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第7話 少女と謎の男

「あの子は大丈夫なのか?」


「ああ、手術は終わったよ。出血は完全に止まった」


「良かった……」


あの後、ブリーフは何時間もぶっ続けで手術をしていた。


心配だったが、無事に終わったようだ。


                                     

「しかしまぁ、かなり面倒な子を連れてきたな……」


「え?どういうことだよ?」


「もしかして、気が付かなかったのか?」


そう言うと、ブリーフは店の奥へ歩いていき……。


「だったらついてきな。自分の目で見たほうがよく分かるだろうからな」


面倒な子……?


疑問に思いながらも、ブリーフの後についていく。

                                     

                                     

店の奥には、あの少女がスヤスヤと眠っていた。


「俺には普通の女の子にしか見えないんだけど」


「顔を隠している髪をかき上げてみろ」


少女の顔を見ると、確かに顔の左側だけ白銀の髪で隠れている。


髪をかき上げてみると……。

                                     

「なッ!?」


「これで分かっただろ?この子は亜人族の子なんだ」


そこには、縦に目が3つも並んでいた。

                                     

「本物は初めて見たけど、亜人であることの何が問題なんだ?」


「おいおい、知らないのかよ。亜人は今世界中で迫害を受けてる種族なんだぞ?常識中の常識だろ」


「残念だけど、俺に『常識』は通用しない。俺の国では、亜人なんて夢のまた夢くらいの存在だったからな。一部には亜人に熱狂してるやつもいるし。たぶん、そいつらがこの子にあったら泣いて喜ぶと思うぞ?」


「お前の国はアタマがおかしいのか!?亜人族に熱狂するほどなんて……」


一体何がおかしいというのだろう。


オタクたちの界隈では、スライム娘にラミア、アラクネにマーメイド、ハーピィに猫耳、その他もろもろ含めた人外や獣人系は大人気だけどなぁ。


迫害するなんて、ソッチのほうがよっぽどアタマがおかしい。

                                     

「でも、肝心の左の3つの目は、髪で隠れて見えないし、見た目は完全に普通の女の子じゃん」


「それもそうだな。ケガも相まって、不幸中の幸いっていうか……」


「ん?どういうことだ?」


「この子のケガな、ちょうど、背中のこの辺りに右肩と左肩で2箇所あったんだ」


そう言うと、ブリーフは自分の肩甲骨のあたりを指差した。

                                     

「分からないか?この位置、亜人にしか無いものがあるところだよ」


「まさか、羽?」


「ああ、そうだ。おそらく本来なら、この子には羽があった。でも、何者かによってそれを強引にもがれたんだろう」


「何者かって……誰がそんなことを!?」


「たぶん、亜人族を忌み嫌う奴らだろうな」


「そんな……」


「まあ、人間と友好的にしている亜人族もいるし、今この子には左目以外亜人族の特徴がないから、もう迫害を受けることはないと思うが……」


「お前も、この子が亜人だからって差別するのか?」


「いや?オレは差別するなんて馬鹿馬鹿しいと思ってるからな」


「まあ、そもそもお前が忌み嫌われる存在だもんな、ブリーフ一丁で……おい、やめろ!メスをこっちに向けんな!分かった、俺が悪かったから!また今度商品買うから!」


無言でメスをしまうブリーフ。


あ、アブねぇ……。

                                     

                                     

「ん……」


すると、女の子が声を出した。


「あれ?ここは……?」


「ようやく目を覚ましたみたいだな」


「大丈夫?痛いところはない?」


女の子に声をかける。


女の子が放った第一声は……。


                                     

「ヒッ!変質者!」


「おい、やっぱりお前この世から消えたほうがいいんじゃごめんなさい!」


政治家もびっくりのスピードで土下座する俺。


それを見て、ブリーフは持っていた謎の注射器をしまう。


「だ、大丈夫だよ。この人は見た目はこんなだけど中身はいたって普通……何も間違ったこと言ってねぇだろ!メスをしまえ!」


「分かってるよ……大丈夫か?傷は塞いだから、しばらくの間安静にしていれば治るとは思うけど」


回復魔法があっても、あまりにも大きなケガを完全に治すことはできない。


全回復魔法という例外はあるが。


特に、体の一部を失ったときなんか、どうしようもできない。


その体の一部があれば、傷口をつなげて回復魔法をかければ治すこともできるが……。

                                     

「あ、あの……あなたたちは一体誰なんですか?」


「俺は『ハヤマリョウ』。『リョウ』って呼んでくれていいからな」


「俺は、『カイ・ユープシロン』。魔道具店『シータ』の店長で、元医者だ」


「あの……わたし、さっきまで街の中を歩いていたと思うんですけど……」


「ああ、君が突然倒れたから、ここまで運んできたんだ」


「すごい出血だったからな、ここに運び込まれるのが5分でも遅れたら、手遅れだっただろうな」


「え、わ、わたし、そんなことを……すみません!ご迷惑かけて!」


「いやいや、謝らなくていいよ。君が助かって、本当に良かった」


「で、でも、良かったです。同じ亜人族に会えて」


「え?いや、俺たちは普通の人間だけど」


「え……そんな……人間?」


すると、彼女は寝ていたベッドから慌てて降りた。

                                     

「ごごご、ごめんなさい……!わたし、行かなくちゃ……!」


彼女は走ろうとしたが、地面に倒れ込んでしまった。


「ああ、ダメダメ。まだ体力が回復してないから、しばらく安静に」


「大丈夫だよ。俺たちは、君が亜人族でも特に何もしないから」


それを聞いた彼女は目を丸くした。

                                     

「で、でも……人間は、わたしたち亜人族を嫌っていて、何も悪いことをしていなくても捕まって死刑にされた人もいるって聞きました!」


「え?ブリーフ、それってマジ?」


「だから、オレの名前は『カイ・ユープシロン』だ!この子の言ったことは、間違ってはいない。何人も捕まっている。少し話がデカくなってるみたいだが、さすがに死刑になった例は聞いたことが無い」


マジかよ……。


何もしていないのに捕まるって、あれか、存在してるだけで罪って感じか……。


「俺の国では、亜人は逆に優遇されていたぞ?亜人が主人公の本とか、爆売れだったしな」


「本当にお前の国、頭おかしいんじゃないのか?そんな本すぐに規制がかかるだろ」


マジかよ、本に規制がかかるのかよ!どんだけ亜人嫌われてるんだよ。

                                     

「というわけで、俺たちは亜人差別には反対派だから、君の仲間だ」


「ほ、本当ですか……?」


「ほんとほんと」


すると……。


『グウゥゥゥ……』


女の子のお腹から大きな音がした。


「ああ、お腹がすいたよな!ブリーフ、キッチン借りていいか?」


「……もう何も言うまい。好きに使ってくれ」




〜30分後〜


「完成!俺特製、ふわふわオムレツです!」


二人の前に、オムレツを置く。


「……初めて見る料理だな。お前の国の料理か?」


「そこら辺に関しては言えないなー。レシピが漏れるとマズいし」


さすがに日本の名前を出す訳にはいかない。


女の子がオムレツを一切れ口に入れる。


「ッ!!」


そのまま、無言でひたすら口に入れ続ける。


それを見て、ブリーフも一切れ口に入れる。



「な、なんだこれ!?ふわふわした食感で、口の中で溶けていくようだ……!塩味と上にかかっているケチャップの酸味が合っていて……!」


ブリーフも手が止まらなくなっていた。


「ハア……ッ!なんだこれ……美味すぎる!」


やめられなくなっていた。


俗に言う『オムレツ中毒』である。



「うッ……ひぐッ……」


急に、女の子が泣き出す。


「ど、どうした?不味かった?」


「い、いえ……こんなにあったかくて……ひぐッ……おいしいものを食べたの……初めてで……」


「そ、そんな……泣くほど美味しい?」


「は、はいッ!いつも、干し肉とか、カビたパンのかけらとかだったので……」


女の子がそんなことを言う。


やっぱり心配していたけど、この子は奴隷とかだったりするんだろうか。


始めてみたとき、とても痩せこけていたし、となると、逃げ出してきたってことか……。


「おかわりもあるから、いっぱい食べな」


そう考えると、とてもかわいそうになり、まだまだおかわりがあることを伝える。



「じゃあ、もう一つ貰ってもいいか!?」


「お前には言ってねぇよ!」





「すごくおいしかったです!ありがとうございました!」


ひととおり食べた後、女の子がお礼を言ってきた。


「いいのいいの。あ、そういえば、まだ君のことについてなにも聞いていなかったな。良かったら、色々教えてくれないか?」


「は、はい、もちろんです」


「じゃあまず、年齢を教えてくれるかな?」


「えっと、13歳です」


「13歳?もう働いてるの?じゃ……」


「いえ、特には……」


「特に無し?あっ……ふ〜ん……名前は?」


「あっ、『セレン』っていいます」


なるほど、セレンか、女の子らしいかわいい名前だ。


「どこから来たの?」


「え、それは……」


セレンが途端に、黙り込んでしまう。


「あ、言いたくなかったら言わないくていいよ。これから先、行くあてとかはあるのか?」


「いえ……特に無いです」


行き先も特に無いのに『私、もう行かなくちゃ』か……。


あの言葉って、ただ単に俺たちに自分が亜人であることがバレたくなかっただけなのか?それとも……。


「じゃあ、俺の家に一緒に住まないか?」


俺は彼女のことを思って、同居を提案する。


「え?いえ、そんなの、だめですよ!ご迷惑をかけてしまいますし!」


「いいんだよ、君のケガもまだ治ってないんだし」


「そうだな、しばらく療養が必要だろうな」


「え……でも……」


「遠慮なんかしなくていいって」


「じゃ、じゃあ……」


こうして、俺は亜人の少女と一緒に暮らすことになった。





〜2人が店を出ていった後〜


「はぁ……今日も儲けなしか……」


『カランカラン……』


「おう、いらっしゃい」


「あなたが『ブリーフ』さんですか?なるほど、確かにブリーフしか履いてない」


「おいおい、初対面の人に対して挨拶がなってないんじゃないか、アンタ」


「これは失礼。私は、この街に『ハヤマリョウ』という男を探しに来たんです」


「リョウを探しに来たって?アイツに何のようだ?」


「まあ、それは秘密ですよ。もし、彼がこの店に来たら、人が訪ねて来たと伝えてください」



謎の男が、主人公を探していた。


この男が、主人公の人生を大きく変えることになるのは、もう少し先のことである。

次回は数日後に出す予定です。

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