第8話 力が欲しくないか?
セレンに出会ってから、1週間が経った。
「おはようございます。リョウさん」
「ああ、おはよう、セレン。体の調子はどう?」
「おかげさまで、だいぶよくなりました」
セレンの体の回復はとても順調で、まだ1週間しか経っていないのに、歩き回ったり、軽めの運動くらいならできるほどには回復していた。
「今日の朝食は、オムレツとコーンポタージュを作ったよ」
「ほんとうですか!?やった!」
セレンは、俺が作ったオムレツをとても気に入ったらしく、2日に一度は食べている。
「本当にオムレツが好きなんだな」
「はい、とても美味しいですから!」
ご飯を一日3食、しっかりと食べているおかげで、セレンの体にかなり肉がついてきた。前はガリガリだったが、今ではもう普通の体型だ。
「しかし、服をなんとかしないとな……」
そう、セレンのための服がないことが問題だ。
女の子用の服がないため、今はセレンに俺の服を貸している。
今のセレンは、俺のワイシャツを着て、俺のズボンを履いている。身長が合わなかったからズボンの丈の調整はしたが……。もちろん女の子用の下着なんて持ってるわけがないので、今セレンは服の下に何も着ていない。
「よし、今日買いに行くか」
〜アンナさんの洋裁店〜
「いらっしゃいませ〜、あら、坊やじゃない」
「こんにちは、アンナさん」
「この前渡した服はどうだった?頑丈で動きやすかったでしょ?」
「はい、とても動きやすくて助かってます」
「そう。それは良かったわ」
アンナさんと色々話していると、アンナさんが俺の後ろにいるセレンに気づく。
「あら?その子は?」
「ああ、この子は俺の知り合いの子で、しばらく預かることになったんです」
「せ、セレンっていいます……」
セレンが亜人であることがバレないように、セレンは俺の知り合いの子ということにしている。
最初は、俺の妹ということにしようと思ったが、見た目が全く違う上に、俺が日本人であることを知っている奴らがいる以上、妹でないことはすぐにバレてしまう。だから、知り合いの子ということにした。
「そうなの?あなたもまだ若いのに、偉いわね」
「何言ってるんですか、アンナさんだってまだ20代でしょう?」
「そうよね。で、今日は何を買いに来たの?」
「この子の服を何着かください。上下セットで、下着もお願いします」
「あら、あなたのはいいの?」
「今日は俺の分はいらないです。この子の服がなかったんで、今日買いに来ました」
俺の服は、もうすでにかなりの量を買ってある。また今度でいいだろう。
「分かったわ。とびきりかわいいの選んであげるから!」
「そ、そんな、リョウさん!わ、わたしのために服なんて……」
セレンが、困った顔で見上げてくる。
「遠慮しなくていいって。女の子なんだから、かわいい服を着たほうがいいよ」
「で、でも……わたしは、もう住むところと毎日の食事をもらってるのに、これ以上何かをもらうなんて」
「いいんだよ、俺が君にあげたいんだから」
最初に会ったとき、セレンはとても痩せていて、服もボロボロだった。おそらくろくに食事も与えてもらえず、服もずっと同じ服を着ていたんじゃないだろうか。
せめて俺がこの子のそばにいる間は、いい生活を送らせてあげなくちゃ。
「わ、わかりました。ありがとうございます」
そう言うと、セレンは店の女性服コーナーへ走っていった。
「さて、2人が選び終わるまで、外でブラブラしてくるか」
「ふんふふんふふーん」
人気のない道を、スキップで歩いて行く。
「…………」
一瞬立ち止まる。
「……おい、そこに誰かいるんだろ?」
少し離れたところに誰かがいるのが、『熱源感知』で分かった。俺が歩けば同じスピードで熱源は進み、俺が止まれば熱源も止まる。確実に、誰かにつけられている。
俺が声をかけるが、建物の影に隠れているそいつは答えない。
「気づいてんだぜ?ソコにいることは。もう諦めて出てきたらどうだ」
姿を見せることを要求するが、やはり答えるつもりはないらしい。
「俺をつけるのは人違いなんじゃねえのか?アンタ、魔王軍の手先だろ?」
そう聞くと、急に熱源の温度が上がった。ビンゴか。
「何しに来たんだ?俺を殺しにか?」
すぐに、腰に刺していた短剣を『コピー』する。
相手がどれくらいの実力かは分からないが、すぐ逃げられるように構える。
「……まさか、私の正体がこんな簡単にバレてしまうなんてね……」
そいつが、建物の影から出てくる。
「『ペースト』!」
同時に、俺は短剣を増やしてそいつに向かって投げた。
「おおっと、危ない危ない」
しかし、そいつはそれを簡単に避けた。
「『ペースト』『ペースト』『ペースト』!」
さらにナイフを投げ続ける。
「へぇ、面白い能力だね。何もないところから、剣を創り出す能力か」
しかし、相手はそれら全てを避けてしまう。
「でも、そんな攻撃じゃ私には届かない」
「な……ッ!」
気がつけば、そいつはもう俺の目の前まで来ていた。
「くそッ!」
すぐに純銀の剣を『コピー』し『ペースト』する。そしてそのまま斬りかかった。
「いッ!?」
しかし、すぐにはたき落とされた。
そのまま手首を捕まれて……。
「グアッ!」
手を後ろに回した状態で地面に押し付けられた。
「まあまあ、落ち着いて。私は君の敵じゃない」
「ハア!?こんな状態でどうやって落ち着けと!?」
「まずは私の話を聞いてくれないか」
「どうして、自分を拘束してるやつの話を聞かなくちゃいけないんだよ!」
「まあまあ」
そいつは一呼吸置くと……。
「力が欲しくないか?」
俺にそんなことを言ってきた。