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優しさのゆくえ  作者: 藤乃 澄乃
優しさのゆくえ 『それぞれの想い』
16/36

意思の不通

友人の言った言葉が気になって、思いきって川崎さんに話してみたけど。

その返答はまさかの『そんなこと』。

 私があれほど悩んでいたのに『そんなこと』だなんて……。男子と女子じゃ、やっぱり感じ方が違うのかな。

 それとも……。


 小さくため息をつき、うなだれた私に川崎さんは続けた。

「だってそうだろう。僕はその”るうちゃん”っていう名前を聞いても、誰のことかも解らなかったんだよ。そんな人とどうこうなる訳ないじゃないか」

「でも、もう誰だか解ったよね」

「だから?」


 だから……って。察してほしい。私が何を言いたいか、何を言ってほしいのか察してほしい。

「だから……って。この先は解らないよね」

 つい嫌な言い方をしてしまう。言ったあとで後悔してももう遅い。

 

 困った顔で小さくため息をつき川崎さんは言った。

桜花さくらは僕のこと信用してないの?」

「……」

「前にも言ったよね。僕は誰にでもこんなことは言わないって。桜花以外の人にこんな気持ちになるわけがない。それはこれからもずっと変わらないよ」

「ホント?」

「うん」

 

 ちょっと強い口調でそう言われて正直嬉しかったが、もう少し聞きたくて、ちょっぴり意地悪な言い方をしてしまった。

「でも世の中に絶対っていうことはないからね。先のことは誰にも解らないよ」

「そうだね、先のことは解らないね」

 

 え……。思わぬ返答に少し動揺したが、もう引くに引けない。

「そうだよ!」

「本当だね、先のことは誰にも解らない。自分のことだって解らないからね」

「ホント、気持ちなんてコントロールできないんだから、思うようにはいかないのよ」

「それは仕方ないよ」

「そうでしょうね」

 

「だけどね……」

「もういいよ」

 もういいよ。

「もう聞きたくない」

 ああ、何言ってんだろう私。こんなこと言うつもりもなかったのに。ただ安心したかっただけなのに。

 私の気持ちを汲み取って、優しい言葉をかけてほしかっただけなのに……。

 自分で自分が嫌になって早くその場から離れたかった。


「もう帰る」

 そう言って歩き出した。私の腕を掴んで引き留めようとする川崎さんの手を振りほどいて、ホームまで一気に駆けて行った。彼が追いかけて来ていることを願って。

 恐る恐る振り返ったけど、そこには彼の姿はなかった。

 それはそうだよね、自業自得。初めてのケンカ。



 ……ただ察してほしかっただけなのに。

 優しい言葉をかけてほしかっただけなのに……。



お読み下さりありがとうございました。


次話もよろしくお願いします。

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