二限 〜 テニスのエース
我が身に数多の視線。
目の前にフルスイングの用意終了で熱い視線で貫く少女。
そして……。
ダッ
「くっ!」
『40:0』
「まさかその程度じゃないでしょうね?」
繰り返す。どうやってこうなったんだよ……
――数分前。
「先週転校してきた、2年B組の神崎神羅です。よろしくお願いします」
「ふ〜ん、めぐみんと同じクラスね。それも運命か……」
また(要平みたいに)めんどくさそうなやつ。
「べ、別に運命とかじゃないから。偶然よ、偶然!」
「ニヤニヤ。あ、私? 八島卯月だよ。うーちゃん先輩と呼んでもいいよ?」
絶対呼ばないわ。それ。
てか、よくそんな奴が部長やってるな。
「で、1セットやってもらえないかな」
『ゲーム・セット・マッチ。明坂選手』
「そんな事ねぇ。まぁ」
なんだよ、そんな態度は。
「なんか、押し掛けてゴメンね」
「いや、別に……」
聞こえたかどうか、明坂は立ち去った。
表情も見えずに。
後を追うかを躊躇う最中、後ろから話し掛けられる。
「ふ〜ん、そう言う事ね。長い間だったよね。お疲れ」
「あの、なんか悪い事しました?」
「え? あぁ、めぐみんの事? んー、入部したらヒントあげるかな?」
えー、なんじゃそりゃ。
まぁ、断る理由はない。むしろ、中学の時に全国に出た事もあったし、入らない方がおかしいかも知れない。
でも、事情があって、前に通った高校、テニス部がない高校に入った。
他のスポーツを始める気はなかったし、そのせいで1年以上も筋肉維持をあまりしなかった。
流石にあの部長も気付いたんだろう。
「おい、何朝から困った顔してんだ、神羅?」
「んん? 別にー」
「いやいやしてるさ、分かんないのか?」
要平を聞き流し、目がクラスメイトの一人に止まる。
「……っ」
あ、気付いてそっぽ向いた。
「ん? ああーまさか明坂と喧嘩したとか?」
「そんな覚えはないが」
「じゃあ一勝負で負けたとか? エースとは言え期待し過ぎガチらしいぞ」
「エース?」
「ああ、テニス部のエース、明坂めぐみ。知らんかった?」
ああ、ヤケに強かった訳になるなぁ。
それじゃあ昨日の事は……?
「……」
「マジで完敗したかよ!?」
「完敗じゃねぇよ」
「1対3のセットだよ」