『誰かが私を呼んでいる。』
眩しさの中に
大きく葉を広げ、緑のオアシスを
求めている盛夏です。
街をすっぽりと包んだ
灰色の雲が、
まるで大きな塊のように
動こうとしない。
闇を追いやり
空がぱっと明るくなる日は
指で数えるほど。
それでも、
じめっと肌に纏わりつくような
嫌な湿気は
季が夏だということを
からだに刻み込む。
無言で自然の恵みを受ける
大地のように、
生ぬるい空気に身を晒し
おどけて笑うピエロのように
夜がいつもその出番を待っている。
電子の川を流れる燈籠流しが
一つ、二つ、三つ、四つと火を灯す。
刺すような冷たい冬に
ひっそりと顔を出す白い花。
大地をすり抜けて、
やってくる春一番。
その生まれたばかりの春が、
ウインドーに額を押しつけ見つめる
ギャラリーに微笑む。
甘酸っぱい香りとともに
色とりどりに飾り付けられた
花たちが美しいリボンをかけられ
電子の海を游ぎだす。
白、紫、桃色の光の下で
風と遊ぶ葉の輝きを
悪戯に手折ることなかれ。
外界では___
自然が息を吹き返す時を、
沈黙の中で待っている。
雪を割って咲くスノードロップ
迷うことができるのも
一つの恵み。
[置かれた場所で咲きなさい]
渡辺和子著