六限 〜 もはや有名人?
「先輩〜! 別にいいですけど、どうして逃げるんです〜」
「別によけりゃ何故追い掛けて来るんだよ!」
「べ、別にいいじゃないですか!」
「よくねえええ」
放課後、廊下。
また――いや、まだ花田日から逃走中。
そこら辺に『廊下に走るな』ってポスター見掛けた気がするが、今はそれどころじゃない。
「もうっ、止まって下さい、先輩っ……。別に痛くはしませんから」
「納得出来ねぇし。つーか、その口癖、何とか出来ないのかよ」
こいつ、全っ然ツンデレじゃねぇし。何でそんな喋り方するんだ?
「先輩が止まってくれるのなら、別に……」
「効かねぇぞ」
「えー」
花田日は倒れる寸前。見た目と同じか。
しかし、さっきの物運びのせいか、こっちまで結構疲れてる。もうどれくらい走ってんだ、俺ら?
廊下のそこにあった適当なドアを開けて、入って、一息床に座り、休む。
すると、教室より広い部屋にいる事に気付く。本棚もいっぱいだ。
ここ、図書室か。
「……」
あ、カウンターの後ろの図書委員の女子生徒がこっちを見てる。騒ぎすぎか。
その瞬間、ドアが開く。
「ここ――って」
「あの、花田日清千香さんですよね」
「うぇ?」
図書委員が立ち上がって、ドアにいる子に言う。
「えっとー?」
「確か、貴女に立入は禁止されました……よね?」
「ゲッ」
「えっと、出てもらわないと困りますので……」
「えぇ〜……?」
聞いた事によると、何とか出てもらった。こっちも助かる。
図書委員がこっちを見て『あぁ、分かるー』って表情か。どうやら、既に有名人だな、あいつ。
そういや、その図書委員、どっかで見たような気がするな。特に目立たない様子の子だから、気のせいかな。
暫く待って、15分程度か、特に何の騒ぎも起こらなかった。聞こえるのは、本棚の本を取り置き音やシャーペンの音。静かな図書室。
図書室の隅っこから立ち上がって、迷惑が帰ったのかを確かめようと思ったが、丁度今ここから出てる生徒が開けたドアの向こうに見えてきたのは、廊下に座って待ってるかの女子生徒だった。
まだいるのか。しつこいなぁ。図書委員に伝えて、何とかやってもらおうか。
そこで、逆に話し掛けられる。
「あの……まだ、いるのですね?」
「ん、ああ。そこに座ってるようだが」
「そう、ですか。どう、しましょう?」
「なんか、迷惑だ、とかは言えないのか?」
「廊下は中立地帯ですので……」
「はぁ……」
戦争なのか、これ?
「でもこんじゃ、近い内に出られそうにないな」
「えっと……一階の出口なら、どう……?」
「一階の?」
「そこ、図書室の一階と、二階を繋ぐ段階……」
「あ、マジで? 助かった! じゃ」
早速教えてもらった段階に向かう。
「あっ……また明日、神崎君」