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 僕は真白を家に連れて帰り、自分が人間界から来た『プレイヤー』であること、ママの息子であること、ママが殺人プレイヤーを駆逐しようとしていることなどを説明した。


 真白は『自分の目で見たものしか信じへん』と言ってた通り、実際ママの目を見るとあっさり信じてくれた。僕は二人を会わせるきっかけになれたことを密かに喜んだ。


 真白は元々人間界について、ある程度知っていたらしい。僕らが彼らを知っているように、彼らも僕らを知っている。同等の知能を持っているのだから当然だろう。

 しかし、真白は僕とママの関係について、まだ本物の母子と思っている節がある。子作りのシステムについてママが話してくれるまで、この誤解を解くのは難しそうだ。


 ともあれ一通り話がつき、僕らは一緒に食卓を囲んだ。

 隣では女騎士モードからウサギモードに戻った真白が、葡萄酒をハイペースで飲んでいる。この世界では飲酒の年齢制限はないらしい。


「ほんでな、戦場でまたステータス画面開いとんねん。『何しとんねんっ!』思たけど、よう考えてみたらめっちゃ冷静やねんな。ほんで新しい技使いこなしてな、瞬殺や瞬殺。アバターのスペック高いんもええけど、立ち回りめっちゃスマートやねん。敵のぐるぐるしとるとこに大胆に突っ込んで、下から突き上げて、ガードが開いたところにバーって出してやな。めっちゃカッコよかったで。ほんま雑黒頼もしいわぁ」

「真白……飲みすぎじゃない……? 言葉のチョイスがちょっとおかしいぞ」

「何がおかしいねん? 全然酔ってへんよ。ウチは冷静やで。あ、このチーズ美味しそやなぁ。ウチチーズめっちゃ好きやわぁ。雑黒チーズ好き? 半分コせーへん?」

「……うん」


 半分に折られたスティック状のチーズを受け取る。

 真白は幸せそうな顔をすると、もう半分を小さな口でモグモグ食べ始めた。スティック野菜を食べるウサギのような可愛さがあるものの、一口で食べる量が少なくてなかなかチーズが減らない為、いつまでも肌色の棒状のモノを口に含んでモグモグしている少女という絵面になっている。


「で、真白はこれからどこか行くアテはあるの?」


 慌てて話題を振ると、真白は『んっ』とチーズを口から離した。チーズの先端が丸く溶けている。さらに真白の口元にはトロけた白い液状のモノがついていて、目のやり場に困る……。


「ちゃんとは決まってへんけど、候補は色々あるで。狩場の噂はそこら中にあんねん。今度は一人やけどな。ちゅーか、雑黒こそ飲みすぎやない? 顔赤いで」

「酒弱いんだよ」


 慌ててごまかし、赤ワインを一口飲む。


「なんで言うてるそばから飲んどんねん」


 真白がケラケラ笑いながら僕の肩を突っついた。関西風のツッコミではないんだな。異世界の住人だしな。

 ふと見ると、ママは僕らのやりとりをニヤニヤ眺めていた。


「二人は相性良さそうね」

「ほんまに?」

「ええ、息ピッタリよ。お似合いだと思うわ」

「ひゃー! 嬉しいわぁ。お母さんからお墨付きでてもうた。お似合いやて。雑黒ウチと結婚せーへん? ……あ、やっぱ今のなしな。こういうんは男から言うて欲しいわ。ウチも乙女やしなぁ」


 真白は本気なのか冗談なのかわからないトーンで言うと、心なしか顔を赤く染めて食事に戻った。

 僕は若干動揺しつつも、女子トークに流されそうな雰囲気を戻すべく、思っていたことを口にする。


「なぁ真白、もしこれからも狩場を潰してくなら、僕と一緒に行かないか?」

「え……?」

「……まぁ」


 真白とママが同時に食事の手を止めた。二人の視線が僕に集中する。


「僕はこれからも殺人プレイヤー達と戦っていくつもりだ。真白も目的は一緒だろ? それなら、一緒に戦うのもアリじゃないかな。真白は情報戦、僕は実戦闘、互いの得意分野を活かせる。僕はこの世界のことを知らないから、真白が一緒にいてくれると心強い。真白は戦闘を僕に任せれば安全だ。いざというときも、僕が真白を守る」

「雑黒……ホンマにええんか? ウチなんて戦闘力ゼロやで。頭だってそんなによくない。あんたみたいに強いんやったら、他にいくらでも優秀な参謀担当ゲットできるで……?」

「僕は真白は十分優秀だと思うよ。戦場での演技力と度胸には驚いた。嘘を見破れる力だって凄い。それに……真白が今日みたいに危険な橋を渡ってるなら、僕は真白を守りたい」

「雑黒……あんたほんま……男前やで……。そないなこと言われたら…………」


 真白は潤んだ瞳で僕を見上げた。その頬に一筋の涙が垂れる。真白は涙に気付くとハッとなり、小さな手で涙を拭った。


 やはり、真白はこれまで孤独に戦っていたのだろう。どれほど自分の演技力に自信があったとしても、戦闘力を持たずに敵と対峙するのは不安だったはずだ。その不安が今この瞬間、不意に溢れ出したのかもしれない。


「雑黒、さすが私の息子ね。私も賛成よ。二人は息ピッタリだったし、真白ちゃんになら雑黒を任せられるわ」

「お母さんまで……ありがとな……。アカン、こない泣くんウチのキャラやないのに……」


 真白は感情が揺れてもキャラを維持できるようだ。演技というより、人格変化といった方が近いかもしれない。寝ても覚めてもこの状態でいられるというのだから凄い。きっと作り物ではなく、本物の真白がたくさんいて、そのうちの一人がこのウサギアバターなのだろう。なんとなく僕はそう感じた。


 そんな真白が味方になってくれて、嬉しいと同時に心強い。僕の戦闘力では足りない部分を真白が補ってくれる。同時に、孤独に戦っていた真白を近くで守ることができる。僕が強くなるべき理由が一つ増えた。


「よろしく、真白」

「よろしくな、雑黒。ほんま頼りにしとるで」


 真白の手は小さくて温かかった。


「ふふっ、雑黒が可愛いパートナーを見つけてくれて嬉しいわ」


 ママがホクホクの笑顔でワインに口づける。パートナーというのは恋人という意味にも聞こえる。ママはたぶんわざと言ってるのだろう……。僕と真白は握った手を離すと、互いに若干目をそらした。


「でもね、雑黒。真白ちゃんと行く前に一度ログアウトして。現実世界の肉体を維持する為には、ちゃんと向こうでもご飯を食べないといけないわ。それに、他にもいくつかやることがあるの」

「わかった。明日一度ログアウトするよ」


 すっかり忘れていたが、現実世界の僕の肉体は無事なのだろうか。血まみれで僕の部屋に放置されているので、今頃親父か母さんが見つけて、大騒ぎしているかもしれない。救急車で病院に運ばれただろうか。


「私も一緒にログアウトするから。真白ちゃん、何かあったら私たちのことを起こして」

「うん、了解や。向こうの世界に帰るんやな。でも早く戻ってきてや。ウサギは寂しがりやねん」

「大丈夫、できるだけ早く帰るよ」


 真白の頭に軽くポンと手を置くと、真白は心なしか嬉しそうになった。Vの字になった口元が某ウサギキャラクターのXの口に似てる。


 その日から真白は家に泊まることになり、翌日、僕とママはレルガルドーオンラインからログアウトした。

 ログアウトボタンを押した直後、意識がスーッと抜けていき、柔らかい布団の上で目覚める。


 見知らぬ天井。十畳ほどの広い部屋だ。ベッドはダブルサイズで、お嬢様ベッドのようなヒラヒラがついている。家具は木製の椅子や棚など、レトロなものが多い。どれも高級感がある。窓は大きくて、白いカーテンの隙間から木を見下ろせる。三階くらいだろうか。庭がありそうだ。


 僕の家ではない。病院でもなさそうだ。豪華なお屋敷……まさか、怪の家ではないだろうな……?

 そんなことを考えていると、ノックの音が鳴り、部屋の扉から一人の少女が現れた。


 中学生くらいに見える。十三歳くらいだろうか。長く艶やかな黒髪がお嬢様っぽい雰囲気だ。顔立ちは可愛いと美人の中間くらいで、女優と言われても納得するほど整っている。将来美女になることは確実だろう。


「君は誰……?」

「わからないの? 私よ」

「いや、君みたいなお嬢様の知り合いはいないよ」

「ふふっ、鋭いと思ってたのに、こういうときは鈍いのね」

「ん……?」


 年下らしからぬ色気のある表情にドキリとした。どこかで見たことがある。口調にも聞き覚えがある。しかし、あと一歩のところで思い出せない。


 美少女は僕に近づいてくると、ベッドに座り、顔を近づけてきた。近くで見ると、黒い瞳は吸い込まれそうなほど魅力的だ。

 動揺している僕に、美少女はいたずらな表情で微笑んだ。


「ではあらためて。初めまして雑黒。この世界でも私のことは"ママ"って呼んでね」


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