい……かも」


「過去のことを夢に見るって実際にある話なのかな?」


「わからない、だけど夢占いとかでよく聞くのは、その過去が現実逃避、悩みやトラウマだったり……」


 彼女がスマホで調べたのかそんな恐ろしいことを淡々と言葉にしてくる。


「あっ、でも昔の夢を見るのは今ある悩みを解決するためだって」


「今ある悩みね……」


 悩みか……大いに心当たりがありますとも。悩みと言われると少し違うか、どちらかというと後悔の方の意味合いが強い。


「むっ、”私”がその『あいちゃん』だったら『ゆーくん』の助けになれるのに」


 彼女は拳を強く握りしめながら悔しそうに唇をぎゅっと噛んでいる。だけど、それも一瞬で何か意を決したような顔でしかし、頬を赤く染めながら言葉を紡ぐ。


「私にできることならなんでも言って、話は聞いてあげられるから……一人で抱え込まないでほしい……だって……わっ、私はゆーくんのことが、しゅ、好きだから」


 雪のように白い肌を両耳まで真っ赤に染めて照れくさそうに言葉を所々詰まらせながらも素直に自分の気持ちを表現してくれる彼女。


 その瞳は羞恥のためかゆらゆらと揺れているがその目はとてもまっすぐ俺を見つめている。そんな愛らしい姿は彼女のことを想起させることなんて容易いことだった。


 俺は彼女を抱き締める。いきなりのことで驚いたのか彼女は「んっ……」と一瞬体を強ばらせたがその緊張もすぐに解けて俺の背中に手を回して甘えるように強く抱きついてくる。


「温かいな、ゆーくんは」


「お前もだよ、すごく安心する」


「へへっ、ゆーくん……好き」


「あぁ、俺も”カナ”のこと好きだよ」


「ありがと、嬉しい」


「俺もだよ」


 しばらく抱擁を交わした後、程よく時間が経過したのを互いに感じて体を離す。まだまだ名残惜しいがいつまでもこうしているわけにはいかないのでしょうがない。


 それにそろそろお昼時なのでご飯も作らなければならない。

「今日は私が作る。ゆーくんの好きなハンバーグだから……」と淡々と言いながらもニコニコ顔でキッチンに向かって料理を始めた。


 俺はそんな彼女の後ろ姿をそっと見守る。


 何か手伝えよと叩かれるかもしれないが逆に手伝おうとすると「私が料理するところを見て欲しい……私が作ったご飯でおいしそうに食べるゆーくんが見たい……だめ?」と言われてしまったのでそこまで言われたら引き下がるしかないだろう。


 それに明日は俺が作ることになるからな、一日料理を作ることを考えなくていいのはなんだかんだ気が楽にはなる。


 俺は箸やコップ、お皿などの準備をパパッと済ませた後吹き抜けになっているのでテーブルの席に着いてから彼女が真剣な顔つきで、でも楽しそうに料理する姿を眺める。


 そんな彼女は誰がどう見ても目を引く美少女である。


 整った顔立ちでスラリとした体躯。真ん丸とした黒く透き通った瞳、赤く熟れた唇。サラサラとした指を通せば1回も絡まることなく最後まで通しきれるであろう黒く艶やかな背中まで伸びた髪、今は料理のためにお団子にまとめられていて機能を優先されているがその中でも十分かわいい。


 身長は俺が隣に立ったら彼女の顔が俺の胸辺りに来るぐらいの身長で、スラリとした体系ではあるものの端々から見える真っ白な腕や足は細くはあるものの程よく肉つきがあり、柔らかい。そして出るところはそれなりに出ており、2つの山がそれなりに主張されている。


 昔から彼女の容姿は一目引くほどかわいいかったからいずれはこうなることは見えていたがそれでも互いに高校1年生になった今、自分の想像の何倍もかわいくて綺麗な彼女の姿に毎回ドキドキさせられる。


 今は薄いピンク色のパジャマにエプロン姿というだらしなくお洒落という言葉一つもない格好ではあるもののかわいく見えてしまうのは彼女が美少女だからであろう。何をさせても色々と様になって見えてしまう。


 そんな今の彼女の名前は秦野はたの 香菜かなであり、俺こと鈴木すずき 勇樹ゆうきのことは『ゆーくん』と親しみを込めて呼んでくれる。

 俺もそんな彼女のことを『カナ』と呼んでいる。


 カナの性格は基本クールで常々落ち着いており話す言葉も淡々としており、一見すればどこか冷気を纏っているような感じもする。


 しかし、そんな言葉も彼女なりに熱がしっかりと籠もっており胸が温かくなる。


 その本質は相手のことを思いやれる優しさがあり、特に俺にはとても尽くしたがりである。


 そして、照れくさそうではあるものの甘えるようにデレて『ゆーくん、好き』と好意を言葉でも行動でも伝えてくれるのでマジでかわいい。


 そんなクーデレな彼女は尽くしたがりな性格も相まって家事がとても上手だ。


 特に彼女が作るご飯はとても絶品で舌が蕩けてしまうほどおいしい。そこらへんの店なんかに行くくらいだったら彼女のご飯の方がいい。


 そんなクーデレな彼女、カナは俺の自慢の彼女である。


「はい、できた」というカナの声で俺の意識は現実に戻される。


 目の前には既にイスに座った彼女が微笑を浮かべており、テーブルの上には白ご飯にお味噌汁、サラダ加えて、大きくふっくらとしたハンバーグが付け合わせのブロッコリーやニンジンと一緒に盛り付けられている。


 空腹を刺激して閉じた口の中で唾液が押えられないことを自覚しながらも俺は手を合わせて彼女もそれに続く。


「「いただきます」」


 早速箸で切れ込みを入れていこうとすると箸がスッと入っていきそこから肉汁があふれ出てきてそれと同時に肉の香ばしい匂いが鼻を刺激する。そしてそのまま一口食べる。噛めば噛むほど肉汁があふれ出てきてうまみがあふれ出てくる。


 そして夢中になっているとスッといつの間にかなくなっている。そしてすぐに次の一口を放り込んでいき、気づけば3分の1を既に食べてしまっていた。


 無我夢中で食べていたことに気づいて顔を上げるとニヤニヤと、だけどすごく嬉しそうに顔をするカナがいた。


 カナは俺が彼女の作った料理が大好きであることをちゃんと知っており、そんなおいしそうに食べる俺の様子をジッと眺めているのが好きなようだ。


 恥ずかしくて目を逸らしたくなったが、ここで逸らすとなんだか負けた気がして悔しいので俺は負けじと目線を逸らさずに逆にカナをデレさせようと言葉を伝える。


「今日もご飯、おいしいよ。いつもありがとうな」


「うん、知ってる」


「やっぱりカナが作るご飯は格別だよ。味もそうだけどすごくカナの気持ちが伝わってくる」


「うん、伝わっててすごく嬉しい」


 にこやかな笑みのまま淡々と言葉を続けるカナ。


 あれ?全然デレない……。


 さっきから頬を特に赤く染めることもなく穏やかにしているので顔には出さないが内心では不思議に思っていた。そして自分がかなりくさい言葉を吐いたことに気づき少し恥ずかしい。


 しかし、いつもだったらこういうことを言った後に、


『!……あっ、ありがとう……はっ、恥ずかしい』と顔をかぁあーっとりんごのように赤く染めたカナが見られるというのに!ていうか褒められるのが恥ずかしくて顔を両手で覆い隠すハナがいじらしくてかわいくてからかいたかったのに!


 そんな俺の様子が面白かったのかカナがプッと笑って口角を思いっきり上げた。


「ふふっ、照れてるゆーくん……かわいい…………ゆーくんの油断大敵。私だっていつまでもゆーくんにからかわれてばかりの私じゃないんだから…………というわけで、は、はい……」


 カナはニマニマとしながらフォークに刺さったハンバーグを俺の口元に向けている。


 俺がそのいきなりすぎる行動に戸惑っていて何も言えないでいると痺れを切らしたのか彼女の余裕の表情がなくなっていき、


「ほら、口開けて……あっ、あーん……」


 いいのか?いっちゃっていいのか?そのままパクりといきたいが何せこの先の展開を想像していると気恥ずかしくてやりたいけどやりたくない……。

 

 そんな葛藤をしていると、いつの間にか身を乗り出していたカナによってハンバーグが寸で口元に押しつけられようとしていたので「あっ」と咄嗟に口を開けてしまう。


 もちろんカナがそんな機会を逃すはずはなくハンバーグを口に押し込められる。


 先程食べたハンバーグと同じでおいしいはずなのになぜか味がうまく感じられない。だけどなぜかおいしいということはわかった。


 顔が焼けるように熱い。きっと今の俺の顔は真っ赤に染まりきっているだろう。


 そしてそれは受けた方だけではなく仕掛けた方も同じ様でカナも机に突っ伏していた。まぁ、髪の合間から見える耳はしっかりと赤いのが確認できたが。


 それからというものは互いに無言で食事を食べ進める時間が流れた。気まずいようでこう2人で静かに過ごす時間も悪くないなぁとしみじみそんなことを思っているのだった。


 そして、昼ご飯を終えた後はなんだかんだ家でまったりと掃除をして家事を手伝いながらゆっくりと時間を過ごし、夕ご飯もおいしく(今度はちゃんとあーんにならないようにお互いに避けて)ご馳走になった。


 そして別々でお風呂に入ってまたまったりと過ごした後24時近くなってきたのでカナの部屋まで行き彼女がベッドで眠る傍ら俺はすぐ側でイスに座って彼女の手を握る。


 現在23時58分、もうすぐ明日を迎える。カナが目が開いたり閉じたりしてウトウトし始める。だけど、カナに握られる手は反比例に強く握りしめられる。


「ゆーくん……寝るの、怖いよ」


「大丈夫だよ、怖くないから」


「でっ、でも……」


「大丈夫、またちゃんと会えるから」


「約束だよ……ほら……」


 そう言って震える右手で真ん中3本の指を折り曲げて親指と小指をピンと伸ばしいつもの形で腕を伸ばしてくる。


 23時59分30秒。


 俺は左手で同じ形を作り2本の指をくっつけて、右手がカナの顔をそっと触れて俺は顔を近づけてカナの赤く綺麗な唇に優しくキスをした。


 ほんの一瞬に過ぎなかったがそれでも確かなキス。自分の唇にも彼女の温もりやら湿っぽさが色濃く残っている。


 彼女の瞳は突然のことに驚いていたがそれよりもキスできたことの嬉しさなのか瞳がゆらゆらと揺れている。


 23時59分50秒。


 俺はカナの手に指を絡ませて空いている手でカナの目に手を覆い瞼を閉じさせる。


 23時59分55秒


「カナ、おやすみ、また明後日あした


「うん、おやすみ、ゆーくん」


 24時、彼女はプツンと意識が途切れるように眠りについた。


 俺はその後父親の帰りを待ち、帰宅してきたところと入れ替わるように家を出て自分の家に戻った。


 10秒で着いた隣にある我が家に鍵を差し込んで入り、そのまま自室に行き、着替えた後に布団で寝た。




 翌朝、自宅で朝8時に起床し母が作ってくれた朝ご飯を食べて片付けた後仕事に出掛ける両親を見送った。


 ちょうど同じタイミングで隣の家からも父親が出てくる。一目合うと穏やかででもどこか申し訳なさそうな顔をして「今日もよろしくね」と言われたのでいつも通り俺は「はい」と返事をして自宅に戻った。


 俺は身支度を調えて外に出て鍵を閉めて、隣の家に向かう。


 そしてを呼ぶためにインターホンを鳴らす。


 そしてドタドタと足音が扉の向こうから聞こえた後ガチャリと開けられて朗らかな笑顔を浮かべた女の子、いや彼が出迎えてくれる。


「おはよ!”ゆう”!」


「うん、おはよう、”コウ”」


「ほら!早く入って入って!」


「はいはい、そう急かすな」


 俺は今日もこの家に入る。


 リビングにまで連れてこられた俺は、いきなりゲームソフトを取ろうとテレビのほうに行く彼を無視してキッチンや机の上の様子を一目で確認して思わず溜息をつき、ゲームソフトを彼から奪う。


「おい、ゲームの前にまず皿を洗え。食べたものくらい自分で片付けろ」


「なっ、別にいいじゃんかよ!後で洗えばさ」


「よくない、汚れが残ったりしたら衛生的にもよくない。それにお前自身はご飯を作っていないんだから洗うくらいはせめてしろ」


 俺の言葉に彼はムッと頬を膨らませて睨んでくる。


「確かにご飯は昨日、香菜かなが作ってくれたものを食べてるけど、僕は男なんだし料理できないんだから仕方ないだろ!」


「料理で男だからは関係ない。ていうか皿洗いとも関係ないだろう。いいからさっさとやって来い。ゲームやる時間が減るぞ」


「くそ!ゆうのケチ!」


 彼はキッと睨むと怒っていることを示すためかドカドカとわざとらしく音を立てながらキッチンに向かい皿洗いを始めた。


 そうして朝から不機嫌ながらも皿洗いをガチャガチャとしている彼は、昨日一緒にいた彼女と目、口、鼻、耳、顔のどこのパーツを見ても彼女そのまんまであり、胸の2つの膨らみ、スラリとした小さな手足からどう考えてもカナと同一人物のはずで仮にこの場で顔識別のカメラがあれば2人の一致率は間違いなく100%だろう。


 唯一の見た目の違いは背中まで伸びている長く黒い髪が一本に後ろでまとめておりポニーテールにしているところであろう。後は気のせいレベルでしかないが少しだけ丸い目がスッと細まっている……気がする。


 しかしそれだけの変化ではあるものの昨日のかわいらしい女の子とは打って変わりどこか中性的な見た目を感じさせる。男の子……までは行けない、見た目だけでは。


 そんな彼の名前は秦野はたの こう俺こと鈴木勇樹を『ゆう』と親しみを込めて呼んでくれる。

 俺もそんな彼のことを『コウ』と呼んでいる。


 ここまで話を聞いて察した方も多いかもしれないがここでネタばらしをするとカナとコウは二重人格である。


 一人の女の子の体の中にクールだけど寂しがり屋で甘えたがりの秦野はたの 香菜かなという女の子の人格。


 もう一人は元気はつらつで明るく親しみやすい秦野はたの こうという男の子の人格が共存している。


 そんな2人は一日おきで入れ替わっており、ちょうど24時のタイミングで強制的に睡眠状態に入り目覚めることで人格が入れ替わるという特徴がある。


 そんな2人は記憶の共有が一切できないため、毎日日記を書くことで互いに必要な情報を伝えることにしている。


 勉強に関しても学んだことは共有できないため、2倍の勉強量をするはめになっているがどちらとも地頭はいいのか勉強はなんなくこなし、別日に授業を受けるといった特別措置が取られることもなく出される課題をやればいいだけである。


 技術科目に関しては得意不得意あるもののなんとか乗り切っている。


 ちなみにコウは運動や美術が得意だが、家庭科や音楽は苦手だ。

 逆にカナは家庭科や音楽が得意で、運動や美術が壊滅的だったりする。


 こういった技術教科はたいてい週一なので一日おきに入れ替わる2人は授業の度にレベルが激しすぎて天と地のごとく変わってくる。


 そんな2人の技術科目成績は1と5の平均で全て3である。座学である五教科は全て5であるのになんだか勿体ない。とはいえこれはしょうがないことなので俺がどうこう言う問題ではない。


 そんなことを考えているといつの間にか皿洗いを終わらせていたコウが目の前にやって来ていた。


「ゆう!ちゃんと終わらせてきたよ!」と顔はふてくされながらもどこか目はキラキラしている気がする。


 俺はそんな彼の頭をぽんぽんと叩いて、


「よし、それじゃあ、やるか」


「よっしゃあ!じゃあ、まずこれやろ!」


 そう言って慌ただしく朝からエネルギー全開のハイテンションでゲームソフトの入れ替え、コントローラーの準備をパパパッと進めていく。


 そうして始めたのは世界的に有名なレースゲーム。

 いい加減次の新作を出して欲しいところではあるものの未だに一定の人気を保ち続けておりネットでは熾烈な争いが繰り広げられている。そんな厳しすぎる世界に俺とコウは2人で入っていく。


「朝の恨み、ここでぶつけてボコボコにしてやる!」


「いや、お前らがレベル高すぎてボコボコにされるまでもないから」


 そしてレースが始まるのと同時に俺にとっては地獄の時間が始まる。


 普通にロケットスタートを決めたはずなのに初速で既に差がついており同じマシーンに乗った同じキャラが俺のカートの前に11人いた。


 そんな非情な光景に俺が思わず「くそっ、なんでだ!?」とケチをつけていると隣、じゃなくてソファに座る俺の前にいるコウが前を向いたまま勝ち誇るように言った。


「ふっ、始まりのタイミングはすごくシビアなのだ。もっとギリギリを狙わないと」


 そんなことを言いながらも余裕綽々と一位で走っているのを見て俺はムカつくのでその伸びた鼻をへし折ってやろうとコントローラを強く握りしめた……。


 そして1レース目は終了。


「いぇーい!朝から一位は気持ちいい!……あれゆうは?どこにもいないけど?」


「ドベだ!ニヤニヤすんな!そして、煽ってくるんじゃない!」


「いや、流石に遅すぎない?後ろにずっといるんだから加速や無敵アイテムは引きたい放題だよね」


「ショートカットに使って抜かしてもすぐに抜かれるんだよ」


「いやぁ、ドライビングテクニックがなってないなぁ」


「いいから次だ、次」


 俺はこれ以上の煽りを回避するように次のレースへとコマンドを選択した。


 こいつが純粋な男だったら絶対にコントローラーですぐ目の前にある後頭部を殴ってる……なんてことを考えているが実際に正真正銘の男だったとしても多分今みたいにからかわれていいように扱われるだけだろう。


 ていうか、コウを初め周りのレベルが高すぎるのだ。CPU相手でグランプリ星3つを全て揃える程度の腕ではこんなシビアな世界は生きていけない。


 俺にはドリフトは早すぎて曲がりきれない時にブレーキを少し押して減速しながらイン側をつくドリフトしか知らないし、ミニジャンプを駆使して加速アイテムなしのショートカットをすることなんて全くできない。他にもジャンプ台での工夫やアイテム出現のパターンとか全然知らないし、扱い方もダメダメである。


 まぁ、こんなこともコウが俺の運転を見て以前言っていたことだが。


 そして2レース目が始まった。俺は最早安定の最下位スタートであり、あっという間に2週目後半を迎えていた。


 上位勢は団子状態であるものの相変わらずコウは一位でありおまけにアイテムは黄色い皮と一度だけだが使うとどんな攻撃アイテムも無力化できる赤いブザーで防御バッチリである。


(くそっ、なんとかあいつを妨害できるようなことはないのか……最後のアイテムに賭けるしか、よし来い!)


 そして目の前の2つアイテムを取り何が出るか待つ、そんな時コウが「なっ、青こうらだと!だがしかしこちらには無敵のブザー様がある。これで粉砕して連続で完走してみせよう」とほざくのでいらついていると俺の1個目のアイテムは黄色い雷、俺は見た瞬間すぐにそのアイテムを発動させた。このアイテムは自分以外のプレーヤーのアイテムを全て消して小さくさせるのである。


「クッ」と思わず乾いた笑い声が漏れてしまう。


 コウは「はっ!?このタイミングでそういうことするのか、ゆう!?」と言いながら無防備となったコウのキャラに青こうらが直撃する。


 そしてあっという間に上位勢から陥落して一気に下位へやって来た一位の時に雷を食らったためにまだ小さいままである。


 俺はもう一つのアイテムである金色の加速アイテムを引いたのですぐに連打して追いかけた。


 そして他の皆に抜かされてドベ一歩手前でいるところ発見して俺は加速の勢いのまま小さなコウのキャラクターを踏み潰しそのままゴール。


 そしてコウはドベとなった。俺はあまりにも目の前で起こった綺麗すぎる転落劇に腹を抱えて笑う。


「ハハハッ、ざまぁねぇなコウ!調子に乗りすぎたんだよ!」


「くそっ、そっちこそ調子にのるなよ!」


 俺の目の前では「キィー!」とよほど悔しいのか俺の膝の上に乗りながら踵で俺の足のすねをバシバシと蹴ってくる。痛い……普通に痛いから辞めて欲しいものである。


 そして3レース目。


「いやぁ、絶対下位からは上がれないから諦めてたけどコウの妨害をするっていう新しい遊びを見つけたわ」


「くそっ、下位から妨害に徹するなんて卑怯だぞ!正々堂々戦え!」


「無茶言うなよ、そんなこと自分でもわかりきってるわい、ガチ勢の動きに元からついて行けているんだったらこんなまどろっこしいことしてられるかよ」


「くそぉ、これが弱者のもう落ちるところがないという余裕だというのか。なんて、なんて……かわいそうなんだ」


「おい、嘆くか馬鹿にするかどっちかにしろ」


「あっ、始まっちゃう」


「おい話を逸らすなって……あっ」


 こうして始まった3レース目、俺は見事にスタートに失敗し、対するコウはさっきまでの喧騒など何事もなかったかのようにきっちりと最大加速を決めて走り出していた。


「こりゃあ、また最下位になりそうだ……」


 と思っていたのだが、上位勢でつぶし合いをしていたのかは知らないが意外にもレース終盤戦で俺の順位は四位と一位も見える順位にいた。

 画面の遠くには小さくではあるがコウのキャラクターが走っているのが見えており相変わらず一位のようだった。


 久し振りに上の順位で走れているため俺の気分もさっきまでとは打って変わりわくわくしており、もしかしたらコウにもワンチャン勝てるかもしれないと高揚していた。

 そして、残り2人もさらりと抜かすことができ、コウのキャラクターの背中もかなり近くなった。


「おぉ!なんか一位の背中が見えるぞ!このままお前に追いついてやるよ」


「へぇ、精々足掻いてみせてね。どうせ勝つのは僕だけど」


「その自信をたたき折ってやる」


 そして最後のアイテムを入手する……勝った!


 出たアイテムは加速アイテム。向こうのアイテムはよく見えなかったが別に関係ない。


 なぜならこのコース、普通だったら最後に直角にコーナーを曲がった後に減速地帯を避けるため少し迂回しなければならないが加速アイテムを使うことでそこを無視して進むことができるのだ。

 そこでショートカットが決まれば念願の勝利が手にできる!


 最後のコーナーを曲がる。


 そして加速アイテムを使う。


「この勝負は俺がもらったあ!」


「はい、残念」


「はっ?えっ?」


 曲がった後アイテムを使った瞬間にマシンが爆発に巻き込まれ大きく空中で転倒する俺のマシン。一瞬何が起こったのかわからなかったがすぐに理解した。


「やられた!お前、爆弾持ってたのか!」


「はい、ゴール。死角に仕掛けるのは常識だよねぇ!」


「くそ!もう少しで俺が勝てたというのに……」


「はいはい、悔しがっているのはいいけど、ゆうはまだゴールしてないからね」


「あっ、でもまだ二位には入れる!」


 と叫び、俺のマシンが元のスピードを取り戻したところで俺のマシンが再び転倒する。


「あははっ!こうら、ぶつけられてるし!」


「チッ!」


 思わず舌打ちをしてしまうがそんなことをしていても当然動けないままなのでその間に三位、四位、……六位と順位が落ちていく。


「あと少しなんだ!せめてこの順位でも!」


 と走り出したところで今度は雷が落ちてきて小さくなってしまった。


 あっ、終わった。


 小さくなった反動で動けない間とスピードが遅くなっているその間に後続で無敵だった人達が追い抜かしていき、おまけに無敵で体当たりをされてまた足止めをくらう。


 そんなこんなで自分以外のプレーヤーが無事ゴール。


 レースは強制終了。


 俺は震える手のままなんとかコントローラーをソファの上にそっと置き、溜まったものを吐き出すように「ふぅー」と一息つく。


「ハハハッ!完璧な転落劇だよ!デスコンがきっちり決まってたね!ハハハッ、面白かったあ!」

「もう、萎えた……」


「すごーい!勝ちを確信した人が無様に敗北するとここまで堕ちるんだねぇ!目が死んでるしって、おーい、生きてますかー、ゆう。ほら大丈夫?現実に戻ってこようね」


 そうやって俺の膝から降りて向き合うように座り直したコウが心配してるようで煽り全振りで俺の目の前でわざとらしく手を振っている。


 その振られている白く小さな手もムカつくほどのニヤけ面もバッチリ見えてるぞこの野郎……今日のご飯は決まりだ。


 俺は再びコントローラーを手に取り、心はグツグツ燃えているがとしかしスッキリとしたため笑顔で眼前にいるコウに復活を告げる。


「よっしゃあ!続きをやるぞ!」


「うわっ、テンションがの振り方がバグってる、どうした、ゆう?負けすぎて頭のネジでも外れたの?」


「外れてないぞ、ただ面白いことを思いついたからそのための意気込みを高めていかなければとな」


「うわっ、爽やかすぎる笑顔もそうだけどマジで意味わかんない……まっいいか」


 不思議な顔をしながらも再び背を向けるように座り直したコウが画面に集中する。


 そんなこんなで俺とコウはレースゲームをプレイしていくのであった。


 そして、昼ご飯を済ませて再びゲームをした。今度は格闘ゲームでジャンルが変わったが、結局俺はコウに遊ばれていたぶられるだけで時間が過ぎ去っていった。


 またまた時が流れて夕ご飯、午前中決めた献立を俺はきっちりと現実のものとされていてそれらがきっちりと机の上に並んでいる。


 そんな俺が丹精込めて作った料理を見てコウは頬を引きつらせてすごく嫌な顔をしては俺を見てジッと無言で睨み上げてくる。


 そんな絶望に打ちひしがれている顔を見て俺は真顔で、内心ほくそ笑んでいた。


「ゆう、これ何?新手の嫌がらせ?」


「なんのことだ?」


「しらばっくれるな!こんなにもピーマン尽くしの料理見たことないぞ!僕がピーマンが嫌いっていうのを知ってなおこの徹底ぶり。あれか?僕が今日ゲームでいじめすぎたからか?」


「…………」


 俺は無言のままにこりとたじろぐコウを見つめる。


「いっ、いただきます」


 俺の圧を感じ取ったのか震える手で箸を掴み食べ始めるコウ。


 ていうかそこまで嫌な顔をして食べなくてもいいじゃないか、どんだけピーマン嫌いなんだよこいつは。一応、全ての料理にピーマンを入れたけどもピーマンオンリーの料理とかそんなものは出してないぞ。細かく刻まれたピーマンが入ったケチャップライスに、ピーマンの肉詰め、そして野菜スープにおまけ程度にピーマンを入れている。


 うん、別にそこまでピーマンに侵食されていないんと思うんだが。


 しかし、目の前にいるコウは手に持った箸でピーマンの肉詰めを掴んだはいいものの口の前まで持ってきてそこで完全に止まってしまってた。


 そこまでしてピーマンを食べたくないのか!


 俺は呆れながらも自分が食べていたものを置いて、コウの箸で挟まれているピーマンの肉詰めを自分の箸でつまみ取る。

 そして、間抜けにも「あっ」と呆けた声を上げて口を開いた瞬間に放り込ませた。


 しばらくは「んー!、んー!」と噛まずに首をブンブンと振っていたが俺が「食べろ、ちゃんと食べやすいように味付けも調えてあるから」と言ったところでようやく噛み始めてゴクリと飲み込んでくれた。


「やっぱり苦い……だけど意外といけるかも……?」


 首を傾げながらもそんなコメントを不思議そうに溢すコウ。だがやはり箸を持つ手は止まっている。


 こいつ、絶対に自分からは食べないな……。


 そう考えた俺は席を立ち、コウの隣に行きケチャップライスをスプーンで掬い差し出す。


「ほら、口開けて」


「えっ!?そういうのはいいから自分で食べるよ!」


 雪のように白い肌が真っ赤に染まっているコウ、その顔は美少年を越えて最早恥じて萎らしくなる乙女のお顔である。俺は顔をグッと近づけて口元まで持っていく。


「そうは言ってるが、お前自分では食べようとしないだろ?俺が食べさせてやるから。ほら、あーん」


「ちょっと!かっ、顔が、ち、近いよ」


 コウの瞳がゆらゆらと揺れて口の中身は何もないのにも関わらずパクパクさせているだけど一向に食べてくれないので俺はコウの頬に手を添える。


「ふぇ!?」


 そのタイミングでちょうどよく口が開いたので突っ込んでいく。


 そして飲み込んだところで次を差し出す。コウもいいかげん学習してくれたのか大人しく口を開けて「あーん、ん」と食べてくれる。そして無事に食べ終わることができた。


 珍しくコウが皿を洗うと言いだしたので俺は素直に甘えることにした。


「ほっ、ほんとに顔近すぎ……ドキドキして死んじゃうかと思った。にしてもゆうの顔あんなにも近くで見せられるとかっこよすぎ……あのスッと見つめてくるスラリとした目なんかは反則だよ……ほんと、ゆうのばか、でも大好き……」


 と立ち去る際に言っていたコウの言葉を聞いて夕ご飯の時、自分がひたすらコウに何をしていたか思い出してコウの皿洗いの間、羞恥心で押しつぶされていたことはコウには内緒である。


 そして、コウは疲れたのか早めに布団に入って側で座る俺に言う。


「ゆう、お休み。大好きだよ。こんな女の子の体に男の人格……ちぐはぐしまくてって、おまけに男同士なのにこの好きを受け入れてくれてありがとう」


「そんなことないよ。お前の、コウのことをちゃんと好きになったから、俺はお前の好意を受け入れたいと思った、好きになりたいと思ったんだ。コウこそ俺の彼氏でいてくれてありがとな」


 ニコリとコウがいたずらぽっく笑って、


「へへっ、これでゆうは僕と香菜と立派な二股だね……おやすみ、ゆう」


「あぁ、おやすみコウ、また明後日あした


 コウが眠りについて時は既に24時を回っていた。もう彼の時間は交代であり、次目覚めるときはカナになる。


 カナとコウの二重人格。これから先どうなるのかは誰もわからない。片方だけが残るのか、どちらも共存していくのか、それとも両方とも消えてしまいそれから…………。


 俺は彼女の頭をそっと撫でる。相変わらず黒い髪は艶々で一本一本さらさらしており撫でるこっちが気持ちよすぎて癖になってくる。


 コウもなんだかんだ自分が女性の体であることを受け入れているらしく丁寧に扱ってくれておりカナの意思を尊重してくれている。


 まぁ、本人曰く、『どうせ、体は女なんだから、変な見た目にして嫌な目にさらされるのはごめんだ』だそうだ。


 撫でているとむにゃむにゃと気持ちよさそうに笑みを浮かべて安心して寝ている顔をどこか懐かしくそして寂しく思っていると不意に彼女の声が掘り起こされる。


『これから、あたしたちがどんな風になっても、ずぅっといっしょだよ!勇樹!』


 半分は果たされ、もう半分は果たされていない約束。カナとコウは約束のことはおろか昔のことは一切覚えていない。だけど、彼女との約束は確実に2人が引き継いでいる。


 もちろんそんな約束を交わしていなかったとしても、俺はカナのこともコウのことも愛していると断言できるくらいの自負は持ち合わせている。


 それでも、彼女にもう一度会いたい。また一緒にいたい。


 そんなことを考えていると鍵が開く音がしたのでお父さんが帰ってきたと思った俺は「好きだよ、また朝でね」と声をかけて、部屋をあとにしようとする、そんな時だった。


「ふへへっ、”勇樹”、これからも……”あたし”と一緒だね」


 俺はその口調、呼び方に心臓が飛び出るんじゃないかてくらいドキドキしながら彼女の方を振り向いたが何事もなかったかのようにスヤスヤと眠っていた。


 寝言、か…………。


「おやすみ、またね。”あい”」


 俺は彼女の部屋を出て行き扉を閉めるのであった。




「ねぇ、目が痛い……」


「ご、ごめん」


「また、ゲームのやり過ぎ……光が悪いけど、少しはゆーくんも注意してほしい」


「す、すみませんでした」


「ん、別に謝ることじゃないんだけど……やっぱりキツい、眠たくはないんだけど目を開くのもしんどいかも。高校着いたら寝ようかな」


「おい、授業はサボるな。ただでさえ受けてる授業量が少ないんだから」


「むっ、そうは言われても、ほんとにしんどい」


 そう言って目をこするカナ。登校途中だが、目をちゃんと開けてないため視界が不安定なのかその足取りはフラフラとしており通行人ともぶつかりそうで危ない。

 今は手を握っているが横に広がったりして車道にも出てしまいそうでヒヤヒヤさせられる。


 どうしようかと迷っていると、「あっ」と何か思いついたようで声を上げたがなぜか彼女は頬を赤く染めている。


「どうした?」と聞き返すと、カナはもじもじしながら尋ねてきた。


「ね、目を閉じたいから、ゆーくんの腕に抱きついてもいい?ていうかいいよね?……よいしょっと」


 俺は返事を答える権利すら与えられずに俺の腕に顔を伏せるように抱きついてくるカナ。


 それと同時にふわりと漂う女の子特有の甘い香りや肌の柔らかさ、ぎゅっと掴まれている小さくて細い指、そしてほどよく大きくそして確実に存在を主張しては俺の理性をゴリゴリと削ってくる2つのやわらかさ。


「あのなぁ!ここって人前なん……」


「んー~!へへっ!ゆーくんの匂いだ。それにすごく温かいし触れててすごく安心できる。私の大好きなゆーくん」


 かわいい!だけど恥ずかしい!


 しかし、完全に一人で俺の知らない世界に彼女が飛び出しているのを見て俺はそれを愛らしく思いながらも小さく溜息を吐いて、


「じゃあ、しっかりと捕まっていろ。危ない目には遭わせないから。安心して目を瞑ってていいぞ」


「ん、大丈夫、大好きなゆーくんのことはいつでも信じてるから」


「そ、そうか……ありがとな、カナ」


 周りからの痛々しい視線を浴びながらも今日も高校に向かう。


 だけど、彼女たちと一緒にいられるならこんな甘くて苦しい日々も悪くないと俺はそんなことを思うのだった。

読んでいただきありがとうございます!


3人分のイチャイチャは大変でした……。


面白い!

カナかわいい!

コウかわいい!

愛ちゃん誰!?


甘すぎるよ……などと思っていただけたら、ブックマークや評価よろしくお願いします!

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