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ワールドゲート

「うわッ!マジか!三レベルも上がったよ!それにジョブもコンプリート!新しいアーツも覚えたみたいだ!」


 リックはガッツポーズを浮かべ、抑えきれない喜びをあらわにする。

 自分の分身である【リック】が強くなるのはいつもながら快感だ。


「オレもだ!オレも二レベル上がったぜ!」


「あぁ、無茶した甲斐があったな……」


 ガレオンも己のステータスをしみじみと眺めながら感嘆の声を漏らした。

 リーダーとして勝利の余韻は人一倍強いのだろう。


「そうだな……リッパーの適正レベルは65だったもんな~」


 まったく、よく勝てたものだと今さらながらに思う。リックに至っては約十レベルも差が合ったのだから一度も瀕死ならなかったのが不思議なくらいだ。


「……本当に強かった、万全の準備をしてもあれほど苦戦したんだもんな」


「あれでイベントボスの中では最弱だからな……まいっちまうよ」


 勝てたのは喜ぶべきことだが、この先に待ち受けている強力な敵を想像したのかガレオンの顔が曇る。


 今回倒したリッパーは、ゲームが企画したとあるイベントで討伐対象とされた魔物だ。


 期間限定イベント【夜更けの悪魔狩り】。


 何でも、時空間の牢獄から抜けだした七体の悪魔を倒せ、という内容の企画だ。


 ガレオンに誘われたリックとデュークがパーティーを組んでそのイベントに参加した。


 そして掲示板で調べて最も御しやすいとされるリッパーに挑んだのだが、初戦はあえなく敗退。


 アイテムを揃え、作戦を練り、万全の準備を整えてようやく倒したのだ。


 一通り上がったステータスを確認して喜びを分かちあうと、ふと冷静な思考が戻ってくる。


「なぁ、やっぱ三人じゃこの先、つらいんじゃないか?このイベント続けてたら多分、俺達、次のボスで絶対詰むと思うぞ?」


 墓石に腰を下ろしながらリックはこの中のリーダーであるガレオンに向かって問いかける。


 最弱の悪魔でさえここまで苦戦したのだ。この先、イベントを進めていく上でさらに強力なモンスターが六体もいるという。


 とても期間内に倒しきれるとは思えない。


「いや、それは俺も感じているけどさ……でもさリック、誰か頼る当てはあるのか?」


 頼る当て……パーティーに入ってくれるような知り合いがいるってことか?


「……い、いないな。俺、こっちにはあんまり友達いないし」


「ん?こっちには……?こっちでも、の間違いじゃないのかい?」


 からかうかのようなガレオンの言葉に思わず立ち上がる。


「う、うるさいぞ!そういうお前はどうなんだよ!ガレオン!」


「心当たりがあったらもう呼んでいるよ、俺のフレンドも別のパーティーを組んでこのイベントに参加しているからな……当ては無いよ」


 そうか、とため息を零す二人。その様を見てデュークは墓場の鬱屈した空気を弾き飛ばすかのような笑い声をあげた。


「はっはっはっ!情けないな、二人とも。」


「何笑ってんだよ、お前だって俺ら以外にフレンドに登録しているやつはいないくせに」


「オレは基本的にソロでプレイしているからいいんだよ。一匹狼、オンリーウルフ!それがオレの標語だからな!」


 快活に笑うデュークに白けきった視線が突き刺さる。が、一向に堪えた様子が無いため、呆れたように視線を逸らした。


「まぁ、その話は後でもいいだろう。それよりそろそろタウンに帰ろうぜ。今日は祝勝会といこうじゃないの!」


「……そうだな」


 それぞれがアイテムボックスを開き、帰還アイテムを取りだす。

 リックも視界にコマンドを表示させたところでふとあることに思い至った。


「あっ、そういえば……!」


「ん?どした、リック?」


「ちょっと二人に見て欲しいアイテムがあるんだよ、これが何か分かるかな?」


 リックは右手をかざすと宙にコマンドを表示させ、アイテムボックスを開く。そしてカーソルをあるアイテムにあわすとそれを掌へと召喚した。


 現れたのは漆黒に染まった球状の宝石。


 内部に黒い霧の何かが流動しており、何となく見る者を不安にさせる不気味なアイテムだった。、


 差し出されたそれをまじまじ見つめる二人。おそらく鑑定を行っているのだろうが、徐々にその顔が曇っていった。


「何だ、このアイテム。バグってるのか?」


 デュークは顎を擦りながら呟いた。


 【次元結晶】

 効果:???? 

 概要:空間を裂き、世界を広げる神器。旅人よ、覚悟せよ。汝が進む道は冥府へと続く道なり


「こんなアイテム、見たこと無いな……お前、これどこで手に入れたんだ?」


「イベントに参加したらメッセージが届いてさ、そしたらこのアイテムが手に入ったんだ。てっきりイベントに使うものなのかな、って思ったけど掲示板を見る限りそんな情報は無かったわけだし……ちょっと気になってさ」


「メッセージって……運営からか?」 


「うん、多分……いや、どうだろう?何故か表示されないんだよな」


 メッセージが届いたなら送信者のアドレスが表示されるというのにそこは空白だったのだ。

 それが酷く不気味でアイテムを使用するのを躊躇わせる大きな要因だった。


「捨てることも出来無いし、下手に使うのも呪われそうだったから、まだ残してあるんだけど……どうするべきなんだろう?」


 訳の分からないアイテムをボックスにしまっておくというのも考えものだ。


「使ってみればいいだろ?そうすりゃ何か分かる」


「それはそうだけどさ……」


 デュークの言っていることは至極、まっとうな事だ。だが、どうしても躊躇ってしまうのだ。


 嫌な予感がする。漠然としたものだが、こうしてこの【次元結晶】を手に持っていると異様な圧迫感を感じてたまらなくなるのだ。


 だが顔を曇らせるリックとは対照的にデュークは他人ごとらしく気楽に答える。


「いいから、使ってみろって!ひょっとしたらステータスが上がるような凄いアイテムかもしれないだろ?」


「……そうだな、所詮はゲームのアイテムだし、滅多なことにはならないだろうよ」


「そうか……うん、そうだよな」


 二人の言葉に躊躇いながらも頷く。


 たかがゲームの一アイテムだ。びびってどうする?


「実はバグアイテムとかでリックのレベルが1になったら最高に笑えるな!」


「うるさいぞ、デューク!そんなわけあるかよ」


 いや、でも、ひょっとしたら……駄目だ、何か不安になってきた。


 だが、今さら止めるわけにはいかない。何やら二人が期待のまなざしを向けているみたいだし、それに俺自身もどうしても気になってしまっていた。


 覚悟を決め、謎のアイテム【次元結晶】とやらを使う。


 すると宝玉がひび割れ、中で蠢いて闇が外へと漏れた。


 霧状で噴出したそれはリックの周囲を漂ったかと思うと急に空へと舞い上がり、そして……


「…………」


 何も起こらなかった……。


「何だよ……何なんだよ……」


 呆然とした沈黙が三人の間を彷徨う。どれほど続いただろうか?


 その沈黙を破ったのは呆れたような表情を浮かべたガレオンだった。


「えと……リック?ステータスとかに変化はあったか?」


「……無いな、うん。驚くほど変化なしだ」


 己のステータスを開き、数値を確認してみても、上昇も下降もなく変化はどこにも見当たらない。

 状態異常でも起こったのかとも思ったが、やっぱりその欄は空白のままだ。


「結局、何のアイテムだったんだ?」


「…………さあ?」


「何か拍子抜けだな。はぁ~、詰まんねぇな、せめて爆破オチくらいあっても悪くないのによ」


 不満げに石を蹴飛ばすデュークとは対照的にリックは胸を撫で下ろしていた。


 こんな呆気なく終わるなんて心配していた自分が馬鹿みたいだ。


 結局、今のは何だったんだろうか?まったくもって意味不明だ。


 いたずらか何かだろうか?っていうかそれ以外、説明しようがない。


「まぁ、もういいだろ。帰ろうぜ」


 気を取り直し、再び帰還アイテムを取りだした。


 まったく無駄な時間を使っちまったなと嘆息しかけたところで不意にそれは起こった。


 バキンッ、生理的不快感を引き起こすかのような嫌な音が背後で響きわたる。


 弾かれたように振り向くと何と言ったらいいのか……風景の一部がひび割れて、闇がリックを覗いていた。


「お、おいあれ!」


 リックの声に二人の視線も現れたひびへと集中する。


「な、何だ!あれ!景色がえぐり取られてるぞ!」


「バグ、なのか?でも、こんなのって……!」


 戸惑いを露わにする三人を置いてけぼりにしながら、なおも異常は加速していく。


 ひび割れはあっという間に周囲の風景全てに広がっていき、黒の領域を広げていく。そしてついに、リック達の周囲は闇に覆われてしまった。


 あり得ない光景にただ立ちつくすことしかできない。


「ッ!皆、早くタウンへ!ここはヤバいッ!」


 いち早くガレオンが正気を取り戻し、直感的な警告を放ったが……少し遅かった。

 リックの全身を浮遊感が包み込み、限りない闇へと堕ちていく。


 悲鳴を上げたがそれすらも暗闇へと溶け、意識は漆黒へと染まっていったのだった。

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