閑話
小柄な女が両手を大きく広げた。
「さあてお立会い、ついに始まりましたうわなり打ち、勝つのは笹雪か梅が枝かさあ張った張った」
早蕨はそう言って、地面に小枝で書いたうめとささの文字を指差した。
その早蕨の周りに集まった人々は何度か相談しながら、銅銭を懐から出した。
「よし、俺は笹に十銭だ」
「いいや俺は梅に」
早蕨は、梅の場所にそれぞれの名前と金額を書き記していく。
「さあさあ、まだ決着はついていないよ、賭けるなら今、さあ張った張った」
警戒に早蕨は賭けを盛り上げていく。
その時どよめきが広がった。
なよ竹が山吹に一打入れることに成功したのだ。
「すげえ、山吹に一撃入れるなんて」
感嘆しきりにその名よ竹の所作を見ている。
「そりゃもう、夢の対決ですもの、どっちが強いかまあ興味シンシンってやつだ。このうわなり打ちこそ、あの二人を戦わせるにふさわしいと思いましたからね」
早蕨はにたりと笑う。
そして新たに声を上げたのは早蕨の夫であった。
「さてこのたびは、まずはなよ竹ヤマブキどちらに賭けますかな」
そう言ってタケの文字とヤマの文字を書き記した。
「さあ、竹ないか、それとも山ないか」
そう言って両の手を打ち合わせる。
パンパンと景気よく。
「それならおれは若さの竹だ」
「じゃ俺は年季の山」
口々にそう言うのを棒で書き記していく。
そして夫婦は互いに顔を見合わせ笑う。
賭けの胴元としても儲けと笹雪の家からもらった報酬。二つ合わせればしばらく喰うに困らない。
「さあ張った張った」
夫婦二人のけたたましい声はしばらく続くようだった。
早蕨が書いたのがひらがななのは女文字だから、夫の書いたのがカタカナなのは男文字だからです。