意思の不通
友人の言った言葉が気になって、思いきって川崎さんに話してみたけど。
その返答はまさかの『そんなこと』。
私があれほど悩んでいたのに『そんなこと』だなんて……。男子と女子じゃ、やっぱり感じ方が違うのかな。
それとも……。
小さくため息をつき、うなだれた私に川崎さんは続けた。
「だってそうだろう。僕はその”るうちゃん”っていう名前を聞いても、誰のことかも解らなかったんだよ。そんな人とどうこうなる訳ないじゃないか」
「でも、もう誰だか解ったよね」
「だから?」
だから……って。察してほしい。私が何を言いたいか、何を言ってほしいのか察してほしい。
「だから……って。この先は解らないよね」
つい嫌な言い方をしてしまう。言ったあとで後悔してももう遅い。
困った顔で小さくため息をつき川崎さんは言った。
「桜花は僕のこと信用してないの?」
「……」
「前にも言ったよね。僕は誰にでもこんなことは言わないって。桜花以外の人にこんな気持ちになるわけがない。それはこれからもずっと変わらないよ」
「ホント?」
「うん」
ちょっと強い口調でそう言われて正直嬉しかったが、もう少し聞きたくて、ちょっぴり意地悪な言い方をしてしまった。
「でも世の中に絶対っていうことはないからね。先のことは誰にも解らないよ」
「そうだね、先のことは解らないね」
え……。思わぬ返答に少し動揺したが、もう引くに引けない。
「そうだよ!」
「本当だね、先のことは誰にも解らない。自分のことだって解らないからね」
「ホント、気持ちなんてコントロールできないんだから、思うようにはいかないのよ」
「それは仕方ないよ」
「そうでしょうね」
「だけどね……」
「もういいよ」
もういいよ。
「もう聞きたくない」
ああ、何言ってんだろう私。こんなこと言うつもりもなかったのに。ただ安心したかっただけなのに。
私の気持ちを汲み取って、優しい言葉をかけてほしかっただけなのに……。
自分で自分が嫌になって早くその場から離れたかった。
「もう帰る」
そう言って歩き出した。私の腕を掴んで引き留めようとする川崎さんの手を振りほどいて、ホームまで一気に駆けて行った。彼が追いかけて来ていることを願って。
恐る恐る振り返ったけど、そこには彼の姿はなかった。
それはそうだよね、自業自得。初めてのケンカ。
……ただ察してほしかっただけなのに。
優しい言葉をかけてほしかっただけなのに……。
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