1-1 おかしなパーティー
「おーい。そろそろ行くぞー」
俺は6人の仲間達に声をかけた。
「わかったよーごしゅじんさまー」
「…これと………これを合わせれば…………何か出来るはず…」
「…………すやすや」
「俺に指図すんじゃねぇよ!」
「……………………こく」
「いいよいいよ。イコイコー!もうサイコーだね!ナレコ君!じゃんじゃん私たち引っ張ってくれるじゃん!いやー、ここまでよく旅が続いたねー。あれからいくつ経ったかなー(以下省略)」
俺の仲間は、小さい体躯の重戦士、実験に勤しむメイド、充電切れの激しい魔法使い、口の悪いヒーラー、寡黙な歌姫、マシンガントークをしてくるアサシンと、実に個性豊かな連中だ。
俺としてもこいつらといるのは楽しい。
「あー!うっせー!てめぇもう、黙れ!」
「いやー、黙らないよ♪これが私の存在意義みたいなもんだからねー。だーかーらー!どんどん話すよ、ばんばん話すよ♪今日の夜もはなしましょーね!あおねーさん!」
この二人、今日も元気だなー。
「おい止めろ!こっちくんな!手をわきわき動かしながらこっちくんじゃねぇ!」
「止めないよ?なぜなら楽しいから!ハーイ♪今日も私と遊びましょーねー♪うりうりー!」
「なっ…………うひゃひゃひゃひゃひゃ!!ひー!ひー!や、止めてくれー!」
あ、捕まった。そんでもって今日もアオネは、トーカのおもちゃにされるのか。しかし、トーカの奴もよく飽きないもんだなー。あんなに罵倒されてんのに、どんだけポジティバーなんだ。
…………さて、そろそろ俺達の紹介しようか。
今、目の前でくすぐられてめちゃくちゃ笑ってるやつは、アオネ。
種族は鬼人(鬼人については後で話す)。灰色の無駄に長い髪、寝不足なのか隈の出来ている人相の悪い目付き、痩せ細った体は、不健康な証、肌は所々で黒い痣が出来ており、背中には多くの傷が出来ているのを俺は知っている。
着ているものは、着崩してよれよれの黒いローブ、使い古されたズボン。履いているものは安物のスニーカー。首にはどうみても不似合いなクロスペンダントをつけている。
一応、ヒーラーなんだが、あの攻撃的な性格と毒舌のせいで、ここ以外のどこのパーティーも入れなくなった青年だ。
めんどくさがりで、口が悪くて、バカで、すぐ他人のせいにして、平気な顔して嘘付いて、恩着せがましくて、文句が多い本当にどうしようもないバカ野郎だ。
しかし、意外と面倒見が良く、不器用ながらも仲間を守ろうとしてくれていることを俺は知っている。しかもこんなバカの癖に案外女癖がないというのが驚きだ。
さて、そんなアオネをくすぐっているお喋り大好きお姉さんの名前はトーカ。種族はエルフ。容姿に恵まれており、肌はきめ細かい色白で、エメラルド輝きを放つロングヘア、海よりも深い藍色の濡れた大きな瞳は、見詰められると安心させてくれる。コロコロ変わる表情は彼女のチャームポイントだろう。デフォルトはもちろん笑顔である。ちなみに胸はそこそこでかい。
着ているものは、だぼっとした若草色のワンピース、少し短い青いスカート。履いているのは、それなりに値の張る革のブーツ。そして、色褪せた赤いリストバンドを右腕に着けていた。
トーカは、アサシンなのだが…………。なんというか、お喋りが大好きなのである。任務中でもついつい私語が出てしまうし、なんというかこいつは美人だからよく目立つ。あまりにもアサシンと合わないため、アサシンとしてはかなり未熟としか言いようがない。ただ本人は、そこのところをあまり気にしていない様子。このパーティーの中ではムードメイカーなお姉さんで通っている。悩んているときにこいつと話していると、その馬鹿馬鹿しさで悩んでいるのがアホらしくなるという謎の効果がある。そして、そのアホらしさのせいで色々と残念なことになっている。内のパーティーの残念美人1号である。
次に紹介するのはさっきからくいくいと俺の袖を引っ張る少女、シャロンちゃん。種族は獣人のタイプタイガー。フサフサのケモ耳は可愛く、ずっと触っていたくなるほど。赤い灼熱の髪とクリムゾンの瞳。珍しい赤色のタイガーなので、人から見ると他のタイガーと違ってその毛の色に違和感があるかもしれない。
その見た目から同族から追い出される過去を持つ。なお、顔は可愛い。
男として気になる胸の発育はというとそれなりに期待出来そうってことだ。
重戦士と言うことで、鎧を着せている…………わけじゃなく。何故かメイド服を着て、俺に世話を焼いてくる。ちなみに今の靴はスニーカーである。
性格は酷く従順で温厚。重戦士の癖に臆病で、戦いたがらない。
血を見ると倒れ、使い物にならなくなる。ケンカするのは苦手なので、ケンカになりそうになるとすぐに謝る。
防御力自体は高いのだが…………それがあまり活かせていないというのが現状だ。それでも、内のパーティーじゃ、特にそれを問題にする必要はないからいいんだけれどな。
「どうした?」
「舞花さん、気づいてくれないの。うるうる」
「あー…………また自分の世界にどっぷり浸かってるのかー」
一旦集中すると声をかけても気付かないメイドの名前は舞花さん。
種族はハイヒューマン。この中でもかなりの博識なのだが、どうにも周りが見えなくなる性格をしているため、声をかけても気付かないのだ。一応、メイドなので、色んなことが出来る。しかし、好奇心が旺盛過ぎる性格が災いして、頼んだことをほっぽりだして本能の赴くままにどっか行くことがあるのだ。
容姿は、シルバーのポニーテール、キラキラ光るオレンジ色の瞳、無駄にデカイ胸をしている。なんつーかこいつインドア気質であまり容姿に気を付けてないのに、意外とプロポーションがいいのだ。体全体としては、ぼん、きゅ、ぼんのグラマー。なんかもう色々残念な美人2号なのだ。
着ている服は当然ながらメイド服なのだが…………上に白衣を着ていることが多いため、なんか残念。本当に残念でならない。一直線過ぎる。空気読めない発言するのもいただけない。本当にどうしてメイドなのか甚だ不思議である。
「あー……舞花さんは…………、俺が後で声かけるから大丈夫だよ。ありがとねシャロン」
「ごめんなさい」
落ち込んだ顔をして謝ってくる。
俺は特に気にしてないことを伝える。
「謝んなくていいから。舞花はいつものことだし。大丈夫、気にしないで」
「…………力不足でごめんなさい」
それでも謝ってくる。
普段から素直でいい子なんだが…なー。
俺は少しテンションを上げて、オーバーな振る舞いをしてちょっと中二を拗らせた感じで声をかけた。
「フハハハハ!従僕シャロンよ!魔王ナレコの言葉をよくきけい!………今回はやり方がいけなかっただけだ……。さっき駄目だったなら次に活かす!あまり自分を責めるんじゃない。………分かったか!」
ババッ!カッ!みたいな感じのわざとらしい演技をしてみた。
シャロンは、俺のその様子に、ぽかんとしてちょっと困った顔をした。
やがて、はっ!みたいな顔をして、「は、はい!」と返事を返してくれた。…………いい子や。
「うん、もう大丈夫だな。よしよし」
頭をついつい撫でてしまうのは仕方ないと思うんだ。
「はぁー…………」
シャロンの気持ち良さそうな声が俺の耳に響く。
俺はその声を聞いて満足し、さらに頭を撫でた。
ふと、後ろを振り返る。
そこには、ピンクのショートボブの歌姫がいた。
彼女は何も言わずにただじっとその二対の黄色い瞳で俺を見詰めてくる。
何となく彼女からプレッシャーを感じる気がする。
俺は彼女の瞳を覗いてみる。彼女も俺の瞳を覗いているような気がする。彼女の瞳から困ったようなイメージが伝わる気がする。
「……………………」
「……………………」
何となく黙りこくる二人。何故か漂ってくる緊張感。BGMにアオネの悲痛な叫び声とトーカの笑い声が響いてくる。
やがて、俺は彼女の視線の意味に気づく。
「あ、もしかして、華恋も撫でて欲しかったの?」
「………………………………」
何となく照れているような気がするのは、気のせいではないはず。
俺は彼女の頭をもう片方の手で撫でた。
あ、さらさらやー。華恋は、いい髪してるわ。なんかふわっと、こうふさっとしてる。何となく弾力があって、そこがいい…………。
とか思ってたら、華恋がぼそっと俺の耳元で喋る。
「……………………ムーさん」
俺はそこで彼女が本当はどう言いたいのか気付いた。と同時に自分の大きな誤解に気づく。
「あ、ごめん!髪撫でちゃって…たはは」
俺は慌てて、笑いながら謝る。
本来なら笑いながら謝るなんて失礼もいいところだが、彼女の場合、真面目な顔して謝ったところで余計気まずくなるということを知っている。だから俺は空気を悪くしないために笑って謝らなくてはならないのだ。
「……………………」
彼女は何も言わない。が、何かを伝えようとしているのは分かる。彼女は寡黙ではあるが、声を出すのが苦手なだけだと俺は知っている。
だから、彼女が何を伝えたいのか分かるまで気長に待つことにしている。彼女と上手く付き合うコツは気長に待つことなのだ。
ええとええと…………みたいな感じで手をふらふらさせている。
これは、どうやって伝えようとしているのか分からないんだな?
…………しばし、手を迷わせた後、こう握り拳にグッと親指を上に向けた。どうやら、大丈夫だと言いたいらしい。
「おう、ありがとな」
そう声をかけると、こくっ、と頷いてくれた。この反応は俺の解釈が合っている証拠だな。
さて、ムーさん…………か。とりあえず起こしてやるかな。
………ってスッゲーよく寝てるんだけど…………。
この鮮やかな瑠璃色の髪をした居眠り魔法使いの名前はムータル。
かなりのマイペースさんで、よく寝ている姿が見られている。
魔法は、全種類使えるというから驚きだが、生来魔力が少ないせいですぐに疲れるらしい。
大体魔法を2、3発で撃つと充電切れする。
ここぞという集中力は極めて高いが普段の彼女を見ていると、そうでもないように見えるから驚きである。
なお、ムーさんは華恋におんぶされていることが多い。
今回は恐らく華恋がおんぶするのに疲れた(と思われる)ので、ムーさんを起こしてみることになったのだろう。
「…………そろそろ起きてくれないか?」
とりあえず、声をかけてみる。
彼女は、心地良さそうに寝ている。起きる気配はない。
「おーい」
ゆさゆさと肩を掴んで揺らしてみる。
ぐっすり寝ているのか起きる気配はない。
くっ…………この寝坊助め………いっこうに起きようとしやがらねぇ……。
仕方ない。悪戯でもして、起こしてやるかな。
俺は不気味な笑みを浮かべて、ムーさんに悪戯を敢行するべく急速に動いた。何故かムーさんの表情が強張っているような気がする。
む…こやつ夢の中でも、空気を読むことが出来るのか。なにげに凄いな。しかし、俺は止めない。堂々と悪戯出来る機会を逃す訳がない。だから、俺は彼女の背中をくすぐった。
ついーーー…。
指先で背中から腰へと下になぞる。瞬間ぞくぞくっと体を震わせるムーさん。しかし、起きない。ならばと今度は腰から肩へと指先をなぞらせた。
「くっ…………くふ…………」
耐えるように体を震わせるムーさん。しかしまだ寝ている。…寝ているのか?これ起きてんじゃないか?
「そろそろ寝たふり止めて起きろー。出発するぞー」
ぺちぺちと頬を叩く。しかし、寝る。狸寝入りを決め込むムーさん。
ふぅ、仕方ない…………か。俺は彼女の脇をくすぐった。
「わひゃひゃひゃひゃ!ちょっ!ひ、ひきょ!あひゃひゃひゃひゃひゃ!わかた!わかったから!あふふふふふ!けほけほっ!や…やめ…………てくひ、ひゃひゃひゃ!」
身をよじらせムーさん。最初からそうすればよかったんだよ。まったく。
息も絶え絶えにはあはあ言ってるムーさんを視界に収め、華恋にアイコンタンクトを送った。
華恋は、それに気づいて俺にアイコンタンクトを返した。
それを見て頷く俺。うん、これでよかったんだな。
そして、皆を改めて見る。
「そろそろ出発するぞ。準備は出来たか?」
「…………こく」
「いつでもオッケー!」
「出発の前にコイツをどうにかしてくれ!」
「大丈夫です」
「問題ない」
「はぁ…はぁ…。ちょっと待ってくれる?…………息が…はぁ」
その言葉にそれぞれの肯定の意を伝えてくる皆。
…うん、いつも通りだな。
「じゃ、行くか」
俺はそう締めくくった。
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癖の強い仲間!
戦乱に巻き込まれて行く一行!
異世界×冒険×ファンタジー物語。
始まり始まり~。
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「さて、次の町は…………と」
俺は地図を取りだし、次の町、「ティンバー」へと皆を誘導する。
「ナレコさーん♪まだ着かないんですかー?」
トーカがくるくる回りながら楽しそうに聞いてくる。
お前はなぜに回っている?というか、索敵はどうしたぁー!?
テンションの高さは相変わらずらしいが、ちゃんと役割果たせよ!
感覚系スキルの一つ、『サーチング』は、一定の範囲にいる魔物やモンスター、人間や亜人と言ったものまでを知ることが出来る一般スキルだ。このスキル自体はかなり使い勝手が良い上、大体の職業で覚えることが出来る。それに『サーチング』は、使えなければかなり冒険をするには不利になる。何せこのスキルを持っていなければ、何処から敵が来るのか分からず、奇襲を掛けられてしまう可能性が高いからだ。
だからこそ、トーカに索敵を頼んだのだが…………。
「トーカ、お前索敵はどうしたんだよ…」
俺は頭を抱え込みながら聞いた。
それに対しての彼女の返事は
「索敵するの疲れたから休む!」
「アホか!仕事しろ!」
このバカアサシンは…………。
俺の苦労を本当に知ろうとしないな!
ただでさえ、俺は事件とか騒動とかに巻き込まれやすいんだぞ!
それも人生の岐路に立たされる規模の奴をがな!
巻き込まれてもいいってか!
「やだー」
「やだーじゃねぇぇー!」
お前の自慢の長い耳をくすぐってやろうか!?ああ!?
「いいから仕事しろぉぉぉーーー!!」
「うるさい!」
「黙れ!クソリーダー!」
研究バカ(メイド)と口の悪い最低野郎に怒られた。
俺は悪くないのだが…………。
アサシンエルフさんは、その様子を見て爆笑していた。…うん、後で説教、確定な。
くいくいと袖を引っ張られた。
なにかと思って見ると我がパーティーの癒し系獣人の姿が…。
「ごしゅじんさま、とーかさんのかわりにわたしがさくてきをしましょうか?」
…………おい、トーカ聞いたか?この子お前の代わりを索敵するんだってさ。お前には持ったないくらい出来た少女だよ…。
俺は、シャロンの頭に手を置いた。
シャロンはそのことに戸惑いを見せて照れていた。
…普通に可愛い…かな?
「その気持ちはありがたいが…、シャロンがやる必要はないよ」
「ふぇ?な、なんでですか?」
「シャロンにやらせるくらいなら、俺がやるから」
不思議そうな顔するシャロン。そりゃそうだろう。
俺は今さっきまで『サーチング』を使っていて、MPがかなり減っているのだ。はっきり言ってこれ以上のスキル使用をすると、緊急時にMP切れを起こしかねない。だから、俺は休むべきなのだが………。
残念なことに俺はシャロンが『サーチング』のスキルを使用する危険について知っていた。
シャロンは元々獣人だからか、『サーチング』との相性が良い。たからこそ俺も最初の頃はシャロンにさせていた。が、シャロンのその臆病な性格が裏目に出たのか強力なモンスターの気配を察知して気を失ってしまうのだ。虎の亜人なのに、だ。つまり、シャロンに『サーチング』は余りにも向いていないのだ。
そんなわけで、シャロンに索敵をさせるわけにはいかないのである。
そんなことを考えていると横から残念美人1号さんの声がした。
「あれ~?私がやらなくてもいいの?やた!」
「いや、仕事してくれよ」
「嫌よ」
「即答すんなよ!」
彼女もさっきの話を聞いていたらしい。全く抜け目がない。
というか元はお前の仕事なんだからな!
「うーん、ナイスツッコミ♪さすがリーダー」
「リーダーで遊ぶんじゃありません」
感極まったようにふるふると体を震わせて、サムズアップするアホエルフ。注意は一応しているが…………なんか虚しいくらいに反省してくれない。というか、懲りねぇ。
まあ、トーカが飽きっぽい性格なのは知っていたし、こいつもまあ、向いてないのは分かっていた。だから、もう一人に頼むことにした。
俺は溜め息を吐いて、そのもう一人に目を向けた。
「………」
「………こく」
俺の申し訳ない顔を見て、何を言いたいかを察知して彼女は頷いてくれた。あぁ、悪いな華恋。こんなことを君に頼んでしまって。
「………ぐっ」
華恋は親指を立てて「いいってことよ」とでも言うかのように目で語った。
いいやつだなぁ。華恋は。
「じゃあ、頼んだぞ」
華恋は俺の言葉を聞いて俺達の前を歩いた。
「あれ?ナレコ君が索敵しないの?」
トーカが空気を読まず、ニヤニヤ笑いで聞いてきた。
俺は頭痛を堪えるように額に手を当てた。
「アホエルフ、もう少しは頭を使え」
「むむ!アホエルフじゃないもん!」
「じゃあ、バカエルフか」
「違うよ!トーカだよ!」
「ああ、頭の悪い(トーカ)エルフか」
「名前を読んでいるはずなのに何かバカにされてる気がする!」
そこから、トーカは「ぷんぷん」と怒り始めた。
いや、ぷんぷんって口に言いながら頬を膨らませるって………。
まあ、残念エルフ(トーカ)だし、有り得るか。
というか、こいつ本当にあの知的で儚げな妖精とまで言われたエルフなのか?
本当にこいつやり手のアサシンなのか?
たまに物凄く考えると頭痛がしそうなトーカの性格だった。