クリスマス・イヴ
誰もが幸せそうに微笑み合う『クリスマス・イヴ』
もうすぐ『クリスマス』。
私達の次のデートは……クリスマス・イヴ。
もうそれだけで待ち遠しい、クリスマス・イヴ。
『クリスマス・イヴ』
ただそれだけで……。
今日はクリスマス・イヴ。川崎さんとデートの約束。
いつものように私の家から1時間の大きなターミナルのコンコースで待ち合わせ。ちょっと、いや大分気が重い。
先週のるうちゃんとの一件があってから、いや、もしかしたらそれ以前から感じていた違和感。気にしたり、気にしないようにしてみたりと、いつももやもやしていたが昨夜はっきりと解った。
やっと決心した。
気持ちに変わりはないかと、何度も自分に問いかけてみたが、答えは変わらなかった。
自分がどうしたいのかハッキリ解った。
ついに決心した。
今日は夕方に待ち合わせて、夕ご飯を一緒に食べる予定。その後はまた、例の幻想的なイルミネーションのお花畑に行って、ロマンチックなイヴを過ごすつもりだ。
電車でターミナル駅に向かう間も、川崎さんと初めて出会ってからこれまでの、いろんな想い出がよみがえる。
合コン、電話、大学祭、初めてのお出かけ、デート。初めは警戒していたけれど、優しくってもの知りな川崎さんにだんだんと惹かれていった。
『優しさの鼓動』
そして初めての……。帰り道、スポットライトを浴びているかのように照らされて、目を細めた彼の優しい笑顔にまた『ドキン』として……。
それから気持ちのすれ違い、初めてのケンカ、るうちゃんのこと、ローズクォーツ、仲直り……。
たった2ヶ月の間に、あまりにも多くの出来事が私達に降りかかった。
たった2ヶ月、されど2ヶ月。私の心は充分すぎるほどに。
待ち合わせの10分前に着いた。川崎さんは先に待っていて私を見つけるなり、笑顔で手を振っている。
私も笑顔で応えたが、少し緊張している。
『クリスマス・イヴ』この夢のようなあったかい魔法のような季節。
行き交う人々は皆幸せそうに見える。
「お待たせ」
「僕も今きたところだよ。それにまだ待ち合わせの10分前だよ」
「そうだね」
「じゃ、行こうか」
そう言って私の手を取り歩き出そうとした川崎さん。
私はそこにとどまったまま、歩こうとしなかった。どこかに行ってからでもいいのだろうが、どうせなら少しでも早いほうがいいと思ったからだ。
「どうしたの?」
そう問いかける川崎さんに、バッグから小さな包みを取り出して手渡した。
「これ」
「なに、どうしたの?」
彼の困惑した顔になかなか言いだせない。
私の気持ち。
「どういうこと?」
「これ、私の気持ちです」
一瞬、時間が止まったように感じた。
周りの雑踏ももはや耳には入らない。そこは2人だけの空間となったのだ。
お読み下さりありがとうございました。
次話「優しさのゆくえ」で完結です。
どうぞよろしくお願いします。




