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第13話 まな板女神

「ただいま」


「あ、リョウさん。おかえりなさい」


家に帰ると、セレンが迎えてくれた。





俺が魔王軍幹部のアグネス・トワイライトを倒してから、1ヵ月が経った。


俺は貰った報奨金で、町の近くの少し大きめの家を一軒購入した。


そこでセレンと2人で暮らしている。


「どうだ?ここでの生活はもう慣れたか?」


「はい!広いおへやに、最初はとまどいましたけど、今はもう大丈夫です!」


セレンが俺と生活を始めて7ヵ月、最初に出会った頃の面影はもう無くなっていた。


『部屋を上げる』と俺が言ったときに、とても戸惑っていたが、今では自分の部屋を楽しく使っているみたいだ。


身体も、最初はガリガリでとても見苦しかったが、今はふっくらとした普通の少女の体つきをしている。


「あ、あの……リョウさん……」


「ん?何?」


「じ、じつは……また服がきつくなってきていて……」


「ああ、また胸?」


「言わないでください!」


「ごめんごめん、お金渡すからアンナさんのお店で買ってきなよ」


そして、身体だけでなく胸もしっかりと成長していた。


俺と出会ったときなんてスモールAくらいだったはずなのに、この7ヵ月でDくらいまで成長していた。


あまりに成長が早いので、服を何枚買い換えたか分からない。


『成長期ってこんなに成長するものだったっけ?』と思うくらいだ。


「はい、これで足りるよな?」


「は、はい、足りますけど……ちょっと多いですよ?」


「余った分で、帰りにお菓子でも買うといいよ。確か、近所のケーキ屋で新作のやつが出てるって聞いたな」


「え、本当ですか!?このお金、自由に使っていいんですか!?」


「当たり前だよ」


「あ、ありがとうございます!それじゃ、行ってきます!」


セレンがウキウキとしながら外に出ていった。


よっぽど、ケーキが楽しみなんだろう。


「……はぁ」


最近、困ったことがある。


セレンとの付き合いだ。


俺は彼女のことを妹のように思っている。


もちろん、彼女も俺のことを実の兄のように慕ってくれている。


だが、あの胸のせいで、彼女を女として意識してしまう。


そりゃあ、俺も一端(いっぱし)の男だから、仕方ないけどさぁ。


やっぱ、こうムラムラきちゃうよなぁ。


「またエロ本でも借りに行くか」


俺は、このゆったりとした生活が好きだ。


魔王討伐とかはもう他の転生者に任せよう。


俺なんかより、マコトとかクドウみたいなチート持ちの方が絶対魔王を倒せる。


ゆったりとした人生を送ろうじゃないか。




「えっと、今日はトーマと、メジリタケが必要なんだっけ?」


俺は今、晩飯用の食材を購入するために、街の商店街に来ている。


「おばちゃん、このトーマとメジリタケをくれ」


「あいよ、いつもありがとうねぇ」


今日の晩飯当番は俺だ。


『トーマ』という名前の、見た目が完全にトマトのこの野菜を使ってトマトパスタでも作ろうかと思っている。




「さて、作るとしようか」


まず、買ってきたトーマとメジリタケ、余っていた野菜を取り出して切っていく。


鳥型モンスターのロードランナーの肉を細かく切ってフライパンに入れ、少量の油で炒める。


軽く火を通したら、切った野菜を入れて、トーマから作った自家製のケチャップを加える。


ここに色々なハーブや調味料を加える。


「んー、いい匂いだ」


『ええ、本当ですね。とってもいい匂いがします……』


「そうだろうそうだろう……ん?」


なんだ、今の声?


セレンの声じゃなかった。


聞き覚えがある声なんだけど……。


後ろを振り向くと……。


『久しぶりです。リョウさん』


見知らぬ女性が立っていた。


「…………」


固まる俺。


とりあえず落ち着こう。


「スゥゥゥゥゥ……ハァァァァァ……」


よし。


深呼吸して落ち着いた俺は。


「おまわりさあああん!!不法侵入者でええええす!!」


とりあえず警察を呼んだ。


『え!?いや、あの、ちょっと待って!?』


「ふざけんなテメェ!どっから入って来やがったんだこのやろう!」


『あの、私ですよ!私!分かりませんか!?』


「残念だが、俺はワタシワタシ詐欺が通用するような人間じゃないぞ」


『いや、そうじゃなくて!この声覚えてないですか!?』


……声?


「え?もしかして……女神様!?」


『そうです!女神テルです!』


なんと、その女は自分のことを女神テルと言ってきた。


改めて見ると、その体は純白の服で覆われ頭の上には謎のリングが浮かんでいる。


「マジかよ……本当に女神様か……」


『分かってくれましたか?』


「いやそりゃ頭の上にそんなものがあればねぇ……」


「このリングですか?これは神の頭の上にのみあるものなんですよ」


「へぇー……で、何しにここに来たんですか?」


『あ、暇だったのでちょっと様子を見に来ました』


「女神が勝手に下界に来ていいんですか?」


『別に大丈夫ですよ。体は天界にあるので多分バレませんし』


「え?体は天界にあるって……?」


『今ここには私の魂しかないんですよ』


え?


よく見てみると、テルの体は少し透けていて、向こうの壁が見える。


と言うことは……。


「幽霊?」


『違いますよ!幽霊なんかと一緒にしないでください!』


「どういう仕組みなんですか?幽体離脱(ゆうたいりだつ)か何かですか?」


『ピンポーン!その通りです!幽体離脱(ゆうたいりだつ)して魂は下界に、体は天界にある状態なんです』


「へぇー……」


幽体離脱なんて、非科学的なことまでできるのか。


さすが異世界って感じだな。


『だから、誰も私のことを(さわ)れませんし、私もこの世界の物には(さわ)れないんです』


「……じゃあ、試しに(さわ)ってみてもいいですか?」


少し興味が湧く。


見えるのに(さわ)れないなんて、特殊な機械とか仕組みでもない限りできないからな。


『いいですよ。ドーンとやっちゃってください!』


思いっきりやってもいいということだろう。


どうせ(さわ)れないのだから。


「本当にいいんですよね?」


『いいですって、やるなら早くしてくださいよ』


俺は手を伸ばして、女神テルの体に触れようとした。




「……ん?」


すると、何かに手が当たった。


(さわ)り心地はまるで絹のようだ。


感触は……硬い、そして平べったい。


そう、まるでまな板みたいな……。


『……な、ななな……!?』


よく見ると、俺の手はテルの胸部(きょうぶ)()れていた。


『何をしているんですかああああッッ!?』


「ぶべッ!?」


次の瞬間、俺は女神にビンタされていた。


「な、なにすんだよ……ってあれ?」


『あれ?なんで触れるんですか!?』


あのとき、なぜか俺の手はすり抜けることはなく、しっかりとテルの体に触れていた。


「さ……さぁ……?」


『さあ?じゃないですよ!男の人に……む、胸を触られるのなんて……初めてだったんですからね!どうしてくれるんですか!』


「胸?」


胸というより……。


「まない」


『何か言いましたかぁ?それ以上先は言わせませんよぉ?』


「ヒッ」


まな板と言おうとすると、テルは謎のオーラを出しながら満面の笑みでこちらを睨んできた。


「わ、悪かった……俺にできることならなんでもしますから許してください」


『それじゃあ、そうですね……』


しかし驚いたな。


魂に触れるなんてな。


もしかして、これも『常識破壊』の効果なのか?


『今回の件は保留にしましょう!また困ったときにあなたをコキ使えますからね……フッフッフ』


「お手柔らかに」


『……あと、今さらなんですけど……焦げてますよ?』


「え?あああああああッッ!?」


気がつくと、パスタの具から変なにおいがしていた。


野菜をどかすと、しっかりとフライパンの底が焦げついていた。


「あちゃー……参ったな。これは俺の分にして、セレン用にもう一回作るか」


『じゃあ私は帰りますね。魔王討伐頑張ってくださいね』


「まぁ考えておきます」


倒すとは言っていない。


『また会いましょう』


そう言うと、女神テルの姿が薄くなって、消えていった。


「……さて、セレン用にも作らないといけなくなったんだよな。急いでやらないと」


俺があたふたしていると。


『ピンポーン』


家のチャイムが鳴った。


「あれ?誰だろう」


玄関に向かう。


「はい、どちら様……」


「ああ、リョウ!よかった、ここにいたんだね」


そこには、マコトがいた。


「なんだ?何か用か?」


「ああそれなんだけど、クドウを見かけなかったかい?」


「いや?見てないけど」


「そうか……」


「どうしたんだよ、何かあったのか?」


「実は……」



この会話がまた俺に、来て欲しくないストーリーイベントを運んでくるのだった。

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