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外へ出た僕は、当てもなく歩きながら周囲に耳を澄ませた。
何か聞こえないか……。ヒントはないか……。
わずかな音も聞き漏らさないように意識を傾ける。
細かな音は聞こえるが、それが草木の揺れる音なのか、人の発する音なのかは区別できない。
そもそも真白は迂闊に音を出したりしないかもしれない。最初に遭ったときは背後から突然現れた。人間だとしても、音を殺すことくらいはできるのだろう。
となると……僕が真白を見つけるより、真白に僕を見つけてもらう方が簡単ではないだろうか。
大声を出せば、きっと真白は僕の声だと気付くだろう。もっとも手っ取り早く、確実な方法だ。
しかし、一つ問題がある。
殺人プレイヤー達の存在。
この辺りに殺人プレイヤー達が潜んでいるのなら、大声を出した僕を放っておくとは思えない。
やはりこの方法はリスクが高い。地道に足で探すしかないか……。
考えを巡らせながら、森の奥へ進んでいく。
紫色のサボテン、毛の生えたキノコ、不気味な植物がそこら中にある。おまけに視界が悪い。人探しには最悪のロケーションだ。
足の踏み場がほとんどない。禍々しい色の植物を何度か踏んでしまった。僕の足が頑丈でなかったら、ダメージを受けていたかもしれない。
ダメージを受けないとわかった為、歩き方は雑になっていく。
ザクザクと音を立てながら、道なき道を進み、広範囲を捜索する。
数十分経っただろうか。見つからない。これ以上無策で歩き回るのは危険だろうか。
そう思い立ち止まった時。
ふと、人の息遣いのようなものが聞こえた。
小さな音だった。聞き間違いかもしれない。
それでも念のため、音のした方へ向かう。
真白か、殺人プレイヤーか……あるいは、ただの聞き間違えか。
木の裏に回ろうと、一歩踏み出した瞬間。
「なんや雑黒。ウチのこと探しとったんか? さっきお別れしたばっかやろ」
木陰から出てきたのは真白だった。
明るいトーンの関西弁。
真白が無事だったことにホッとする。
「事情が変わったんだ。PKについてある人から詳しく聴いた。真白が人間だということも、現地人だということも知ってる」
だから、放っておけない。そういう意味で言ったつもりだった。
しかし、よく考えると僕の口調は意味深だったかもしれない。ちゃんと伝わっているだろうか。
「ほー、よう気づいたなぁ。ウチの擬態は完璧や思うとったのに……」
真白は心底関心した様子で、目をクリクリさせている。
感情表現が豊かで、警戒心が無さそうに見える。やっぱり真白を一人にしておくのは心配だ。
「真白、関心してる場合じゃないよ。PKをしてるやつらの目的は現地人だ」
「ほな、雑黒が私を助けてくれる言うんか?」
「ああ」
僕は真白に手を差し伸べる。
助けるというほど大げさなことはできないかもしれない。この辺りを狩場としている殺人プレイヤー達は僕よりも強いと真白がこぼしていた。戦闘になったら勝ち目はないだろう。
でも、真白を保護することはできる。家に連れて帰って、事情を聴いて、真白を安全な場所まで送り届けることはできる。
「おせっかいなやっちゃな……せやけど、せっかくやから甘えさせてもらうわ。雑黒、お前ええやっちゃな。おおきに」
真白は人懐こい笑みを浮かべて、僕の手を取った。
そして次の瞬間。
真白は反対の手から取り出した手錠のようなものを、僕の手首につけた。
「雑黒……その程度の演技で、ウチのこと騙せる思うたんか?」
「はっ……? 何を……」
手首に巻き付いていた手錠は、木に繋がれていた。
真白が手を離した瞬間、こげ茶色のワイヤーが収縮し、体が木へ引き寄せられた。
半身が木にぶつかり、右手の自由が利かなくなる。
「雑黒、悪いけどな。ウチあんたが”最悪の魔女”の隠れ家に入ってくとこ見とんねん。あんた魔女の仲間やったんやな。大方、魔女に言われてウチのこと殺しに来たんやろ?」
「違うっ……僕は君の味方だ! 君の言う"最悪の魔女"は、現地人を助ける為に戦ってるんだよ! この辺りを狩場にしてる連中を倒そうとしてるんだ!」
真白は僕の目を覗き込んだ。クリクリした目はよく見ると赤いレンズで覆われていた。
「せやったらウチの目見てみい。ウチな、嘘見破るのめっちゃ得意やねんで」
真白の息が顔にかかる。
近い……。
女子と至近距離で見つめ合ったことのない僕にとって、二重にも三重にも心臓に悪い。
敵だと疑われている上、体を拘束されている。近くに殺人プレイヤーが迫っている可能性もある。おまけにルックスの良い少女に見つめられている。様々な緊張感が重なり合って、心臓が破裂しそうなほど高鳴っている。
思わず目をそらしたくなるのをグッと堪えて、赤い瞳を見つめ返す。
「で、僕が嘘をついてるように見えるのか……?」
「見えへん」
「え……?」
真白はアッサリ言った。
少し離れると、首をひねる。可愛らしい小動物の仕草にそっくりだ。これで本当にウサギアバターではないのか。
「おっかしぃな。ウチのこと狩りに来た思うたんやけど、嘘ついてる目やあらへんな……」
「最初からそう言ってるだろう」
呆れつつも、真白の嘘を見破る能力が本物らしいことに驚いた。
目を見ただけでわかるのか……熟練の刑事みたいだな。
「あんた騙されとんちゃう? "最悪の魔女"の口車に乗せられて、いいように扱われてるだけなんちゃう?」
「そんなことないよ。あの魔女は君が思ってるより、僕と深い関係にある」
「自分で何言うてるかわかっとる……?」
ドン引きした表情の真白。
深い関係という言葉を別の意味にとったらしい。
「違うよ。そういうことじゃなくて、もっとプラトニックな関係というか……とにかく、魔女は君の敵じゃないんだよ。少なくとも僕はそう信じてる」
「うーん。ほな、あんたが信じてるいうんはウチも信じたる」
「曖昧な言い方だな」
「"最悪の魔女"のことは信じられへんよ。ウチは自分の目で見たもんしか信じへんねん」
真白は自分の目に絶対の自信を持っているようだ。だとしたら、これ以上言葉を重ねても無意味だろう。真白がママと面と向かって話す機会があれば疑いは晴れる。とりあえず今は、僕が味方だと信じてもらえれば、この場は丸く収まる。それで妥協しよう。
「じゃあ、これ外してくれよ」
「ああ……それな。アカン……やってもうたわ」
「おい。まさか外せないなんて言わないよな」
「外せへんことはあらへんねやけど……。スマン……それ切るん一時間くらいかかるわ」
「一時間!?」
そんなにのんびりしていて大丈夫だろうか。殺人プレイヤー達だけでなく、モンスターが現れる可能性もあるのに……。
「雑黒、静かにしとってくれ。声デカいで。ここ危険なエリアやねん」
「誰のせいだよ……」
「それはほんまスマンて。堪忍したってや……」
珍しくシュンとなる真白。意外と素直だ。




