四聖教
神父様は教会はすぐそこだと言っていたが本当にすぐそこだった。
リムルカ横町の西の端にぽつんとその教会は建っていた。
草木で編まれた塀に囲まれたその建物の外装はお世辞にも綺麗とはいえなかった。
建築してかなりの年数が経過しているのか、所々にひびや汚れが見えた。建物自体は相当大きいのだが、老朽化が進んでいるようだ。
門をくぐると、庭で遊んでいる子供が三人ほど。ボールのようなものを蹴ったりなどして楽しんでいる。
「リックさん、先に中へ入っていてください。私は子供達に少々、用があるので」
「あっ、はい」
神父はにっこりと笑うと子供達の方へと近寄っていった。
人柄通りというか、神父という称号に恥じないほど子供達にも慕われているらしい。
ほほえましくそれを見ながら、リックは木造の扉を開け、教会の中へ入り込んだ。
そして思わず目を見張った。
足を踏み入れた途端、色とりどりの光が頭上から降ってきた。ステンドグラスを通過した陽光が、教会の中に満ちているのだ。
中央の通路を挟んで、信者達が腰掛けるための長い椅子が何列も並んでいた。
通路の突きあたりには祭壇があり、様々な花と共に何らかのシンボルが飾られていた。
中央にあったのは巨大な太陽のような円に鳥の羽が生えたようなエンブレム。
まさにリックのような一般人が抱く教会というモノのイメージを具現化した光景だった。
やはりこういった祈りの施設にどこか静謐な雰囲気を感じさせた。
横町の喧騒もここには届いてこない。
身が引き締まる思いがするというか、あまり信仰心の無い自分でも心が洗われるような気持ちを感じ、背筋がピンと伸びてしまう。
教会の椅子には祈りをささげる老人が二、三人ほど。他に人影は見えず、閑散としていた。
祈りの声だけが響く、神聖な空間。
邪魔をしてはいけないと本能的に理解し、リックは足音すら忍ばせて椅子に座った。
そして待つこと五分程度。
ドアを開けて入ってきたのは神父様だ。丁寧に一人一人と挨拶を交わし。祈っていた人々も深々と神父様に対して頭を下げる。
「祈りの邪魔をするわけにはいきませんからね、奥の部屋へと行きましょうか?」
小声で話しかけてきた神父に頷くと、音を立てないよう気を付けて教壇の奥の扉へと向かう。
その小さな部屋は礼拝堂の横にあり、小さな机と椅子が三つある程度だった。
神父が促すままに、椅子へと座る。さらに奥の部屋へと神父は入っていき、しばらくすると茶碗を二つお盆に持ち、机に置いた。
「ボロ臭くてすいませんね。随分、驚いたでしょ?教会もかなり老朽化していまして、再建する予算もありませんからね」
「い、いいえ、そんな!礼拝堂はとても綺麗で、その神聖な雰囲気も感じましたから!立派な建物だと思います」
「ふふ、そう言っていただけると幸いです」
リックは差し出された飲み物を口に含む。苦味の後に仄かな甘味も感じて、身体全体が温まるかのような飲み物だった。
「礼拝堂の中央にあった、あの円に翼の生えたようなシンボルは一体何ですか?皆さん、あれに向かって祈っていたようですけど」
「あれは我が四聖教の象徴です、太陽を創造した女神様が光あふれる地上に降臨する光景をシンボル化したものです」
ほう、太陽を創造とな。随分と大がかりな話しになったな。
「それも含めて四聖教についてお教えしようと思うのですが、一体何から話しましょうかね……一から全てを話そうと思ったら日が暮れてしまいますしね」
「ははは、出来るなら簡単に説明してくれればありがたいです。一度には覚えきれないので」
「そうですね……我々、四聖教団が祈りをささげるのは女神さまです。一般的にヒトと呼ばれる種族を創造し、大地に恵みを与えたのは我らが信仰する女神様のお力によってであり、女神様に祈ることで平穏と魂の安息を約束されるのです」
「女神ってことは……女性なのですか?」
「はい、そうですね。豊穣と生命の恵みを与える存在として女神様は存在しております」
そして神父様はゆったりと自然と心に染みいるような声で四聖教に語っていった。
どの宗教も世界の創生から話は始まるらしいと聞くがこの教団も例外では無かった。
かつて世界は暗黒に満たされていたという。光が存在しないため生命も生まれず、肉体を持たない幽鬼のような存在、闇霊だけが漂っていたとか。
しかし、それに嘆いた女神様が太陽を地の果てに創造し、世界を光で満たしたという。
「そして、女神様はこの世界を命で満たすために、土くれから己に似せた最初のヒト、男を作ったとされています。女神様とヒトが交わり、子が生まれ、世界に人が満ちたとされています。つまり、女神様は我ら、全ての人の母とも言える方なんですよ」
他にも女神様は己の血から動物を、涙を流して植物を育むなど世界は生命で満たしていった。
そして世界の創造が完了した後、女神様は世界と同化して命と寄り添ったという。
それから数百年、世界は繁栄していったが、それに比例するかのようにヒトの利己的な欲望を増していった。
より上へより高みへと昇り詰めるために同族すらも踏み台としたという。
相次ぐ戦争、環境をまるで考えない魔導技術の発展、そして人種差別と、この世界は荒廃し、ヒトは互いを殺し合うようになった。
気が付けばヒトの心から弱者をいたわるという心根は消えていった。
浪費し、奪い合いだけの年月が過ぎ、やがて一人の男が世に覇を唱えた
支配欲、破壊欲に満たされたその男は己を魔王と呼び、人々を苦しめ、殺したという。かつて女神様のお力によって滅ぼしたはずの闇霊を支配下に置き、絶大な力を誇ったという。
そんな事態に嘆いた女神様は再び世界に降臨し、四人の人物に己の権能を預け、秩序の回復を命じた。
彼らは聖者と呼ばれ、女神様の教えを広く流布しながら、ついに魔王の討伐に向かう。
そこから様々な伝説で語られる激闘が繰り広げられたのだが、それは割愛しよう。
苦闘と末、魔王を打ち倒した聖者達。もう二度と人心が乱れ、このような事が起こらぬように女神を讃え、節制と寛容の精神を広めるため四聖教会を創設したのだ。
そして現在、四聖教はこの大陸のほとんどのヒトが信仰しており、その影響力は一国の王すら上回るものだという……
「いかがでしょうか?私達、四聖教会について理解が深まったでしょうか?」
「はい、それはもう……」
いや、どうだろう?神父の言葉があまりに有り難すぎて少し船を漕いでしまっていた。
まったく、危ない危ない……!
取りあえず、偉大な女神に祈りを奉げて、安定と平穏を大切にしましょうってことだろう。
リックが知っている宗教とも似たようなものだったため、意外にすんなりと理解することができた。
「そうですか、それでは早速、洗礼を受けてもらいましょうか?何、すぐに終わりますよ、さあ、こちらへ……」
にっこりと笑うと神父様は礼拝堂へと手招きする。
「え!え?そ、それはその……」
「ははは、冗談ですよ。先ほども申しましたでしょう、無理やり入信させることはしないと」
神父様は大きく笑いながら目に悪戯っ子のような光を浮かべた。
まったく、この神父様は……冗談なら少しは声のトーンを変えてほしい。常時、にこにこ笑顔を絶やさない人だから、押し切られてしまいそうで怖い。
神父様はお茶のお代わりを注ぎながら、尋ねる。
「リックさんはどこか特定の神様を信仰しているのですか?」
「いや、その……どうですかね?」
自分は無神教だと言おうとしたが、何だかそれも違うような気がする。
よく困った時には神頼みをするし、受験の前には神社でお祈りもした。
葬式には坊さんを呼んでお経を呼んでもらうし……そう考えたら節操がない気がしてきたな。
返答に迷っていると神父は目に優しい光を湛えながら告げた。
「まぁ、いずれにせよ、信じる神がいるというのは素晴らしいことですよ。心が豊かになり、他人に優しくなれますからね」
それには若干の反論がある。宗教というのは毒にも薬にもなるため、どうにも神父の言葉には頷くことはできない
だが、リックの変わった表情に気付いたのか、それとも知らずか神父はゆったりと話を続けた。
「神に祈ったところで現実は何も変わらないかもしれない、それでも心の平穏と安定は得られるものだと思いますよ。世の中には人の力、自分の力ではどうしようもないことが多すぎるのです。ならその逃げ場として宗教はあるのだと私は考えてますからね」
「そういうものですかね?」
だが、神父様の言葉には意外にも宗教アレルギーを自覚しているリックにもすっと入ってきた。
内容のせいか、それとも穏やかな口調のせいかは分からないが、不思議と神父様の言葉には説得力があった。
うんうんとリックが頷いていると、不意に神父様がはっとした様子で頬をかいた。
「すいません、何やら好き勝手に話してしまいまして……この都市ではあまり信心を持っている者が少ないので、久しぶりに興味を持っていただいた貴方に話過ぎてしまいましたようです」
「いえ、俺もためになる話しだったので全然、構いませんよ。それよりもグリア―ドには信者の方は少ないんですか?」
「信者の方は多いと思いますが、それは形だけという方が多いですね。この都市は多くの人やお金が行きかう大都市です。そのため、商人達にとっては祈りよりも金。拝金主義が横行しているのですよ」
忌々しげに神父様は愚痴をこぼす。
「働き金を得ると言うのは尊いことです。女神様もそれについては否定をしていません。ただ……リックさんはこの都市の東へ行ったことがありますか?」
「えぇ、酷い状況でしたね……スラムっていうんですかね、ああいう所って」
「誰もが金を求め、他者を蹴落としてでも上に昇りつめようとする姿勢を取っているがために、この都市は勝者と敗者がきっぱりと分かれてしまった。そして富めるものは富み、貧しい者はさらに飢えるという歪な社会が出来あがってしまった……この都市の金持ち達がほんの少しでも憐れむ気持ちを持ったのならイーストエリアの人々を救えるのに……」
何とも耳の痛い話だ。異世界だろうと何だろうと人が生きている限り持てる者と持たざる者が生まれてしまうらしい。
平等なんて夢の話か……
「愚痴ぽっくなってしまってすいません。前の任地は素晴らしい所でしたので、その半面、この都市の至らぬ所ばかりが目に入ってしまいましてね……バグナ―ド王国という自然豊かな美しい国だったのですよ、国民も信心深く、穏やかな気性を持つ者が多かったですね」
思わずリックは口に含んだ飲み物を吹き出しそうになった。
またかよ!よく名前を聞くというか、本当に縁があるよな。
「バグナ―ドって、あの五年間に滅んだっていうあの国ですよね?」
「ご存知でしたか?」
「一応は、黒の教団のせいでとんでもないことになったんですよね?」
「はい、愚かな邪教が女神様を冒涜するかのような実験を行い、その結果、滅びた哀れな王国です。私は最後まで教会に残っていたのですが……まったく、嘆かわしい世の中です。まるで暗黒時代の再来だ。真の信仰を持つ者達が滅ぼされ、剣や金、力を尊ぶ者達が威張り散らしているのです。」
神父の声には深い嘆きの声があった。リックはこの世界の住民では無いため、とてもその言葉に答えることが出来ないでいた。
「そして、今もこのグリア―ドでは惨殺事件が起こっている。人心の乱れも取り返しのつかないことになっているかもしれませんね……」
「そういえば……つい一昨日もこの辺りで殺人事件が起こったそうですね?」
リックはありったけのさりげなさを動員して尋ねる。
「えぇ、そうですね。本当に痛ましい事件でした、まさか商人だけでなく冒険者の犠牲も出してしまうとは……」
「…………神父様は現場に行ったんですか?」
「はい、死者の安息を祈り、供養をするのも教会の仕事ですからね」
そうか、なら誰よりも現場に近い位置にいたのはこの人だ。ならフィーナさんのこともひょっとしたら……
「一つお聞きしたいんですけど……その日に金の髪を腰まで伸ばした女の子を見ませんでした?若い俺のと同じくらいの歳なんですが」
一瞬だけ、神父が一切の行動を止めた。まるで急に回路が変わったかのようにピタリと。
だが、リックがそれに気付く前にはもう顔には笑顔が戻っている。
「金の髪の女性ですか……申し訳ありませんが私は見てませんね。その方がどうかしたのですか?」
「いや、その……俺と同じ冒険者なんですけど、事件があった日に犯人……というか黒の教団の関係者を追うって行ったきり帰ってこないので、今探しているんですよ」
ここでも当てが外れたか……一体、フィーナさんは今どこに居るのだろう?
「……リックさんはその方と仲が良ろしいのですか?」
「え?……仲は悪くないと思いますが、良いかと聞かれたら何とも……ついこの前、色々助けてもらって世話になった人なんです」
「それは心配ですね、ちなみにその方の名前をお尋ねしても?」
「あっ、はい、フィーナ・オルデ……オル、おるでね……?」
あれ何だっけ?下の名前は曖昧になっている。
思い出そうと必死になっていると、不意にガタンと礼拝堂の方向で大きな音が鳴り響いた。。
「失礼するッ!神父様はおられかッ!」
続いて聞こえてきたのは野太い男の声。
「騒がしいですね、一体何でしょうか?……お話の途中で申し訳ないですが、私は行ってみますから、リックさんはこの場にいてくださいね」
神父はドアを開け、礼拝堂へと向かう。
教会に怒鳴りこむなんてとんでもない奴らもいたものだ。一体何事だろうと、礼拝堂の方を覗いてみると……
(お、おいッ!嘘だろッ!)
木製の扉の前で佇んでいたのは、銀の甲冑を身にまとった兵士。
自警団が四人ほど、武器に手を掛けながら隙間なく周囲を見回していた。
な、何でここにいるんだ!
パニックになりながら、慌てて身をひっこめるリック。
神父が自警団に近寄っていくのをただ震えながら見ていた。
「おや、自警団の皆さまじゃないですか。一体何の用ですか?ここは神聖な祈りの場、騒がしくするのは止めていただきたい」
「突然、来訪したのには謝罪する。だが、緊急の用件のため多少の無礼は許していただきたい。」
「緊急の用件?」
「はい、実は通報があったのです……この教会のあたりに一連の殺人事件の犯人がいると!」
目を見開くリック。
しまった、誰かに見られていたのか!
慌てて逃げようとしたが、下手に礼拝堂へと出るわけにはいかず、この小部屋にも扉は無い。
小さな小窓が一つ付いていたが、あの大きさでは抜けようとしても身体が詰まってしまうだろう。
どう、どうしよう……寒くもないのに身体から汗が噴き出すのを感じながら縮こまっていた。
「そこで神父様の協力の元、教会への立ち入り調査のお願いをしたいのです」
「…………」
自警団の問いかけに対して神父様は沈黙で返している。神父の頭には今、どんな考えが巡っているのだろうか?
リックが手配された殺人犯だと気付くのだろうか?
それを考えたら身体が震えあがってくる。
どうか気付きませんように!教会らしく神に祈るが、届くことは無いだろう。
自警団にあのように言われたらリックのことに思い当たるに違いない。
そう思っていたのだが……
「……ご足労願ったのに申し訳ないのですが、ここには殺人犯などいませんよ。ここは女神様を讃える神聖な場所ですからね」
え?とリックと自警団が同時に目を見開く。
「この礼拝堂を見れば分かるでしょ?ここにいるのはお年寄りの方ばかり。私も手配書を見ましたがそんな人物は見かけませんでした。ですからもう帰っていただいて結構ですよ」
「い、いえ、しかしですね!教会のどこかに隠れているのかもしれませんし、捜索を……!」
「あり得ないと言っているでしょう?ここは神聖な場所です!人を殺すようなモノが立ち入ることなどできません。よって殺人鬼などいないし、そのように殺気だった貴方方も踏み込ませるわけにはいきません」
自警団がいくら詰めようとも神父様は断固、拒否の姿勢を取っている。
まるで壁のように扉の前で立ちふさがり、自警団の侵入を阻止している。
何故、そこまでするのか?見せるぐらいなら構わないのではないかと思ったが、リックにとっては有りがたいことだ。このままやり過ごせれば……!
神父様の強情さに怯む自警団だったが、むきになった一人の若い青年が一歩前に出た。
「……構いませんよ、強引に踏み込みましょう。殺人犯を捕まえることが我らの仕事であり、女神様も許して下さるに違いない」
「いや、駄目だ。さすがに教会は不味い。ここには我々であろうと許可なく調査する権限は無い」
若い男性が神父を押しのけようとしたが、それを止めたのは同じ自警団の男だった
忌々しさに顔を歪めながらも自警団達は剣を納めて後退する。
「……神父様、今日の所は引かせてもらいますが、手配書の男は本当に危険なのです。見かけたら絶対に我ら自警団に通報をお願いしますよ」
悔しげにそう告げると自警団の男たちは撤退していった。その背中が教会から離れていくのを見届けて、リックは深いため息を零した。
た、助かった~、今回ばかりは本当にヤバかった。
もし教会に踏み込まれていたのなら逃げ場はないため、戦闘になるのは間違いなかったのだ。安堵から腰が抜け掛け、扉に手を掛けながら一息を付く。
それにしても……どうして神父様は自分をかばってくれたのだろうか?強引な理屈で自警団を追っ払ってまで一体、何故……?
「騒がしくなってすいませんでしたね、まったくここの自警団は強引で困りますよ」
再び部屋に戻ってきた神父様の顔を思わずじっと見つめてしまった。
その優しいまなじりには、疑惑も不安もなくただ暖かい光を湛えていた。
これはひょっとして気付いていないのだろうか?
リックが殺人犯として手配されているなど思いも寄らないのか?
「どうしましたか?私の顔をじっと見たりして」
「い、いえ!すいません、何でも無いですよ!」
ならば下手に突っ込むべきじゃない。神父様の人を疑わないという美徳に今は感謝するとしよう。
ひとまず命拾いをしたと胸を撫で下ろしているリックに神父は告げた。
「先ほどの話ですが……リックさんはフィーナさんという女性を探しているのですよね?」
「はい」
「そうですか、なら私もお手伝いできるかもしれませんね。実は明日、大きな礼拝が行われます。この近辺の人が集まるそうですから、皆さんに聞いてみてみましょうか?」
「え?いいんですか!」
「もちろんですよ、困っている人達に手を差し伸べるのも女神様の信徒である私の役目ですからね」
願ってもいない申し出だ。下手に聞いて回れないリックにはありがたい話。
フィーナがこの辺りに来たのは間違いないだろうから、それを見かけた人がいるのかもしれない。
行き先まで聞くことが出来たなら万々歳。どちらにせよやってみる価値はある。
リックはフィーナの特徴について詳しく神父に語っていった。
「分かりました、それとなく聞いてみてみましょう。礼拝は日が暮れたころに終わるはずです。少し遅くなってしまうかもしれませんので、時間を遅らせて来てください。あと、これを……」
そう言うと神父様は何か太陽をかたどったアクセサリーを渡した。
「教会の信徒なら誰もが持っている祈りの道具です。それがあれば、教会へと自由に出入りしても怪しまれることはないでしょう。もし明日、到着したときに私がいないようなら礼拝堂で待っていてください」
「それは、はい、分かりましたが……俺がこれをもらっちゃっていいんですかね?」
「はい、構いませんよ。信者で無くても手に入るものですし、貴方の人柄は今日、話して分かりましたからね」
神父の笑顔に感嘆極まって頭を下げた。まさか、偶然連れてこられただけなのにここまで便宜を図ってくれるなんて……それにフィーナを探す手伝いもしてくれるという。
リックが丁重に礼を言うと、神父様は当然のことだと笑みを浮かべる。
こんな方が神父を務めるなんて四聖教なるものは素晴らしいのかもしれない。流されやすいリックはそんなことを考えながら教会を後にしたのだった。




