立ち向かう女はなよ竹
戸板を支えた状態で女達は動けなくなっていた。
先頭を行く戸板に空いた穴。あれは当たれば死ぬ、絶対死ぬ。
背筋をいやな汗が伝う。ようやく事態を理解した笹雪が小刻みに震えている。
その状態で動けなくなった女たちだが、一人だけ違った。
物干し竿を片手に戸板の陰からするりと現れた。
その竿と見まがう細長い姿はなよ竹だった。
その名よ竹めがけて石が飛んでくる。女達は悲鳴をかみ殺した。
物干し竿一振りで石を弾き飛ばしたなよ竹は腰を落とし、物干し竿を長刀か槍のように構えた。
その構えを見た山吹はしずりから石を振り払い別の武器を手にした。
山吹が手にしたのは砧、それを両手で構える。
なよ竹の物干し竿が一閃する。それを身軽にかわして、山吹は距離を詰めようとしてきた。
なよ竹は後ろに飛びのき再び距離をとる。
懐に入られたら終わりだ。
なよ竹の動きを油断ならぬ目で山吹は見ていた。
なよ竹は物干し竿を振る。
それを砧ではじきながら、山吹は距離を詰めようとする。それをさせじとなよ竹は猛攻と言ってもいい勢いで物干し竿を振り回した。
「な、なよ竹」
笹雪がか細い声で呼びかける。
大声を出せばなよ竹の気を散じそうな気がしたのだ。
「笹雪様、ここは私にお任せください」
なよ竹の言葉に笹雪は小さく頷くと、傍らの小松を促して先に進んだ。
戸板を再び掲げて、ほかの女達が屋内に入ってしまってからも、二人の女達は睨みあった。
うかつには動けない、実力は伯仲していた。
山吹も砧を手になよ竹の様子をうかがう。それぞれのわらじがじりっと地面をこする音だけが聞こえる。
二人はそれぞれの得物を構えながらすきをうかがう。張りつめた弦のように緊迫した空気が流れていた。
じわじわと二人の殺気だけが充満して行く。
気圧されたほうが負けだ。丸い小さな眼と切れ長というか糸のような細目が交錯する。
笹雪はようやく入り込んだ屋内で周囲を見回す。
やはりというかほかの女達が待ち構えていた。
袴にさしておいた火吹き棒を手に取ると、同じように巻きを手にして襲いかかってくる女達と応対する。
付け焼刃だが、付け焼刃なりに戦えた。
早蕨の言っていたことは本当で、なよ竹以外の女達も相当使えた。
小松が、きゃあきゃあ言っているが、とりあえずはぐれなければよしと思った。
柳が杖を振り回している。当分死にそうにないな、つえなしでも足腰はしゃっきりしている。
飛びかかってきた女の腕を抑えて腹を蹴り付けてやった。袴をはいているが故の身軽さだ。
「梅が枝はどこだ」
笹雪は吠えた。
しずり。着物の上から腰に巻くミニスカート状のものその使用法は限りなくエプロンに近い。
砧。当時布は麻やイラクサなどの繊維。そのためちくちくしたりごわごわしたりしていた。砧はそうした布を叩き潰して繊維の腰を折るために使われた。形状はこん棒に細い持ち手が付いている。
また汚れ布を湿らせてたたきすすいで洗濯することもあった。