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誘拐

 振り向いた先に立っていた人物を捉えた時、リックは思わず状況を忘れた。


 口に手を当て呆然と立ち尽くしていたのは艶やかな黒髪をなびかせた美しい少女、レーミアだった。


 予想外の再会にかけるただ見つめ合う二人。


 どうして、彼女がこんなところに?


 不意に思い出したのはレーミアと街の観光へと出かけた時のことだった。


 そういえばあの時、彼女をどこか豪華な高級宿へと送り届けたんだっけ?


 まさか偶然、飛び込んだ建物がその宿だったなんて……いくら追い込まれたとはいえ気付かなかったとは何て間抜けな。


 思わぬ事態に直面し、それが自分にとって幸運か不幸かも分からずただレーミアを穴が空くほど見つめていた。


 やがてレーミアはリックの惨状を認識したのか、顔を青ざめさせながら駆け寄ってきた。


「ど、どうしたのですか?リクオ様ッ!酷い怪我……!血だらけじゃないですか!」


 レーミアは瞳に涙をにじませながら駆け寄ってくる。


「い、一体どうしたんですか?下が騒がしいようですが、何かあったんですか?そ、それよりも、リック様がどうしてここに?」


「え、えっとその、あの……!」


 間断なく投げかけられた質問に答えることも出来ずうろたえるだけのリック。


 何と説明すればいいか、いやそもそも説明するべきなのかも分からず目を泳がせる。


「どうしたのですか!レーミア様、何かあったのですか?……ん?リクオ?」


 騒ぎを聞きつけて一室から姿を現したのは、泣く子も黙る色男。レーミアの護衛にしてガウル騎士団の若き団長、クリップだ。


 不審者の姿を目に捉え剣に手を置くが、すぐにその人物が知り合いであることに気付く。


「どうして君がここに?それよりその怪我は……?」


 訝しげに眉をひそめる。その目は心配だけでなく疑惑の色も帯びていたため、リックは恥じるように顔を伏せてしまった。


「と、取りあえず部屋で手当てを!よろしいですよね、クリップさん!」


「それは構いませんが……」


 レーミアがリックの手を引き、部屋へと連れ込もうとする。だが、まさにその時、殺気だった男達が階段から姿を現した。一人が血走った目でリックを捉えると大声で叫んだ。


「いたぞッ!あそこだッ!」


 各々の武具を掲げながらリックへと殺到する男達。


 レーミアやクリップ達の姿は彼らの目には入っていなかった。


 彼女達を巻き込むわけにはいかない。痛みに顔をしかめながらも前に出るリックだったが、それよりもなお早く動いたのは、令嬢を守る勇敢な騎士だった。


 クリップは腰に下げた豪華な装飾のされた剣を滑らかに抜くと男達に向け、一閃。


 わずか一撃で数人の武装した男達を弾き飛ばすと、二人を守るかのように立ちふさがった。


 その気迫、殺気に押され自警団と冒険者の群れは目の前に壁が出現したかのように立ち止まった。


「……貴様ら、あまりに不躾だな。突然現れて、一体どのお方に剣を向けているつもりだ?……命が惜しくないようだな」


 背後にいたリックでさえも震えあがってしまうような冷たい声だった。


 クリップと向かい合っていた男達はさらに恐ろしかったに違いない。その気迫に後ずさりをする自警団達。


 だが、隊長格らしき一人の男が一歩前に出て、比較的に落ちついた声で語りかける。


「……済まなかった、そちらの方はご高名な方とお見受けした。婦女子の部屋へと押し入ってしまったのは素直に詫びよう。だが、君たちに危害を加えるつもりはない。私達が標的としているのはその黒衣の男なのだ」


「貴方達ですか!リック様をこれほどまでに傷つけたのはッ!どうしてこんな酷いことを!」 


 涙ながらにレーミアは訴えかける。咎めるような口調を真っ向から受けながらも男は不動。


 己のしていることに間違いはないという頑固な正義が瞳の奥底から見え隠れしていた。言い聞かせるかのような声音でレーミアに語りかける。


「その男はこのグリア―ドを騒がせている残虐な連続殺人鬼なのだ。引き渡してくれればすぐにでも我々は立ち去ろう」


 事情を知らぬ者……レーミア、クリップ達が一斉に息を呑む。そして信じられぬような顔でリックを振り返ったのだった。


 その視線をまともに受け止めることが出来ず、顔を伏せてしまったリック。


 知られてしまった……覚悟はしていたが、それでも膝から力抜けおちてしまいそうになる。


「そ、そんな……!嘘ですッ!リック様がそのような方のわけがありません!私の命の恩人なんですよッ!」


「いや、紛れもない事実だ。現につい先ほども一人の尊い命が失われたばかりなのだからな!これ以上、犠牲者を出すわけにはいかん!さぁ、早くその男をこちらに!」


 クリップの迷うかのような視線がリックに突き刺さる。そして周りの騎士団員もリックと自警団達を交互に見ながら複雑な表情を浮かべていた。


 ガウル騎士団の連中も彼らが都市の治安を担っている自警団だと気付いたのだろう。


 もしも、彼らがその場をどいてしまったらリックは逃れる術はなく、自警団に捕えられてしまうだろう。


(どうする、どうすればいい……!)


 緊迫した空気が漂うなかリックはただ思考を回転させていた。この場を逃れるのはどのような手を打つべきなのか。


 やがて、ある考えが閃く。


 だが、それはこの場を逃れることは可能とするかもしれない策だったが、自分の冤罪を確かなモノとする方法であり、向けられた信頼を踏みにじるかのような外道な行為だった。


 激突する善悪。胸中で凄まじい葛藤が巻き起こされたが、迷っている暇は無い。


「……レーミア、本当にごめん」


「え?キャアッ!」


 小声で詫びを一言呟いた。


 許されるはずはなく、その謝罪も自分を納得させるためだけに吐かれた言葉だったがそれでも言わざるおえなかった。


 そしてリックは最も近くにいて、ひたすら自分を信じてくれた少女を引き寄せるとその首に剣を突き付けた。


 レーミアの小さな悲鳴によって弾かれたように振り向く彼女の護衛達。その視線を真っ向から見返しながらリックは叫んだ。


「全員動くなッ!動けばこの女の命は無いぞッ!」


 限りなく声を低くし、悪党らしく見えるように精一杯の演技をする。


 凍りつく空気、向けられた殺意の視線、人質にされたレーミアは何が起こったのか分からないといった様子でキョトンとしていた。


「き、貴様ッ!馬鹿な事を!」


「なっ!レ、レーミア様ッ!」


 周囲の騎士団の者達が悲痛の声があげた。そして思わぬ事態に自警団の間にもざわめきが起こる。


 そんな中、ただ静かに殺意のこもった視線を送るのはクリップ。氷のように冷たい眼光を放ちながら、

リックを見据えた。


「……リクオ、これはどういうことだ?確かに君には大きな恩があるが……それでもレーミア様に剣を向けるのなら、私は君を斬らなければならなくなるぞ……例え冗談であってもな」


「……冗談なんかじゃないぞ、下手な真似をすればレーミアの命の保障は出来ないからな」


「…………」


 もう言い訳はできない。いたいけな少女を人質に取るという外道な行為を行ってしまったせいでリックの冤罪は本当の罪となってしまった。


「ちッ!まどろっこしい!あいつは殺人鬼だぞッ!もう女ごと殺っちまえばいいだろ!」


 痺れをきらした冒険者がボウガンを構え、矢を装填したが、引き金が絞られる前にクリップの剣で両断された。


「……止めろ、レーミア様に当たったらどうする。かすり傷一つであっても、許さんぞ……つけた者は例外なく殺す」


 あまりに冷たすぎる殺気。それは自警団、冒険者のみならずリックにも放たれた言葉だった。


 リックはいくつもの敵意の視線を受け止めながらゆっくり後退していく。


「……リック様……こ、こんなの嘘ですよね?」


「…………」


 震えるようなレーミアのか細い声。とても言葉を返すことが出来ない。


 自分の良心が激しく痛み、ドクドクと血を流していた。それは体の傷なんかよりも何倍も心を押しつぶしにくる。


 だが、レーミアを離すことは自分の死を意味することであり、それだけは出来なかった。


 やがて差し掛かったのは都市が一望できるほどの窓だった。まばらに光る都市の明かりが息を呑むほど美しい。


 下を覗き、思わず背筋が冷え込む。だが、覚悟を決めるしかない。


「ごめん、レーミア……しっかり掴まってて!」


「え?きゃああああああッ!」


 リックの意図が分かり騎士団から制止の声がかかったが、それに構わず窓を叩き割る。

 レーミアを出来るだけ優しく抱き上げるとそのまま夜の暗闇へと身を投げ出した。


 一瞬、浮遊感が全身を包み込んだのち、重力に引かれ二人は下へと落下していた。


 さすがにこの高さだ。まともに減速できずに地面へと叩きつけられれば即死してしまうのはまず間違いない。


 リックは降下中、剣を宿の壁へと突き立てた。二人分の体重を支えた剣が悲鳴を上げたが、ギリギリの所で持ちこたえてくれたようだ。


 そして足場となる庇に着地するとそのまま器用に跳び移り、地面を目指す。


「キャアアッ!」


 抱えるレーミアからは断続的な悲鳴が上がっている。彼女の恐怖感は並大抵のものでは無い。


 なぜなら殺人鬼と呼ばれた男に抱き抱えられながらの、高層からの飛び降りを経験しているのだから。

 

「に、逃がすなッ!」


「弓兵!矢をつがえろ」


「馬鹿者ッ!止めんか!レーミア様に当たるだろうッ!」


 そんな叫び声が上から届く中、無論、リックは振り返ることなく下だけを見ていた。


 そしてようやく地面へと着地し、リックは頭上を見上げると最上階の窓から呆然とした面持ちで顔を覗かせる自警団と騎士団の姿が。


 中にはボウガンで狙撃しようとする輩もいたが例外なくガウル騎士団に止められていた。


 そんな中、上から突きささてくる鋭い眼光を感じ取った。思わず背筋が震えあがってしまうかのような強い視線。その正体はクリップだった。

 

「あ、あの、リック様?」


 抱きかかえていたレーミアから、か細い声が響く。その言葉によって正気に戻ったリックは突き刺さる視線に背を向けて再び駆けだした。


 自警団達は今頃長い階段を下り、こちらへと向かっているだろう。 


「レーミア、絶対に傷つけたりなんかはしないから、もう少しだけ付き合って」


「…………はい」


 金が掛かっていそうな庭を突き抜けて、宿から脱出するとそのまま夜の都市を疾走した。


 出来るだけ人通りが少ない路地を選んで駆けていく。


 たび重なる無茶に体は悲鳴をあげ、ていたが追いつかれるわけにはいかない。歯を食いしばりただ足を動かしていく。


 そして周りから人がいない狭い裏路地でようやくリックは立ち止まり、抱えていたレーミアを下ろしたのだった。


 周囲を注意深く見渡す。どうやら追手を撒くことに成功したらしい。取りあえずはだが……

 

「あの……リクオ、様?」


「…………」


 レーミアが背後から震えた声を漏らすがリックは何も答えることが出来ないでいた。


 自己嫌悪で押しつぶされてしまいそうだった。レーミアは自分へと純粋な信頼を寄せていたはずだ。それをこんな形で裏切ってしまうなんて。


 出会った時、レーミアは盗賊の親玉へと人質に取られて、とても怖い目にあったのだ。


 それを知っている自分が同じような目に合わせてしまうなんて……


(ホントに、最低だな……俺は)


 背後にいる彼女は一体、どんな顔を自分に向けているのだろう?憎しみかそれとも軽蔑だろうか?


 とても彼女の顔をみることが出来ず、このまま走り去ろうとした時、不意にすがるような声が投げかけられた。 


「あの……リクオ様、聞かせて下さい……貴方は本当に誰かを死に至らしめたのですか?」


「……違うよ、俺は誰も殺してなんか無い。俺は……罠に掛けられて冤罪を押し付けられたんだ」


 自分で言ってても笑ってしまうほど嘘臭いセリフだった。何とも空々しく心に何一つ響かない。


 罪を犯した者なら誰もがそう言うだろう。


 信じてくれるはずは無い。罵声が浴びせかけられる前にこの場を去ろうとしたが


「良かった……やっぱりリクオ様が誰かを殺したなんて嘘だったんですね」


 ほっと安心したような溜息が聞こえ、リックは弾かれたように振り返る。レーミアは胸に手を当てながら安心しきった顔をしていた。


「え?……信じてくれるの?」


「はい、もちろんですよ!私は皆から世間知らずだって言われますけど、優しい人と悪い人の違いぐらいは分かります……それぐらいは分かるんですよ、リック様は優しい方です。」

 

「でも、俺は……盗賊と同じように君を人質にしてしまって……怖かっただろう?」


「大丈夫です!それはびっくりしましたけど……怖くはなかったですから!むしろ私なんかでリック様の役に立てたのなら良かったぐらいです!」


 照れ笑いのようなその表情に心底救われたような気がした。


 憎まれ、嫌われるのを覚悟していたのに……


「ありがとう……本当にありがとう」


 罠に掛けられ、追われ、傷つけられた体に彼女の優しい言葉は驚くほど優しく染み込んできた。


 信じてもらえる、それがこんなに嬉しいことだったなんて……


「そ、そんな!リック様には何度も助けてもらいましたから、その……むしろお礼を言わなければならないのは私の方で……!」


 感嘆極まったようなリックの表情にレーミアは顔を真っ赤にさせながらはにかんだ。

 そして深呼吸を一度。


「それより、これからどうなさるおつもりですか?も、もし逃げるというなら私をこのまま……!」


「いや、実は……どうしてもいかなければならない場所があるんだ」


「行かなければならない場所ですか?」


 キョトンとしながら首をひねるレーミア。


「うん、この事件の真犯人のところへ……」


「は、犯人が分かっているんですか!ならその人だと皆さんに伝えれば!」


「……ちょっと難しいかな?ついさっきまで自警団と大立ち回りをしてきたからね。さすがにもう俺の話なんて聞いてくれないだろうな……それに証拠も無いわけだしね」


「そんな……!」


 レーミアは顔を青ざめ、肩を落とすが反面、リックはというと不思議と落ち着いていた。


 状況は未だに最悪、自警団を撒くことは出来たがそれは一時的に過ぎない。


 しかし、先ほどまで胸を占めていた絶望感はほとんどありはしない。


 それは間違いなく目の前の少女のお陰だ。たった一人だけでも無条件に自分信じてくれる誰かがいる、それがこんなに嬉しいことだったなんて。


(我ながら単純だな……)


「私も何か手伝えないでしょうか!わ、私、何でもやりますよ!」


 喜びをかみしめながらもリックは首を振った。


 これ以上、この優しい女の子を巻き込むことはできない。相手は凶悪極まりない殺人神父なのだ。


 自分の無実を信じてくれただけでも充分だ。


「ありがとう、その気持ちだけ受け取っておくよ」


 レーミアは食い下がろうとしたが、リックの静謐な表情を見て開きかけた口を閉じる。


 自分には何が出来るのか、少し考えた後で……


「……リック様はこれからどこへ行くんですか?」


「え?きょ、教会だけど……」


「分かりました、じゃあ追いかけてきた人達にリック様は東門へ向かったって言います!そうすれば少しの間ですけど、追われることはなくなりますから」


「それは……とても助かるけど……いいのかい?」


「ええ、大丈夫です!それぐらいなら私にもできます!」


 確かに東門は教会から正反対の位置にある。もし自警団の大半がそちらに移動してくれるのなら、移動するのは大分楽になるだろう。


 だが、もしばれてしまったなら彼女の身が危険にさらされることは無いだろう?それを思うと素直に感謝することは気が引ける。


 だが、レーミアの瞳に強い意志の光が灯っていたことを目にし、リックは否定の言葉を呑みこんだ。


「あとは……私に出来ることと言ったら……そうですね」


 レーミアはリックの身体全体を頭からつま先まで眺めた。あちこちに傷がつき、今にも崩れ落ちそうな肉体だった。


 無茶に無茶を重ねたせいか、すぐに病院へと護送されなければならないほどだ。


「少し失礼しますね」


「えっと……レーミア?」

 

 少女はその小さく白い両の手でリックの右手を取ると、ぎゅっと握りしめる。予想外の暖かさとその手の小ささに心臓がはち切れるほど高鳴った。


 突然の出来ごとに目を見開くリックとは対照的に祈るかのように眼前の少女は瞼を閉じる。


 その表情はいつも幼く可愛らしい少女のものでは無い。


 静謐で神秘的、壁画の聖女像のように侵しがたいものへと変わっていく。


 こんなに美人だったのか……彼女の陶器のような手が血に汚れている自分の手を取っていることが何だかとても恐れ多いように感じてしまった。


 やがて、薄暗闇に蛍のような小さな光が乱舞する。


「こ、これは……一体?」


 驚きはそれだけではない。先ほどまで己を苛んでいた激痛が霧のように晴れていくではないか。


 慌てて体を見てみると、切り傷も火傷のあとも、みるみる内に消えていく。まるで時間が戻っているかのように元通りになっていく自分の身体。


 さすがに血に汚れ、ボロボロになった服までは治っていなかったが、それでも驚きだ。


 全ての傷が塞がるとゆっくりとした動作でレーミアは手を離して、またあの人懐っこい笑顔を浮かべた。


「もう、痛いところはありませんか?」


「あ、あぁ……うん、どこも無いよ……そ、それより今のは!」


「えへへ……私の唯一の特技です。人の傷を治すのは得意なんですよ」


 治癒魔法というものだろうか?魔法がある世界なのだから、存在してもおかしくはないはずだが……それでも目を疑わざる負えない。


「ありがとう、レーミア……君って凄い人だったんだね、あんなに傷だらけだったのにあっという間に治しちゃうなんて!」


「そ、そんな!私なんてまだまだですよ!」


 顔を真っ赤にしながら扇風機のように激しく首を振るレーミアの姿に思わず笑みが零れた。

 

 レーミアを利用して、追手を撒いたというのに、それでも彼女は優しかった。万感の感謝の気持ちを伝える。


「本当にありがとう、この恩は絶対に忘れないよッ!」


「あッ、はい……」


 踵を返し、駆けだすリック。いつまでもここにいるわけにはいかない。そう思い走りだすが……


「あの、リック様ッ!」


 不意に寂しさをにじませた声音が耳を打つ。レーミアは視線をおろおろと彷徨わせながら何かを言い淀んでいた。

 

「その……ま、また会えますか?」


 再会できる可能性は限りなく少ないと思う。これからリックが向かう先に待ちかまえているのは、多くの人を残虐に殺めた殺人鬼だ。己一人で勝利できるかも分からない。


 仮に生き残れたとしても指名手配されているこの都市からはすぐに脱出することになる。


 この世界がどれだけ広いかは分からないが、偶然出会った二人がまた偶然出会うには天文学的な確立だろう。


 だが、それでも……


「うん、きっと会えるよ……っていうよりも会いたい」


「……はい!」


 満開の花を思わせる笑顔。ずっと見ていたい衝動に襲われたが、ぐっと堪えて、そのまま走り出した。これから死ぬかもしれないというのに不思議と悲壮感は無い。


 協力してくれたレーミアのためにも、絶対にフィーナを助け出して見せる。


 そう誓い、リックは拳を握りしめたのだった。

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