九限 ~ 難易度は「鬼」
結局、手っ取り早くも来いっていったから、授業が終わった瞬間、着替えずにコートへ向かう事にした。着いた所で、既に待っている女子生徒が一人。
「遅いっ!」
厳しい眼差しと、ビシッと手に持っているラケットでこっちへ指している。八島部長だ。
部長だが、何だかいつもと全然違う人みたいだ。
「一番で着くと言ったはずじゃないか」
「え、でも、まだ誰も来ていないんですよね?」
周りを見て、やっぱり誰もいない。みんなまだ着替え中だろうな。
だがそう言われたら、先輩は「むっ」とラケットの方向を半回転させ、自分の上半身(胸)を当たる。
「一番は?」
「せ、先輩、です」
そして再びこっちへ指す。
「じゃあ君は?」
「……二番、です」
「課題不合格。まあいい。それより」
先輩が腕を下げる。
何故か緊張する。先輩って、やっぱり部長だなーって感じか。
「ここは?」
「え? コートですが……?」
「服」
「あ、体操服持ってます」
やっぱ先に着替えた方がよかったかな? いやそりゃもっと遅くなるんじゃん。
「そこの倉庫、30秒」
「は、はっ」
スパルタって言う事なのか、これ。
焦りながらも倉庫に走って、迅速に着替える。そしてそこに置いてあるラケットに気付き、部長が待ってるトコに持ち出す。
「んっ、ギリギリだがセーフ。じゃ、始めるのだ」
「え、今すぐですか?」
「さっきのはウォームアップ。文句ある?」
「あ、いえ……」
サーブラインの後ろに行く部長。そうして、俺は斜め反対の角に向かう。
何故、今テニスをやるのかはよく分からないけど、部長を見たらどうでもよくなってた。ただやるだけだ。
そういや、明坂の時も同じようだったな。
「君からサーブ。腕を見せてやれ」
最初から厳しい戦い。続くと徐々に、珍しいボールが増えてくる。それは、敢えて難しいのとも、ポイントを決めるのとも限らず、むしろ、前へのロブとか、反撃の挑発のようなのが多い。だが、そんな長いやり取りこそが疲れる。
見せてやれって言ったから、なら思いっ切りやる。と言った所。
「30:0」
二ゲーム目に至り、部長のサーブにはスピンが入りすぎて、いいリターンが出来ない。部長も、明坂には劣らない。一ゲーム目のデュースで勝ったのも、ただ試されたからだろう。
ゲームが続いて、気が付いたら、いつの間にかもう部員達が来てる。