優しさのゆくえ
お読み下さりありがとうございます。
この『優しさのゆくえ』は、今話を以て完結いたします。
彼の困惑した顔になかなか言いだせない。
私の気持ち。
「どういうこと?」
「これ、私の気持ちです」
私のこころは充分すぎるほどに。
一瞬、時間が止まったように感じた。
周りの雑踏も、もはや耳には入らない。そこは2人だけの空間となったのだ。
川崎さんは四角い包みを私にもう一度渡そうとして、私の手を掴んだ。
「ごめんなさい」
私は一生懸命手を振りほどこうとしたが、やはり男性の力には敵わない。
「どうして……」
ローズクォーツの包みを持ったまま川崎さんは、今にも泣き出しそうなほどの哀しげな顔を見せた。
「僕に悪いところがあったのなら直すから」
……辛い。
振られたことはないが、もしそんなことがあれば、きっと辛いだろうと想像はつく。哀しくて、哀しくて立ち直れないかもしれない。そう思うと川崎さんに申し訳ない気持ちで一杯になった。
頬に一条伝うのがわかった。
さよならをしようとしているのは、私の方なのに。
彼は何度も聞く。
「どうして」
理由は……ものすごく言いにくい。
私のこころは充分すぎるほどに疲れていたのだ。
クリスマスの魔法はいつの間にか解けていた。
「どうして」
このまま黙っているのは、彼に余計に申し訳ない気がしてひと言呟いた。
「もう少し……リードしてほしかった」
3歳年上の彼には、もっとリードしてほしかった。
哀しげな彼の顔をこれ以上見ているのは辛かったし、もうこれ以上は一緒にはいられないと、強く握った彼の手を一生懸命はずそうとした。でも、ますます力を入れる彼に思わず「痛い」と声が出る。
彼が一瞬力を緩めたスキに手を振りほどいて、私は駆けて行った。
人混みの中を一生懸命。涙が次から次から溢れてくる。
他人から見ればクリスマス・イヴにこんなに涙を流しながら走っている女子なんて、滑稽に決まっている。
でも、そんなことよりも以前とは違って、川崎さんが追いかけてこないように、ただそれだけを願いながら走り続けた。
やっとの思いで電車に乗り込み、ドアの前に立つ。
もう日は暮れて、ドアの硝子には涙で目をはらした、私だけの姿が映っている。
ああ、あの時の2人はお互いの鼓動を感じながら、硝子越しに見つめ合っていたなと思うと、また涙が零れていた。こんな顔で家に帰ったら皆心配するだろうな。どうしよう。少し頭を冷やして帰ろうか。
帰り道、あの川にかかっている橋の欄干にもたれかかって、川を、もう暗くて水の流れなんか見えない川をひとり眺めていた。
「桜花!」
急に名前を呼ばれてドキッとして振り返ると、そこには心配そうにこちらを見つめるひとり。
あまりにビックリしたので、涙を拭く余裕もなく振り返った。
「どうした!」
心配そうに聞く声に、事の次第を話した。
「桜花、お前なに泣いてんだよ。俺なんか振られたのにこうやって笑ってんだぜ。振ったお前が泣いててどうすんだよ」
「え、圭太振られちゃったの?」
手の甲で涙を拭きながら聞くと、ちょっと苦笑いを浮かべて圭太は答えた。
「ああ、もっと優しい人がいい、とかなんとか言われちゃったよ」
優しい人? 優しいってなに?
「ふうん。圭太は口は悪いけどホントはすっごく優しいのにね。彼女には伝わらなかったんだ」
「嬉しいね。そう言ってくれるのは桜花だけだよ」
「だからあの時ちょっと様子がおかしかったんだね」
「だからお前ももう泣くな」
そう言って、圭太は「よしよし」と私の頭をなでてくれた。
安心して、凄く優しい気持ちになれた。でも、余計に涙は溢れてきたけど。
優しさってなんだろう。人それぞれに違う。感じ方も違う。
求める優しさも違う。
私の求める『優しさ』は、川崎さんのそれとは違ったんだ。
そして圭太の彼女の求める『優しさ』は、圭太のそれとは違ったんだ。
それぞれにとっての『優しさのゆくえ』は、
その『優しさ』を求める相手といつか出逢うまで、
誰にも解らないものなのかもしれない。
完
『優しさのゆくえ』を、最後までお読み下さってありがとうございます。
今話を以て完結いたしました。
今後も『書き始めたら必ず完結する!』をモットーに執筆していきたいと思っております。
また、次回作で皆様にお会いできますことを切に願って、あとがきとさせていただきます。
36話お付き合い下さったことに、心から感謝いたします。
本当にありがとうございました!




