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『さぁ、貴様は贋作フェイク本物ブランドかァアアアアアアッ!? 亜人ミックス実力ポテンシャルを会場にィイイイイイイッ! オーナーのブレドラ様にィイイイイッ! 見せつけろォオオオオオオオオオオオオオオッ! 肉弾戦(ハードセッ×ス)ッッッッ! スタートォオオオオオオ!』


 少女がふわぁぁと欠伸をした。

 まるで洗面台に顔を洗いに行くかのように、のろのろと前進してくる。

 次の瞬間。

 僕は背中を殴打された。


「ッ……!」


 背中に少女の拳を感じる。痛みはないが、それなりに強く殴られたようだ。鈍い皮膚がわずかなダメージを感じ取っている。


 少女が再び距離を取り、スタッと着地した。今の一撃は様子見のジャブだったのだろうか。

 僕は少女の攻撃力を確かめる為、ステータス画面を開いた。


*~*~**~*~**~*~**~*~**~*~**~*~**~*~**~*~**~*~**~*~*

 Lv:40

 HP:24200/24500

 MP:13000/13000

 AT:168

 DF:10500

 AGT:2600

 SPC:岩壁盾(ガード)

*~*~**~*~**~*~**~*~**~*~**~*~**~*~**~*~**~*~**~*~*


「300も食らったのか……」


 たかが素手のパンチ一発で300も食らうとは、やはり超人は侮れないな。僕はカマキリの鎌を受けてもノーダメージだった。ギルドと戦った時だって4000程度しか食らわなかった。つまり、この少女のパンチ十三発は、かつて戦った弓使いの攻撃を真正面から受けるのに等しいということだ。


 冷静に分析しつつ、顔を上げると、少女の眠そうだったタレ目が、"信じられないものを見た"というようにパッチリ開いていた。

 なんだ……? なぜそんな表情をしてる……?


『な、な、な、なんとォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ! 亜人が桃穂モモホを挑発しているゥウウウウウッ! あれは噂に聞く”ステータスウィンドウ”というアイテムだろゥウウウウウッ! 戦闘中にステータスの確認ッッッッッッ! かつて超人をこれほど侮辱した男がいるだろうかァアアアアアアアアアアアッ! 彼がひき肉になる姿を見たくない者は、今すぐ会場から出た方がいいかもしれないィイイイイイイイイイイイイイッ!』


 会場がかつてないほどの絶叫に包まれた。期待以上の見世物を見ることができて、歓喜に震えているような声だ。さきほどまでのブーイングは九割以上消え、そのほとんどが僕を応援する声にかわっている。

 まさか、少女の攻撃力を知る為にとった行動が、これほど評価されるとは……。


「むっ」


 少女が頬を膨らませて、怒りを口にした。はっきりと『むっ』て言ったな……。子供っぽい。

 そんなことを考えていると、少女は再び目の前から消え、僕の首筋に回し蹴りを叩き込んできた。


 かなり強い衝撃だったが、ダメージを受けた感覚は薄い。おそらく、僕は喉から攻撃するタイプのアバターなので、攻撃を支える為、首は頑丈になっているのだろう。


『一体ッ! 一体ッ! 一体ィイイイイイッ! 我々は何を見ているのダロウかァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ! オーガを幾度となくダウンさせていた超人桃穂の攻撃を、無名の亜人が受け止め続けているゥウウウウウウウウウ!』


 会場の声援はもはやほとんどが僕に向けられていた。九十九連勝していた少女の記録を阻止するかもしれない。そんな期待感に膨らんでいるようだ。


 そろそろ僕の売名行為は十分だろう。少女を殴るつもりはないので、棄権しようか。

 そんなことを考えていると、少女が僕の腹の下に潜り込んできた。


「んっ」


 繰り出されたジャンピングアッパーを、僕は喉で受けた。体が浮き上がったが、大したダメージはない。少女は顎を狙っていたようだが、ギリギリで狙いを避けられた。

 上空で少女の腕を掴み、振り払う。


「むぅぅ」


 少女の頬が膨らんだ。どうやら怒っているようだ。

 少女は上空でクルクルと回ると、闘技場の淵に着地する。上空でも多少は動けるようだが、大きな方向転換はできないようだ。数メートル移動するのにあれほど大きな動作が必要になるのか。これはひょっとしたら、棄権しなくてもいいんじゃないか……?


『素晴らしいィイイイイイイイイイイイイ! 運動能力アクロバティックッッッッッッッッッッ! そういえばワタシ、土下座するの忘れてましたァアアアアアアアアアアアアアアアアア! 申し訳アリマセリーヌゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!』


 審判が会場に土下座しているが、会場は特に湧いていない。試合に集中しているようだ。

 そろそろ、本気を出そう。


「……ん」


 少女が僕の左脇腹を殴ってきた。その直後、真逆に移動した少女が僕の右脇腹を殴ってくる。

 常軌を逸した移動速度だ。防御系のアバターでなければ、あっという間にボロ雑巾になっていただろう。

 今のところ大したダメージは受けていないが、サンドバッグになっている理由もない。僕は闘技場の淵に移動して、少女の攻撃を待つ姿勢を取った。


 少女はこれまで僕の隙を突いて攻撃してきたが、闘技場の縁ギリギリにいれば、攻撃は正面からに絞られる。そして、少女の攻撃速度に僕は多少反応することができる。さらに、少女が空中でそれほど動けないことも知っている。一か八かの賭けになるが、上手くいけば少女を場外に引きずり出せるだろう。


 少女が目の前から消え、僕の懐に現れた。ドロップキックの体勢だ。場外を狙っているのはこの子も同じだったのか。僕の防御力に痺れを切らしたのだろうか。


「ん」

「引き分けだな」


 僕は少女の足を掴み、自ら(・・)後方へ飛んだ。

 少女の凄まじい蹴りの勢いで、僕の体は思いきり後方へ吹っ飛ぶ。その力は、僕の手から少女の足にも伝わる。


 グワォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!


 風を切る音が耳に心地いい。少女と二人で宙を舞いながら、場外へと吹っ飛ぶ。


 僕は客席に突っ込んで椅子を二つほど壊した。

 ダメージは無かった。客席がドッと湧き、近くにいた女性客から黄色い叫び声があがった。

 見上げると、少女は少し離れたところに立っていた。座席が壊れた様子はないので、上手く着地したのだろう。


 狙い通り、勝負を引き分けに持ち込むことができた。真白は"勝てたのに"と残念がるかもしれないが、僕としてはこの辺りが精いっぱいだ。それなりの成果をあげることができた。僕は最強の少女と互角に戦った亜人として認知されるはずだ。


『勝負の結果はァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ! 双方場外により、引き分け(イーブン)ッッッッッッッッッッッッッ! 面白い新人が現れたァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ! 今日、この日、この試合は、歴史として刻まれるに違いないィイイイッッッッッ! 今日、この日、この瞬間を目撃した貴方がたは、幸運中の幸運ッッッッッ! この出来事をッッッッッ! 否! 亜人が超人の九十九連勝を止めたこの奇跡をッ! 目撃し損ねた友人にッ! 家族にッ! 是非ともッ! 鼻高々に語ってくだサィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!』

『ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』


 会場は悲鳴、怒声、意味不明の叫び声で満たされた。あらゆる興奮の感情が、声となって円形の室内に轟いている。


 試合結果は引き分けという中途半端なものだったが、審判の煽りによって、客の大半は『いいものを見た』という気分になったようだ。僕と超人少女の桃穂には、多くの賛辞が投げかけられている。不思議な高揚感を感じながら、僕は少女を見上げる。


「君、少し聞きたいことがあるんだけど、この後話せないかな」

「……いいよ」

「じゃあ会場の外で」

「ん」


 短いやり取りを交わすと、あっという間に僕は人ごみに揉まれた。

 この中で真白と合流するのは難しそうだ。外に出てから合流しよう。

 会場の出口へ向かう。


 ふと、闘技場の最上部に、観客席全てを見渡せる小さな部屋があることに気づいた。

 VIPルームだろうか……あるいは監視室か……。


 よく見ると、室内から赤い皮膚の男が僕を見下ろしていた。皮膚はゴツゴツしていて、羽と尻尾がある。


 あれがオーナーのドラゴンか……?

 そう思ったときには、男は部屋の奥の方へ姿を消していた。


 このクラブハウスを管理している男。現地人殺しの疑いがある炎竜アバター。お前は気づいているだろうか。一人の亜人と人間が、お前の領域に侵入していることに。


 そして、このクラブハウスの構造上、さらに下の階がある可能性を感じていることに。


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