牛耳る女は柳
早蕨が五名の女達を並べて胸を張っていた。
それぞれそう豊かな家の娘ではないのだろう。粗末な小袖を着ている。
姉さんかぶりの頭を深々と下げるその中でひときわ背の高い娘がいた。
「ああ、このなよ竹に目を止められましたか、このなよ竹こそ、私が一番押す娘でございます」
早蕨はそう言いながらひときわ背の高いなよ竹をさした。
竹とはよく名づけたものだと笹雪は思う。
背が高いだけでなく全体が細長いのだ。
細い長い手足、細い長い首の上に面長な顔が乗っている。
顔のつくりも細長いとしか言いようがない。
薄い唇に細い鼻、切れ長と言えば聞こえがいいがこれまた細い眼がついている。
ややつり気味の細い眼は瞳を確認することも困難だ。
「無論相応の働きはできるのだろうな」
柳が早蕨に訊いた。
「この私がそんなへまをいたしますか」
早蕨はしたり顔でそう言う。
「なよ竹を筆頭にすべてほかのうわなり打ちで勇名をはせたつわものぞろいでございます」
早蕨はそう言って胸を張る。
「無論報酬を払うのだそれなりにやってもらわねば困る」
ものすごく何か言いたそうに合歓が柳を見ている。たぶんその報酬は実質自分が払うのだけれどと言いたいのだろう。
そんなことを気にする柳ではなく。それぞれの顔をしっかりと確認する。
「良かろういい面構えだ」
「あのう、お願いがあるのですが」
笹雪がそっと口を開いた。
「誰か私に人の殴り方を教えてくださいませんか?」
笹雪の言葉に五人の女達はそれぞれ顔を見合わせる。
「それでは私が」
そう言って一番笹雪に近い体型の娘が立ち上がる。
「こちらに降りてきていただけますか」
そう言って笹雪を土間に誘う。柳は重々しく頷いた。
土間に下りてきた笹雪はいつの間に帰ってきていた兄に出くわした。
「うわなり打ちをするって噂を聞いたんだけど」
「ええ、もう果たし状も出しました」
それだけ言うと、笹雪は何かものすごく言いたそうな兄を無視して娘の一人に向きあう。
「笹雪さま、人を殴る時は腕だけで殴ってはいけません。まず下腹、丹田に力を込めるのです。まず少し腰をおろして」
そう言って娘の一人に実技指導を受け出した妹の姿に思わず引いてしまったのは無理のないことだろう。
今にいる両親の姿を探してみれば両親はすべてをあきらめきった顔で、無言で首を横に振った。
「お婆様?」
そう呼びかければ柳はうんうんと人を殴る素振りをしている笹雪の姿に目を細めている。
「いったい何がどうなって」
話についていけない兄はその場で途方に暮れていた。
兄は婿に行きました。この時代嫁入りと婿入りが入り混じる過渡期です。