八限 〜 準備
「んー、なるほどねぇ。うん、分かった」
「何が、ですか?」
うんうんと何かに納得したように頷く先輩。
「そうだね……。神崎君。テニス自体には抵抗はないと、そう思っていいよね?」
「ええ、まぁ」
「じゃあ、明日放課後、手っ取り早くもコートに来て頂戴」
「はぁ……」
「絶対一番早くそこにいてね」
「いや、だから、あの――」
「その清千香ちゃんって子はこっちの従姉妹に何とかしてもらうから」
従姉妹?
「それにもう一つ。めぐみんに気付かれないようにね――」
「おい。今度は誰だ?」
「は?」
朝から何? 要平の意味分からん。
「お前、昨夜また別の女といただろ」
「見たかよ。てか声でっけえ」
明坂こっち見てるし。あーあ、また誤解してるだろ。
ん? そいや、何でンなの気にしてんだ?
「えー、だってちょいウラヤマだろ」
「ウラヤマなるモンねぇよ。つーか何もなかったよ」
「で、結局誰?」
「えー、まぁ。一応、うーちゃん先輩って言うんだけど……」
「えっ、もうあだ名段階!?」
「だから声でけえって」
本名思い出せないし。
「ほう。そいつに決めたんだぁ」
「なんか納得したような顔で言うな」
「なるほど、それであの狂ってる後輩ちゃんを追い払う事になるな」
「だから違うって。部長と用件の話」
「部長って、テニス部の?」
「ああ」
「何だ、結局明坂めぐみルート進んでんだ」
そんなの女子に聞かれたら嫌われるだろうな。よく知らんが。
昼休み。
要平とパン買って校庭で食う事になった。
「つーかよ、用件って何?」
「さぁ、放課後はすぐコートに来てほしいらしいが」
「コート? 体操服で?」
「あー、まずは着替えるか」
「でもさ、まだ入部してないだろ?」
「まぁな」
とは言え、ただ『コートに来て頂戴』で何のつもりか?
段々一勝負になる気がするが、何で急に?
「あっ、思い出した!」
「大声出すのってお前の趣味なのか」
「そうじゃなくて、テニス部の部長! 身長人並みで、オレンジ・ブラウンっぽい髪、常に肩まで下ろしてるだろ! いやぁー、忘れるとは」
「何だ、知ってるのか?」
「まぁ、ちょっとな。八島卯月、合ってるよな?」
あー、そんな名前だった気がする……。
「あいつはどうしたのか?」
「いやぁ、別に。ただ、覚悟しといた方がいいよ。あいつの性能を」
えぇー。
「そいやホントに見当たらないな、あのツインテ後輩ちゃん」
「先輩の従姉妹さんに何とかしてもらってるらしい」
「ああ、大城沙奈先生」
昨日の事を思い出す。