逃げ隠れする男は兵衛
ぎゃあぎゃあわめき散らす女達を取り押さえたり、破壊された調度を片付けたり、男たちは忙しく働いていた。
それらを指揮しているのは、このあたりでは顔役とされている長老だった。
いまだ興奮冷めやらぬのか、その場でうずくまり泣き喚いている女達がいる。
戸板に乗せて運びだされるこなみの姿を確認する。
おそらく侍女だろう女が手をとって付き添っていた。
うわなりは腫れた頬を母親に濡れ手拭いで冷やされている。
その母も小そでは片袖が引きちぎられ、髪は乱れ放題の無残な姿をさらしている。
よろけながら歩いている老婆は白髪は乱れ放題で、襟がはだけている。
どうやらこの老婆もうわなり打ちに参加したらしい。
終わったならとさばさばした顔で破壊された調度や、床に散らばる砕けたかわらけなどを片付けている女達がいる。
あちらでは男たちが争っている。
「幾度も打ちすえたのだからなよ竹の勝ちだ」
「いいやあそこまで打たれて最後まで倒れなかったのだ、山吹は負けていない:
「一度でも打たれていたら、なよ竹はひとたまりもなかったはずだ」
どうやら勝敗をめぐって賭けをしていたらしい。
左近はそれらを横目に見ながら、家に戻った。
先ほどまで見た光景を反芻してみる。
家では妻の白妙が実にいやそうな顔をして待っていた。
正確にいえば苦虫をかみつぶしたような顔だ。
「うわなり打ちは終わった」
左近がそう言えばそうですかと白妙はそれだけ言った。
「兵衛はどうしている」
白妙は無言で離れを指差した。
離れでは昼間っから堂々と兵衛は布団にもぐりこんで高鼾だ。
いつもこれだ、付き合っている女ともめ事が起きるたびに兵衛はこの家に隠れに来る。
最初は兵衛の外面に騙されていた白妙も最近では虫を見る目で兵衛を見るようになった。
「起きろ、このバカ」
容赦なく蹴りおこすと、兵衛は大きく欠伸をして伸びをする。
「どっちが勝った?」
果たし状が届いてからこの家に閉じこもっていた兵衛は興味のなさそうな顔でそう聞いた。
「相打ちだ、双方顔面を殴り合ったようだな」
「やれやれ、それなら梅が枝の腫れが引くまで戻らないほうがいいようだな」
ぴきっと左近のこめかみに血管が浮く。
「いい加減にしろよ、いつまでここに居座る気だ」
そもそもここは白妙の実家なのだ、婿の身でこんな居候を抱え込んでいるなど肩身が狭くて仕方がない。
「いや、実家は帰ってくるなというし」
日ごろの行いが悪すぎて、兵衛は実家からほぼ勘当同然の扱いを受けていた。
何でうわなり打ちなんだろうと左近は思う。
どうせなら、こいつを袋叩きにすればいいのに。
かくして今回の後妻打ちは終わる。
うわなりって何って思っていた皆さん実はこういう意味でした。コナミが前妻です。次回はあとがきです。