「裏切りの鯖」
今回は読んだ後に必ず「後書き」を読んでいただくようお願いいたします。
塩を振って焼いた鯖。
ジクジクとしたままの皮に箸を刺し、身を取り出し食べる。
美味い。
味噌で煮た鯖。
ジューシーな鯖に負けない濃い味噌の汁と一緒に口へ運ぶ。
美味い。
竜田揚げにし大根おろしをかけた鯖。
少し脂っこい味わいを大根おろしで中和させ、食べる。
美味い。
刺身にし、九州醤油で食べる鯖。
酢で〆ず、甘い刺身醤油と合わせ口へ運ぶ。
美味い。
以上の様に鯖というのは大変素晴らしいものである。
いや、素晴らしいという言葉では足りない。
どんな五十音を組み合わせたとしても、その形容しがたき鯖の美味しさを表せないのだ。
僕は鯖を愛し、鯖もその美味しさをもって僕に答えてくれる。
……はずだった。
僕はある日、良く行く回転寿司店に来ていた。
全国チェーンの店ではないこの店は、安価ながらも地元の魚を美味しく出してくれる店だ。
代償としてマグロなどはレベルの低いものが出されるが、僕にとっては些細なことだ。
まず馬刺しの寿司を食べる。
チェーン店にはない、この店ならではのものだ。
馬刺しとお茶で胃袋を準備運動させたところで、メインディッシュだ。
鰯と鯵を頼む。
青魚こそがこの店の看板といって良い。
チェーン店の青魚より段違いに美味しい。
そして鯖。
ここでは酢〆されていない生鯖を出してくれる。
嬉しい。
ニヤつきそうになる顔を押さえ、醤油に漬け食べる。
ニヤつく。
あぁ、九州人で良かった。
そう思える。
結局僕はその日、鯖をもう一皿食べた。
そしてご機嫌な気分で家に着く。
お気に入りの海外ドラマを見てくつろいでいると、お腹が張ったような感じがする。
少し食べ過ぎてしまっただろうか。
そんな風に軽く流し、ドラマを見続ける。
だが……。
胃が苦しい。
顔には冷や汗が流れ、身体がかゆくなる。
それと吐き気が少し。
流石におかしいと思った僕は、シャワーを浴びることにした。
体調が良くないときには風呂やシャワーは避けた方が良いという人もいるが、僕は逆の意見だ。
体がスッキリしない状況でいるのは、精神的に良くない。
そう思って服を脱ぐ。
自分の体を見て、愕然とする。
腹部や首、脚の付け根に広がる赤い斑点。
自分の顔も酒を飲んでいないのに赤く染まっている。
蕁麻疹である。
僕にとって初めての体験、蕁麻疹。
故にそのインパクトは僕にとって凄まじいものだった。
焦る気持ちを落ち着かせ、シャワーを浴びる。
だが、身体を洗うために自分の体を触るとそのブツブツとした気味の悪さに冷や汗をかく。
その夜、僕の体調は良くならず痒さのため眠ることもできなかった。
結局朝方に眠って起きたら体調はほぼ戻っていた。
しかし、身体に残る赤い斑があれは夢ではなかったのだということを、僕に再確認させてくれた。
僕の中に一抹の不安が残る。
焦燥感に似た何かを感じつつ、その日は安静に過ごそう。
そう思っていた。
だが僕は確認したかった、あることを。
よくいくスーパーに行き、魚を買う。
一尾100円に満たない刺身用の鯵を。
それを捌き、叩く。
なめろうを、作った。
そしてそれを食べる。
いつもと変わらない味。
いつもと変わらない鯵。
だが、体はいつもと違うのだ。
いや、昨日と同じ体だ。
僕の体に再び広がる赤いブツブツ。
それは昨日より、ひどいものだった。
僕は変わってしまった。
青魚大好き人間から、青魚食べられない人間へと。
受け止めきれないショックが全身に流れる。
鯖は僕の愛を受け止めてくれなかった。
むしろ僕を傷つけた。
これからの人生を鯖無しで過ごす。
僕は、そんな絶望に打ちひしがれる。
これからの一生を光の無い、暗い部屋で過ごす。
外に出る活力もなく、動く気力もなく、ただ死を待つ生活。
そんな人生を歩む。
訳が無かった。
あれからしばらくたった今。
僕は再びあの回転寿司店に来ている。
そして食べるのだ鯖を。
2皿。
家に着けば蕁麻疹。
それがどうしたというのだ。
覚悟のうえで食べている。
つまり、鯖を食べる利益の方が蕁麻疹の苦しみより上回ったのだ。
神よ、貴殿に一つ申しおく。
蕁麻疹ごときで、僕の鯖への愛を止められると思うな。
結局生の青魚を食べたときに、時々発生する様でアレルギーではないようです。
もし、このようなことになった方がいましたら、直ぐにお医者様に相談されてください。
食物アレルギーは、下手すると死にます。
絶対にアレルギーを軽く見てはいけません。
加えて、身近にアレルギーを持つ方がいましたら絶対に無理をさせてはなりません。
アレルギーを持つ方に、該当するものを食べさせるのは殺人と同義です。
お忘れなきようお願いいたします。