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「やわやわうどん」

 

 うどん。


 白くて、つるつるして……、あの、なんか美味しいやつ。語彙力が足りなくなるほど、あまりにシンプルな日本を代表する麺類。

 そんなうどんは大きく分けて二種類ある。


 まず一つがコシタイプ。讃岐うどんがその代表である。

 噛むとしっかりと主張してくるコシの強さが、麺の存在感をこれでもかと訴えかけてくる。その人気は高く、なんとか製麺とかいうタイプの店舗はかなり増えた。


 一方もう一つのタイプは、やわやわタイプ。関西や九州にあるうどんが、このタイプである。前者が輝くのが冷やしならば、こちらは温かな汁と一緒にすることでその真価を発揮する。



 ここまで読んだ方は思うだろう。結局どっちがうまいのかと。



 これはやはり、コシタイプだろう。食べたときに感じる麺のインパクト。合わせる具材の豊富さによる選択肢の広さ。実際、讃岐うどんブームが今も続いている現状がその素晴らしさを物語っているのだ。

 結局やわやわタイプのうどんなど、一部地方でガラパゴス的に進化した産物に過ぎない。つまりは、讃岐うどんという強力な外来種に負けるために生まれた存在なのだ。

 こう書くと絶滅を危惧して「やわやわうどんを守ろう」という人も出てくるかもしれない。

 だが、これは必然的に起こった種の淘汰なのだ。

 弱肉強食。生物界だけでなく、料理界においても厳然たる摂理として働いている。

 ただそれだけなのだ。

 故に、人はやわやわうどんという足かせを外し、コシタイプのうどんへの進化を加速させるべきなのだ。



 ……そう思っていた。



 頭が痛い……。頭が痛いという表現では足りない。

 頭痛が痛い。それくらい今回の頭痛はひどいのだ。


 今日は一日ゆっくり寝ておこう。そう思うが、腹が空いている。


 なにか胃に入れなければキツイ状況である。それに薬を飲むためにも何か食べておいた方が良い。

 そう思い台所に向かう。あるのは昨日の残りの茹で鳥とその汁。あと椎茸。


 何を作るか。

 

 具合が悪いとはいえ、美味いものを食べたい。人の欲深さはもはや業であることを、実感させられる。

 冷凍庫を見ると、冷凍讃岐うどんがある。これはうれしい。


 冷凍うどんは非常にクオリティが高い。正直下手なカップ麺より、冷凍うどんで釜玉うどんを作った方が断然美味しい。そう断言できるほど、冷凍うどんは美味しい。

 美味しいのだが……。


 今日の気分ではない。


 今の体調では、あのコシが強い麺を想像しただけで不快に感じる。仕方がないので冷凍庫を閉じ、他を探す。するとスパゲティにまみれ、乾麺タイプのうどんを発見した。いつ買ったかは覚えてないが、賞味期限内だ。


 袋には博多うどんと書いてある。

 

 博多はうどん伝来の地と言われている。そして食にうるさい博多っ子も、非常にうどんを愛している。現地に行った人はわかるかもしれないが、うどん屋が多いのだ。個人的にはラーメン屋よりも多く感じた。


 だが、博多うどんはやわやわタイプの代表格。コシの無いふわふわとした、なんとも力の抜ける存在だ。コシタイプ派の私なら食べない。普段の私なら。


 今日は違った。やわらかいうどんが食べたい。

 いや、やーらかいうどんが食べたい。そう思った。


 うどんのゆで時間を見る。15分。

 長いわ!

 そう思うが、火のついた自分の欲求には逆らえない。



 鍋で湯を沸かしている間に、かけ汁を作る。昨日の茹で鳥を作った際にできた出汁に、めんつゆ、白出汁を適当な塩梅で混ぜる。さらに本命の茹で鳥に、薄切りの椎茸を加え煮る。調度お湯も沸騰したようなので、うどんを茹で始める。ここでの茹で時間は10分。あえて10分。

 吹きこぼれないように火加減を押さえておき、少しソファで休憩する。頭は痛いが、空腹がそれを上回る。詰め込むだけの飯ではなく、食事をしたいのだ。これくらい耐えなければ。

 10分経過した麺を引き上げ、煮汁に加える。そう、かけうどんではなく、煮込みうどん。それを作ろうとしているのだ。

 ここから5分。麺を規定通り茹でつつも、美味しい出汁を存分に吸わせるのだ。


 さらにここでネギ、それと……。たまご。


 だが普通に玉子をポチャンと入れるのもつまらない。砂糖を加え溶き卵にし、煮込みうどんに流しいれる。黄色い雲がふわりと汁に広がる。かきたま風煮込みうどんだ。


 ちょうど5分経ち、さっそく食べる。

 鍋敷きを置き、そこにうどんを置く。


 椀にとりわけすする。




 美味しい……。なんと優しく上品な味だろう。まるで聖母の様に、僕の体を労わってくる。

 この美味しさは讃岐うどんには出せない。むしろ今の状態で讃岐うどんを出されていたら、多分残していた。

 だが、このうどんは違う。柔らかく、優しく。啜るたびに体中を暖かさと美味しさが、ジンと広がる。

 啜るたびにもう一口、さらに一口と止まらない。


 椀を空にし、注ぎ、啜る。

 椀を空にし、注ぎ、啜る。

 ただ夢中に、その動作を一人行っていた。そして心地よい腹具合と共に、空になった鍋を見る。

 頭痛薬を呑み、一息ついたところで思う。



 やわやわうどんは美味しいのだと……。


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