1-2 ふざけあおうbyトーカ
お待たせしました!
続きです!
あー、頭痛がしてきた。仕方ないここはクッキーでも食べておこ……あれ?懐に入れておいたはずのクッキーがない。どこいった?まだ1つ残っていたはずなんだが……。
俺が消えたクッキーを探していると、何故かトーカがニヤニヤし出した。
俺はそれでピンと来た。
「トーカ?」
「何かな?」
「もしかしてお前……俺のオヤツ食べた?」
「モチノロン」
俺は無言でトーカの顔をグワシっと手で捕まえた。
「ぎゃああああ!!」
「トーカァ…てめぇいい加減にしろよ?」
「リーダーマジ容赦ない!!!あ、痛い痛っ!ごめんって……悪気しかなかったぎゃーー!!!!」
「なおさら悪いわぁぁぁ!!!!」
「ごめんなさぁあああい!!!反省はしませぇえええん!!」
「反省しろよぉぉおおおおこのド腐れエルフがぁぁぁああ!!!」
「…ナレコ」
「あぁ!?…あ、すまん」
トーカに制裁を決めている最中、華恋が話し掛けてきた。俺はトーカへの怒りに夢中でつい乱暴な口答えで返事をして、ばつが悪くなり謝る。
華恋のことだから、そんなに気にしないとは思うが……。
無表情でこちらを見る華恋。
ごめん。本当に悪かったって。だからそんな目で俺を見るな。
「あー……こほん。で、どうした?」
「……」
俺は取り繕うような咳払いをし、会話を促した。そんな俺をじーっと責めるようにも見えなくない無表情で華恋は少し眺めた。
咎めるようなそんな微妙に居心地の悪い沈黙に俺は冷や汗を掻くしかなかった。
うっ……華恋。そろそろ本題に入ってくれ。非常に居たたまれないから!
二人の間に沈黙が訪れている時、空気の読めない馬鹿が沈黙に耐えられなかったように会話に入ってきた。
「あうあぅ…。クッキー食べてごめんなんだよ。でも、美味しかったんだよ」
「もっぱつ食らいたいか?」
「嫌なんだよ!やるならあおねーさんにして!」
「俺を巻き込むなっ!」
アオネの悲鳴が響く。
アオネ。お前もついこの間までは「あおねーさん言うの止めろ!アオネ様と呼べ!」とか言っていたのに今やそれすら突っ込まなくなったな。
あと、トーカ。追い詰められると変わるその口調止めろ。キャラ崩壊ヤバイから。
「……そろそろ、いい?」
「……悪い華恋。話してくれ」
放置されて忘れられてるんじゃないかと不安になったのか華恋がいつもの感情の無い声で冷静に切り出した。
別に俺はお前のことを忘れてる訳じゃない。ただトーカがうざかっただけだ。
「……その…前、から」
「おう」
「…ゴブリン」
「ゴブリンが前からやって来るのか?」
「こく」
ごくわずかに頷く華恋。そして、何故か頬を赤く染める。
それを見て、華恋だなぁと俺は思う。華恋は歌姫だ。しかし、生来の人見知りなので、一定以上話すと恥ずかしくなって赤くなるのだ。
だから、コミュニケーションを取るのにかなり根気がいる。
職業歌姫なのに。
まあ、それも華恋らしいってことで。
俺は誉めるように頭を撫でる。
「そっかそっか。ゴブリンがこっちに来るのか。サンキューな華恋」
「…………ん」
相変わらず表情は薄いが少し嬉しそうな声が出ていたことから別に嫌いってことはないだろうと察した。
華恋もなー。アオネが言うようにもうちょい感情を出してくれてもいいんだけどなー。
「さてと、ゴブリンか。どのくらいの規模だ?それで判断しよう」
「……一匹」
一匹だけか……。よし、それなら……
「みんな迂回して逃げるぞ!」
「いや、正面突破でいいだろ!」
俺の決定に何故かアオネが突っ込んできた。
あれ?俺何かおかしなこと言ったか?
なんかアオネが信じられないみたいな顔で俺を見ているんだが…。
「ゴブリン一匹だけだろ…?なんでそんな雑魚一匹程度で迂回して逃げる必要があるんだ?」
は?なに言ってんのこいつ?
「ゴブリン一匹だけだよ?なんでわざわざ正面から戦わなきゃいけないんだ?」
「…クソリーダー、あんた雑魚ゴブリン一匹も正面からまともに倒せないほど弱いのか?」
「え、ナレコくんもしかして……」
「そんなわけあるか!ゴブリン一匹くらい俺でも倒せる!」
「なにムキになってやがんだクソリーダー?」
アオネが人を馬鹿にしたような顔して俺を罵倒してくる。
腹立つなその顔!ついでにトーカの信じられないみたいな顔もマジでウザい。
「それなら言わしてもらうが!お前、俺の不幸がゴブリン一匹現れるくらいで済むと思ってんのか!」
「それは流石に被害妄想過ぎるだろ。確かにクソリーダーはいつもおかしな事件に巻き込まれてるが。今更ゴブリン一匹程度で起きるトラブルってなんだよ」
アオネが呆れたように俺に言ってくる。
そう言われると確かにそんなにも無いように思えるけどよ。
「確かにナレコくんは笑っちゃうくらい巻き込まれてるよねー♪けらけら」
「トーカ?」ぐわっし
「すみませんでした!反省はしません!」
「反省しろ!」
「ぎゃーー!!!!」
「怖いぃ……」「……ぷい」
「シャロン、華恋待ってくれ!そんな目で俺を見ないでくれぇええ!!」
トーカの馬鹿エルフ!お前のせいで二人に嫌われちゃっただろうが!
どうしてくれんだ!
俺は更なる制裁をトーカに与えた。
トーカが「ギブギブ!マジギブ!まいったまいったから!反省はしないから止めて!」とか言ってるがそんなもんで今更やめる俺ではない。というかその台詞を聞いて止めると本当にトーカは思っているのか?
俺達がぎゃーすかやってるとアオネが呆れたようにため息をついて棍を持った。
「はぁ…。もう俺がサクッとゴブリン倒してやるからそのウザいコント止めろよ?じゃな」
「な、待てアオネ!行くんじゃない!」
俺はアオネの肩を持って止めた。
アオネはそんな俺に苛立っているのかかなり鋭い目付きで俺を睨んでくる。まるでヤクザの親分を前にしたかのような鋭い目付きだ。
「おい……たかがゴブリンだろ?お前より遥かに強い俺がゴブリンにやられるとでも思ってるのか?ああん!?」
「思ってねーよ」
「だろう?だから手を離せ」
「やだね」
俺とアオネの空気が険悪になる。
「離せって言ってんだよ」
「断る!」
「なに言ってんだクソリーダー!離せって!あぁああ離しやがれぇ!!!」
「絶対離さねぇ」
「別に死ににいくわけでもねえよ!そのくらい分かれよ!」
「お前はそのつもりでも俺はそうは思えないんだよ!」
「ちょっちょっと二人とも私のために喧嘩しないで」
「「黙れクソエルフ!!」」
「え、やだ本当に私のために争ってんの?やーん♪」
う、うぜぇ。殴りてぇ。心の思う存分蹴り倒して殴り倒したい!
とか思ってるとアオネがキレてトーカに脳天チョップを繰り出していた。
「はぅわーー!!」
「トーカマジでウザいトーカマジでウザいトーカマジでウザい」
ぺしこんぺしこんぺしこん。まるで木魚を叩くお坊さんのようにリズムよくトーカの頭を叩くアオネ。
アオネ……お前相当キレてんだな。顔が無表情なんだが。
しかし、トーカはこれだけやられてんのに反省する気がなかったようだ。
「痛い痛い痛いー!もー、恥ずかしいからって八つ当たりするのはよくないんだぞぷんぷん☆」
「うぜえ!トーカうぜえ!」
「トーカisウザい」
人差し指でわざわざ「ぷんぷん」のところを振ってウインクするその姿がマジでウザい!
このエルフ人をおちょくるのどんだけ上手いんだよ。
「こうなったらお姉さん的喧嘩両成敗をしちゃうぞ?」
「トーカみたいな奴に成敗出来るわけねぇだろうが!」
「そもそもトーカは成敗されるほうだろうが!」
「その答えは両成敗してもいいってことだね?」
なに嬉しそうにニヤニヤ笑ってんだこの駄エルフ!
俺と同じことを思ってるのかアオネは拳を固く握り始めた。
ああもう!本当にこの生意気顔ぶん殴りたいな!
俺達はトーカをぶん殴ろうと後ろに拳をまわした。
「「死ねクソエルフ!!」」
「死んでたまるかー!食らえ野郎共!お姉さん的喧嘩両成敗!」
「「ふごぉ!?!?」」
な、何が起きたんだ?
いつの間にか顔にしっとりして柔らかいなにかに当たってる。
背中にトーカの腕が回されているような感覚があることからトーカの言うのお姉さん的喧嘩両成敗ってのはまさか……って、その前に息が出来ん!
「おりゃおりゃー♪どうだーまいったか野郎共?」
「「ふごごごっっ!?!?」」じたばた
「あひゃ!?急に動か、きゃは!?ふ、ふ、ひゃははは!!くすぐったい!」
そこでやっと拘束が解け、離れることが出来た俺達。
息が出来てなかったからなのか恥ずかしかったからなのか俺もアオネも顔が赤い。
よく見たらトーカもなんか頬が赤い気がする。恥ずかしいならやるな!
俺が口を出そうとしたら開口一番でアオネがトーカに怒った。
「トーカ!てめえなにしやがんだ!」
「えー?女の子に抱きしめられて嬉しくなかったのー?ニヤニヤ」
「嬉しくなんかあるかぁ!!」
「そんな赤い顔で言われてもー」
「赤くない!」
トーカは全く意に返さなかった。こいつ神経どんだけ太いんだ。
そしてアオネ。お前トーカにやり込められてんぞ。
「トーカ、お前は俺らの邪魔をするな」
「やーだー」
「ぶん殴んぞ?」
「出来るかなー?かわゆいかわゆいナレコくーん?」
「殺るぞアオネ!」
「戦争だこの野郎!」
「私野郎じゃないもーん美少女エルフトーカちゃんだもん♪」
「「自分で美少女エルフとかマジうぜぇ!」」
俺達はトーカを殴ろうと躍起になった。しかし、トーカの奴は人を食ったような顔でひょいひょい攻撃を避けやがった!
あのドヤ顔すんげー腹が立つ!
さっきまでアイアンクロー食らってた間抜けとはとても思えない!
どう殺ってくれようかと考えていると華恋が近くにやって来た。
「……リーダー」
「はぁ……はぁ……な、なんだ?」
「……ゴブリン」
「ゴブリンがどうした?」
「……来た」
「……は?」
そこで、俺は華恋の声が震えているのに気付いた。
周りを見れば、シャロンが既に気絶していた。
トーカとアオネはまだ気付いてない。
俺は華恋の見る先を振り返った。
ああ、やっぱりか。
「お、おい、なんだよあれは……?」
「ゴブリン…なの?」
いつの間にかトーカとアオネが喧嘩を止めて、ゴブリンのいる方向を見ていた。
俺は華恋に指示を出しながら呟いた。
「小鬼の英雄……」
ゴブリンの中でも最上位クラスと言われたモンスターが大太刀を持って構えていた。