第2話 とにかく色々デカかった
「落ち着け、冷静に考えるんだ」
起きたら俺は見知らぬ森のなかにいた。
俺の記憶では、あの女の子を庇ったあと、救急車で運ばれたはず……。今、俺は病院にいるはずだ。なのに、未知の森に迷い込んでいる。
少し歩くと、森の外に簡単に出られた。そこには、広大な草原が広がっていた。
「……本当にここどこだよ、日本かどうかもわからないぞ」
遠くには、カエルのような生き物が蛇のような生き物と対面しているのが見える。
そして、カエルは口を開けると、その蛇を飲み込んだ。
「……は?」
カエルって蛇を食べるっけ?ていうか、あのカエルから俺って結構離れてるはずなのに、あのカエル大型犬くらいの大きさに見えるんだけど……。
そうこう考えていると……。
『ボウッ』
そのカエルが火を吹いた。
「…………」
おかしい、明らかにおかしい。
俺の世界のカエルは火なんて吹かない生き物のはずだ。と言うより、火を吹く生き物なんて地球上にいない。
何だここは。一体ここはどこなんだ。
すると、ふいにある記憶が頭のなかに蘇ってきた。
『この世界でのおつとめ、ご苦労様でした』
『あなたを異世界に転生させてあげます!』
『それでは、いってらっしゃい!』
あの夢の記憶だ。
いや、まさか、そんなことあり得るのか?もし俺の考えが正しければ……。
『ガサガサッ』
突然、遠くの草むらから音が聞こえた。
『ガサッ』
そして、音の原因が草むらから飛び出してきた。
それは、生き物なのだろう、丸い体をしていてプルプルと震えている。
体は青色で透き通っていて、その生き物の後ろにある草が透けて見える。まるでゼリーのような……。
「……スライムだ」
そう、スライムである。
それ以上でもそれ以下でもない、スライムである。
「……まさか、あの夢は本当のことだったのか!?」
スライムなんて生き物は俺の世界には存在しない。
ファンタジーの世界にのみ生息しているモンスターだ。
ファンタジーの世界、つまりそれは異世界だ。
ということは、俺は本当に異世界に来たことになる!
「よっしゃああああああああッッ!!」
マジかよ!?憧れの異世界に来たんだ!
え、俺これから魔法とか使ってモンスターと戦ったり魔王と戦ったりすんの?マジかよ!
「あ、そうだ、異世界に転生したなら、なにか『チート能力』をもらうはずだよな」
異世界転生ものの主人公のほとんどが何かしらの特殊な力を持って転生する。
固有の能力だったり、最強の装備だったり。
「俺の『チート』はなんだろう」
異世界に来たのなら、自分の能力くらい知っておかないとダメだよな。でもどうやって……。
「ステータスッ!」
試しに叫んでみる。
【淫乱パンツ無双】では、異世界に来た主人公がこの言葉を言えば主人公の目の前にステータスが現れる。
まあ、こんな簡単なことでステータスが見れるとは思わないけど。
『ブゥン』
「…………本当に出てきちゃったよ」
目の前に半透明の板のようなものが現れた。
早速、書かれてあることを読んでいく。
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名前【ハヤマ リョウ】
職業【未設定】
レベル【1】
物理攻撃力【C】:20
防御力【D】:15
魔法攻撃力【C】:20
魔法抵抗力【D】:15
知力【A】:30
素早さ【C】:20
魔力【C】:20
能力 【常識破壊】効果発動:永続 ランク【SS】
【地図】効果発動:任意 ランク【C】
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「おお、すげぇ、ちゃんとステータスだ」
知力【A】って結構高いんじゃないか?フッ、俺の頭の良さが証明されたか。
まあ、他は普通みたいだけど。
「あ、この【SS】ってまさか」
明らかにランクの高い能力が1つ。これが俺の『チート』か。
「【常識破壊】?なんだそれ」
破壊って書いてあるから何かしら破壊する能力ってことはわかるけど、常識を破壊するってどういうことだ?
そうして考えていると、急に視界が暗くなった。不思議に思って、顔を上げてみると……。
「……すごく……大きいです……」
そこには、あのカエルが俺を見下ろしていた。
「……………」
『……………』
見つめ合う俺とカエル。
俺は足元にあった石を拾って……。
「そぉいッ!」
遠くへ向けて投げた。
『ガツッ』
投げた石が岩にぶつかって鈍い音がする。カエルがその音に気づき、音のした方を向く。
「うおおおおおおおおおおおッッ!!」
それを見た俺は、ダッシュで逃げ出した。
「ハアッ、ハアッ……」
あ、危なかった……。
あの後俺は、振り返らずにひたすら走り続けた。
その結果、なんとか逃げ切ることができた。
体中がドロドロのカエル臭のする生臭い粘液だらけな気がするが気のせいだろう。
「地図ッ!」
これは、俺の能力の1つの『地図』だ。
自分の現在地と、その周り50キロ圏内にあるものが調べられる。
この『地図』で俺は近くの街を調べてそこへ向けて走った。
「やっと着いたぞ……」
今俺はある街の前に来ている。街の名前は『タンタル』、地図には『始まりの街 タンタル』と書かれてある。
始まりの街って言うくらいだから、たぶん初心者が最初に訪れる街なんだろう。
「とりあえずギルドに行かないと」
ギルドに行って職業の登録をしなくちゃな。異世界に来て主人公が最優先にすることの1つだ。
俺はまだ職業が未設定だから絶対にしなければならない。
「ここがギルドか……」
色んな人に聞いて回って、やっと着いた。
この世界が、日本語が通じる世界でよかった……。
人に会うたびに奇異の目で見られたが、カエルに食われたと説明したら納得してくれた。
早速中に入ると中は大勢の人で賑わっていた。
「さて、冒険者登録をする場所は……」
少し離れたところに『冒険者登録』と書かれたカウンターを見つける。
「お、あれだ。すみませーん」
「はい、冒険者登録をしにこられたんですか」
「はい、そうです」
カウンターには巨乳の美人のお姉さんがいた。
デカイ。E、いやFくらいあるか?
「分かりました。それでは、この石版に手を置いてください」
「あ、はい」
言われたとおり、俺は彼女が出した石版に手を置いた。
「はいはい、なるほど知力が高いですね。他の能力は大方普通ですね。このステータスですと魔法を使える職業がおすすめです。なにか、ご希望の職業はありますか?」
「あ、えーと『魔法剣士』って職業にありますか?」
「はい、ありますよ」
「じゃあそれで!」
俺が『魔法剣士』を選んだことにはもちろん意味がある。
この職業は文字通り魔法も剣も使える『魔法使い』と『剣士』を両立した職業だ。
魔法が使える世界なら魔法を使うのは当たり前だし、どうせなら剣も使ってみたい。そんな俺の願いをどちらも叶えられるまさに『天職』がこの職業だ。
「はい、かしこまりました。では、登録完了の証としてこちらのプレートをお受け取りください」
そう言うと、彼女は一枚の板を差し出してきた。
「これは……?」
「冒険者さんのランクを表すプレートです。今のあなたはまだ初心者ですので、一番ランクの低い『白』のプレートですね。クエストをクリアしたり、モンスターを倒したりしてポイントが貯まると、ランクが上がります」
「なるほど、分かりました」
「では、これにて登録完了です」
「ありがとうございました」
「よし、早速クエストをしなくちゃ」
クエストをクリアすれば金がもらえる。
まず、金を手に入れなくちゃ話にならない。食べ物も買えないし、住むところも手に入らない。
なにより、戦うための武器が手に入らない。
俺は今、戦うためにギルドから剣を1本借りている。
受けたクエストは【スライムの討伐】だ。スライム一匹につき報酬は500Gらしい。
「お、いたいた」
目の前に、スライムが一匹。草を食べているみたいだ。
「剣で倒すのもいいけど、魔法も使いたいよなぁ」
よし、人生最初の一匹は魔法で倒そう。
幸い、俺は魔法を覚えるのに必要なスキルポイントを持っている。
1つくらいなら覚えられるだろう。
早速『スキルカード』を取り出す。
このカードは、その魔法やスキルを覚えるのに必要なスキルポイントを持っていれば、覚えたいものの名前を押すことでそれが簡単に覚えられる。
俺は【ファイア】の文字を押した。
「よし、いくぜ!【ファイア】!」
ファイアは炎属性の下級魔法だ。スライム一体くらいならこの魔法で十分だろう。
そして、俺の【ファイア】を受けたスライムは……。
『パキキッ…………』
見事に凍りついた。
「…………」
俺が使った魔法は【ファイア】だ。本当なら、スライムは今頃燃え尽きているはず。
なのに、出てきた魔法は氷属性のもの。
「……ぐ、偶然だよな」
何かが原因でたまたま【ファイア】が炎から氷属性に変わったんだろう。
「あそこにもいるな」
また、少し離れたところにスライムがいた。
今度は剣で攻撃しよう。
「うおおおおおおおおおおおッッ!」
俺はスライムに飛びかかって……。
「うりゃッ!」
剣を振り下ろした。
『ビシャッ!』
次の瞬間には、スライムの体がはじけ飛んでいた。
そして……。
『バキバキバキッッ!!』
スライムの周りの地面にも大きな亀裂が入り、地面がへこんだ。
「…………」
あまりの光景に驚愕し、固まってしまう。
剣を振っただけで地面が割れてへこむなんてありえない。
ましてや、その剣を振ったのはただの高校生だぞ?
誰がなんと言おうと、これは異常だ。常識的にありえない。
ん?
『常識的にありえない』?
常識的に?
「まさか……ッ!」
そう、おそらくそのまさかだ。
「俺の【常識破壊】は『常識的にありえないことを起こす』、『常識』という概念をぶち壊す能力なのかッ!?」
次回は少し先の投稿になると思います。投稿が遅れてしまうことをこの作品の読者の皆さんに深くお詫びいたします。私も、なるべく早く投稿できるように善処しますので、よろしくお願いします。