ローズクォーツ
川崎さんからの思わぬプレゼントに戸惑いながらも、喜びはかくせない。
その人のことを考えながらプレゼントを選ぶ。これが似合うかな、こういうの好きかな、喜んでくれるかな……なんて考えながら選ぶ時間って、渡すときより好きかもしれない。
指輪をもらうのにまだ少し抵抗はあったけど、折角の好意を受け取ることにした。
「はめてみて」
そう言われて私は左手の中指にはめた。
右利きの私は指輪に傷をつけたくなかったから左手に。
薬指はまだいつか解らない、将来の大切な時のためにとっておきたいからあえて中指に。
小さな薄紅色の石がはめ込まれた指輪が、手の動きに合せて太陽光にキラキラと光る。
やっぱりちょっと嬉しいな。
「これはなんていう石?」
「ローズクォーツ。別名”ばら石英”とも言うんだよ」
「ふうん、そうなんだ。ピンク色が淡くて可愛いね」
「気に入ってくれた?」
「うん。ありがとう」
ローズクォーツ。川崎さんの話によると、”愛と優しさの象徴”とされていて、
バラ(ローズ)の故郷だとされている金星 (ヴィーナス)を象徴しているんだって。ヴィーナスは、愛と美の星だとかなんとか。
小難しいことは解らないけど、とりあえず淡いピンクが可愛いから、つい見とれてしまう。
そういえば、学祭の時も川崎さんはバラのことに詳しかったな。ストロベリーティーの時も。私の知らないことをたくさん知っていて教えてくれる。
それは川崎さんがもの知りだから? それとも年上だから?
私は川崎さんのどこが好きなんだろう。もの知りなとろ、年上だということ、眉をハの字にして笑う笑顔、それから、それから……優しいところ。
川崎さんは一体私のどこが好きなんだろう。聞いてみたいな。
でも、恥ずかしくってとても聞けない。でも、でも、でも聞いてみたい。
聞くなら今だ、今しかない。指輪をもらったこのタイミングしか。
頑張れ桜花! せーのっ。
「あ、あの、川崎さん」
「ん?」
あ、あんまり見つめないで。言い出しづらい。
「川崎さんは私のどこが好きなんですか?」
はぁ、とうとう言ってしまった。え、何? この沈黙。ううっ、耐えられない。
川崎さんは私の顔をジーッと見つめてひと言こう言った。満面の笑みと共に。
「全部!」
ああ、これほど恥ずかしいことはない。う、嬉しいけどくすぐったい。思わず顔がにやけてしまうのを悟られまいと、また心とは違う言葉を口走ってしまう。
「やだ、川崎さん冗談上手~い。どこかって言えないから、はぐらかしたんでしょう」
そう言って笑ってごまかした。
川崎さんの優しい笑顔が眩しい。
「じゃあ、そろそろ何か食べに行こうか」
そういえば、パンケーキがおあずけになったからちょっとおなかがすいてきたな。
「うん。おなかぺこぺこ」
川崎さんが差しだした右手に、淡いピンクで彩られた左手を重ね歩き出した。
お読み下さりありがとうございました。
次話「優しさの違い」もよろしくお願いします。




