第6話 裏切りと出会い
『死いィネええエエえええええエエッッ!!』
巨大化したカイナが襲い掛かってくる。
「お前が死ね」
『アバッ!?』
しかし、ある男が腕を一振りすると、カイナの体は爆発四散した。
「ふいー、クエスト完了!」
「ああ……そういえば、アンタのステータスって99999なんだったっけ……」
あまりにも見事なワンパンだった。
「アンタが、マコトが言っていたハヤマリョウって人か。オレはクドウタイセイって名前だ。『どんなやつもワンパンで倒せる能力』持ちだ。よろしくな」
「ボクは、タカセヤスキ。ボクのは『どんな怪我でも治せる能力』だよ。よろしくね」
「オレは、スズキタツヤっていうんだ。能力は『圧倒的な幸運』だよ」
3人はそれぞれ、俺に自己紹介をしてきた。
『自コ紹カいしてイる暇なんテアるのカ……?』
「ッ!?この声は!」
声のする方を向くと、さっき倒したはずのカイナが立っていた。
「ほお、倒したと思ってたんだが……あの状態から再生したのか」
『キ様らを倒スまで、死ねンのだ!』
「じゃあ、もう一発だな」
クドウがそう言った次の瞬間、すでにカイナの姿は無く、『ドゴオオオオォォォォン!』という爆発音が遅れて聞こえた。
「確実に捉えた。あの状態から再生なんて不可能だと思うが……」
しかし、5秒ほど経つと、カイナの体は完璧な状態に再生していた。
「さすがは『魔王軍幹部』か。今まで倒してきたモンスターとは全然違うみたいだな」
『オオオおお!ちカラが……力が……溢レテくる……!』
……なにかおかしい。
カイナの能力の『自動回復』って、爆発四散した状態からでも復活できる能力だったっけ?
「ステータス」
疑問に思った俺は試しに、もう一度ステータスを見ようとした。
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名前【カイナ・ヴィルドラド】
種族【不滅の王】
職業【魔王軍幹部】
レベル【257】
物理攻撃力:5745
防御力:6902
魔法攻撃力:5371
魔法抵抗力:4545
知力:2594
素早さ:3557
魔力:5810
能力 【不滅】効果発動:永続 ランク【SS】
体がダメージを受けたとき、ダメージを受ける前の状態に体の時間を
巻き戻す。
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な、なん……だと……!
全く違うモンスターになってるじゃないか!
しかも、ダメージを受ける前の状態に巻き戻すって、永遠に再生するってことか!?
「くそッ、コイツ、いくらでも蘇ってきやがる!」
『アアあアあアア暴レ足りンぞオオぁアアアアッ!』
無限に蘇ってくるカイナに、ワンパン男は苦戦していた。
そりゃそうだろ。ワンパンで倒すことがあいつの取り柄なのに、倒しても蘇ってくるんだから。
「くそッ、何だコイツ!?斬っても斬っても再生してるぞ!?」
マコトが何度も斬りかかるが、気づいたときにはもう元通りになっている。
「ダメだ!そいつは何度ダメージを与えても、ダメージを受ける前の状態に巻き戻るんだ!」
「何だって!?それじゃあ、永遠に倒せないってことか!?」
ひたすら殴り続けるクドウと、ひたすら斬り続けるマコト。それを支援する他の二人。
しかし、何度攻撃しても数秒後にはもとに戻ってしまう。
……待てよ?カイナの種族の『不滅の王』って、アンデッド系のモンスターなのか?
もしそうだとしたら……。
「イチかバチか、やってみるか!」
俺は、走り出した。
「お、おい!何するつもりなんだよ、リョウ!」
そして、さっきカイナが落ちた落とし穴に着いた。
俺は落とし穴の中に入って……。
「よっこらセッX!」
中に入っていた剣を外に放り投げた。
「よいしょッ……と!」
ジャンプして、穴の外に出る。
「くそッ!このッ!」
『ふはハハはハ!ドうシタどうシた?痛クもかユくもナいワ!』
尋常じゃない速さで斬りかかるマコト。しかし、何度斬っても再生してしまう。
「マコト!この剣を使え!」
マコトに向けて、剣を1本投げる。
「うわッ!危ないじゃないか!怪我したらどうするつもりだよ!?」
「怪我なんかしねぇだろ、ステータス高いんだから。その剣は『純銀の剣』といって、それで斬るとアンデッドモンスターは一定時間再生できなくなる!斬って斬って斬りまくれ!」
「本当かい!?ありがとう!」
そう言うと、マコトはカイナに向かって走っていき……。
「せやッ!!」
カイナに斬りつけた。
『グオおおおオオオッ!!ソ、その剣ハ……!サキほどの剣か!』
マコトは、そのまま目にも止まらぬ速さで斬り続ける。
『ぐアああああアあアアアッ!やメロおおおオおオオオおオおおッ!』
カイナの体が浄化され、どんどん小さくなっていく。
「これでトドメだあああああああッ!!」
マコトが最後の一撃をカイナに食らわせる。
『ぐおオオおおおオオオおおオオオオおおッ!!』
カイナの体が消えていく。
「や、やった……」
カイナの体が完全に消滅し、何秒経ってもカイナの体はもとに戻らなかった。
「今までの敵の中でいちばん手こずった相手だったな……」
「でも、リョウのこの剣のおかげで倒せたよ。リョウ、本当にありがとう」
「いや、いいんだよ。俺も、カイナにまさか第2形態があるとは思ってなかったからさ。アンタらが来てくれて助かったよ」
そう、本当に感謝している。
もし、あのまま俺一人で戦っていたら、俺は確実に死んでいただろう。
カイナは、俺のことを舐めていたと言ったが、それは俺も同じだった。
簡単に倒せると思っていた俺がバカだった。
俺は、こいつらに対して『ふざけるな、リア充ども!』と思ってカイナと戦うことを選んだが、その怒りはただの逆恨みだったみたいだ。
実際、こいつらは俺と同じように日本で死んで、転生して、運良くチートを貰えただけなんだからな。
俺とほとんど変わらない。
こうして改めて考えると、俺の『常識破壊』も悪い能力じゃないしな。
今回の戦いで、俺のこの能力がなかったら、カイナを倒すことはできなかっただろうし。
『金属を別の金属に変える』なんて、とても強い力だ。
「今回ばかりは、仲間で戦ったからこその勝利だろうな」
仲間……か。
「……そうだな」
仲間がいるのも、いいかもしれない。こいつらと、一緒に……。
このときまでは、そう考えていた。
一時でもそう考えてしまったことを、俺は後悔することとなった。
〜翌日 ギルドにて〜
「それでは、先日討伐された魔王軍幹部カイナ・ヴィルドラドの報酬金を授与したいと思います!」
お姉さんが、数枚の紙を持って言う。
あの紙は、いわば金券みたいなもので、指定された銀行に持っていけばその分のお金を引き出してもらえるものだ。
「ではまずは、クドウタイセイさん!」
「おう」
クドウは、前に出ると、お姉さんから紙を受け取る。
「次に、タカセヤスキさん!」
「はい」
タカセも、紙を受け取る。
「最後に、スズキタツヤさん!」
…………は?
『最後』?
「はい」
タツヤも、紙を受け取る。
「皆さん、討伐していただき、本当にありがとうございました!」
お姉さんが、3人に頭を下げる。
『ホント、スゲェよな。ここ最近の大物はみんなあいつらが倒してるぜ』
『ああ、全員化け物並に強いらしいぞ』
周りの冒険者が、3人について話し始める。
「それでは、これで授与を終わらせていただきます!」
………………。
「あの……お姉さん、ちょっと」
「あ、ハヤマさん。どうされました?」
「どうして、俺とマコトの分がないんですか?」
「え?どうしてあなたが?」
「いや、俺もカイナを倒すのに貢献したんですよ?マコトだって……」
「え?カイナを倒したのは、あの3人とマコトさんと聞いていますが……」
…………は?
「……それは、誰から聞いたんですか?」
「クドウさんですが?」
「………………」
驚愕のあまり、固まってしまう。
アイツが……?
「じゃあ、なんでマコトは報酬を受け取れないんですか?」
「マコトさんは、なぜか受け取りを拒否されてしまったんですよ……」
受け取りを……拒否……!?
「いやー、今回のもいい報酬だったなぁ」
「ほんとほんと、これで大金持ちだよ」
「おい!」
「……あ?」
目の前にいる、3人に声をかける。
「どういうことだよ……、『俺がカイナ討伐に何も貢献していない』ってギルドに申告したらしいじゃねぇか!」
「ああ、お前か。そのことについて、何も言ってなかったなぁ」
クドウはそう言うと、俺に近づいてきて……。
「おごッ!?」
俺の腹を殴った。
「普通に殴ると死ぬからな。軽く小突くくらいにしてやったよ」
あまりの痛みに、うずくまってしまう。
「が……ッ、は……ッ、な、何のつもりだ……!」
「お前に1億なんて大金はもったいねぇって言いたいんだけどなぁ」
「ふざ……ッ、けるな……ッ!今回の勝利は、俺の『純銀の剣』があったからだろ!」
「お前は、ただ剣を持っていただけだろ?そんなやつに渡してたまるかよ」
「でも、俺がいなかったら、今頃まだカイナは……」
そう、今頃……!
「生きていたって言いたいの?それなら、クドウがカイナを攻撃している間に倒す方法を考えていれば倒せたさ」
「それに、お前があの剣を持っていたのなら、お前がカイナに攻撃すればよかっただろ?なのに、お前はマコトに剣を渡した」
「つまり、君にあいつを倒すだけの力はない。だからこそ、マコトに任せた」
3人が、俺の秘密を暴いていく。
「お前、何の能力も持ってないんだろ?」
「は?そんなわけ……!」
「じゃあ、なんであのとき自分で戦おうとしなかったんだ!」
おかしい、何か引っかかる。
こいつらも、どうせ他人のステータスを見れるんだろ?それなのに……。
「そういうわけだ。お前は今回、何もしていない。ただ剣を持っていただけだけのやつに、俺らと同じ額の金が支払われて言い訳がねぇ!」
「だから、嘘の申告をしたんだ」
「ふざけんな!そんなことが許されるわけが……!」
「抵抗するのか?」
「何の能力も持って無いやつが、ボクたちに勝てるわけがないだろう?」
3人は振り返り、歩いて行く。
「待て!」
「死にたいのか?」
「なッ!?」
気がつくと、さっきまで向こうに歩いていっていたはずのクドウが、目の前にいた。
「次追ってきたら、殺すぞ」
体が、恐怖で固まってしまう。
「追ってくるなよ、忠告したからな」
そのまま、3人は去っていった。
「ちくしょう……。畜生が……!ちくしょうがあああああああッ!!」
「ちくしょう!あいつらめ……」
俺は、いま街の中をブラブラと歩いている。
あいつらに抵抗しても返り討ちに合うどころか、俺を本当に殺そうとするだろう。
ギルドに掛け合ったところで、まだ新人冒険者である俺の言い分より、ベテランのあいつらの言い分を信じるだろうし。
「俺に、勝ち目はなしかよ……」
ちくしょう……、俺にもっと力があれば……!
今に見ていろ……あいつらより強くなって、あいつらを逆に見下してやる!
「うおッ!?」
色々考えていて前を見ていなかったせいか、人とぶつかってしまう。
ぶつかった相手は、その衝撃のせいか、倒れてしまう。
「あ、すいません」
とっさに、謝る。
「…………」
しかし、相手は何の反応も示さない。
しかも、倒れたまま動かない。
「……あのー?」
相手は、フードを深くかぶりこんでいるため、表情が見えない。
「……ちょっと?」
フードを上げてみると……。
「ハアッ……、ハアッ……」
そこには、白銀の髪の少女がとても息苦しそうにしていた。
「え?いや、ちょっ」
ど、どうしたらいいんだ?
周りに誰か助けてくれそうな人がいないか見渡す。
すると、この少女が歩いてきた方向に、何個も赤い点があるのが見えた。
「まさか……ッ!」
持っていた剣で少女が被っている上着を切り裂く。
そこには、服が血でベッタリとくっついた姿の少女がいた。
「まずい……!急いで処置しないと!」
上着を脱ぎ、剣で切り裂く。
「体に巻き付けて……!」
それを、少女の血が広がっている部分に強く巻きつける。
これで止血できたらいいんだが……!
「急がないと……!」
「ブリーフ!」
「だから、その名前で呼ぶなって何度言えば……ッ!?」
ブリーフは俺が抱えている少女を見ると驚愕した表情をした。
「え、その子は一体……?」
「街でぶつかった子なんだけど、ケガをしているみたいで、大量に出血してるんだ!ブリーフ、あんた元医者って言ってたよな?頼む、この子を助けてくれ!」
「なんだって!?今すぐ輸血と手術室の準備を!」
そう言うと、ブリーフは店の奥へ入っていった。
俺の腕の中で苦しそうに呼吸する少女。
「大丈夫。必ず、助けるから……!」
次話は、また数日後に出すつもりです。不定期の更新となってしまい、本当に申し訳なく思います。かなり忙しく、書き進められる速度が日によって違うので、何日もかかってしまっています。この作品を読んでくれている皆様には、ご迷惑をおかけしますが、私としても、なるべく早く出せるように心がけますので、ご理解いただけるとうれしいです。