帰り際
相変わらず圭太は大人だ。
相変わらず大人な圭太に促され、つい弱音を吐いてしまった。
ふう、とため息をついて圭太は訝しげに腕組みをした。それから私の目をじっと見据えて問いかけてきた。
「好きなのか?」
「え」
「川崎さんのことだよ。好きなのか聞いてるんだ」
「そりゃ、好きだよ」
「じゃあ、そんな難しく考えなくていいんじゃないの?」
「そんなに単純じゃないんだよ。好きだけど、でも……。好きだからこそってとこかな」
「なんだそれ。女子って小難しいこと考えんだな」
確かに小難しく考えてしまっている。でもそれは仕方がない。だって、それが私なんだもん。
「小難しく考えて何が悪いの? それだけ真剣に向き合ってるってことよ」
「ふーん、そんなもんかねぇ。俺にはなんか逃げ道を作ってるようにしか思えねぇけどな」
「逃げ道?」
そうかもしれない。そう考えると、そうかもしれない。
「そうだ。このまま先へ進むのが怖いから、何か理由を作ってるだけじゃないのか?」
「先へ進む……」
「怖いのか?」
「怖いっていうより、不安……かな。よく考えたら私、川崎さんのことまだよく解っていないのかも」
「なるほどな。でも今は好きか嫌いか、何かあった時に許せるか許せないかだけでいいんじゃないか?」
「好きか嫌いか」
「うん」
「許せるか許せないか」
「そうだ」
好きか嫌いかで言ったら好き。許せるか許せないかは……正直解らない。
「もっと肩の力を抜けば?」
「そうだね」
「難しく頭で色々考えるんじゃなく、自分の気持ちのおもむくままでいいんじゃないかな」
「解った」
「またなんかあったら話くらい聞いてやるから、頑張れよ」
圭太の優しさが心に響いた。
その後は、チョコケーキをほおばり、ブラックコーヒーをいただきながら、またいつものようにたわいない話をしたり、冗談を言い合ったり……。
お店を出たら、圭太は家の前まで送ってくれた。
「桜花はちょっとクヨクヨ考えすぎるところはあるけど、性格もまあいいし、充分可愛いんだし、もっと自信持ってもいいと思うよ」
「え、珍しく褒めてくれるんだ」
「おう。じゃな」
そう言いながら軽く右手をあげ帰って行く圭太の後ろ姿を見送っていると、以前帰り際に真面目な面持ちで圭太に言われた言葉が、ふとよみがえった。
『お前さぁ、よく見ると結構可愛いよな。今まで気づかなかったけど』
『はぁ? それ褒めてんの?』
『まあな』
圭太とのこの心地良い関係がずっと続けばいいのにな、と漠然と思った。
お読み下さりありがとうございました。
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