いがみ合う女は笹雪と梅が枝
梅が枝は高価な紅を塗りあげた唇を曲げて、笹雪を嘲笑った。
化粧気のない、地味な着物を着て、華やかさのかけらもない少女を。
笹雪はごてごてと派手な小袖を着こみ、化粧で素顔を塗り込めた拒食に満ちた女を軽蔑のまなざしで見据えた。
相容れない二人だった。
「私を見ればわかるでしょう、あなたなんかが相手にされたのが最初からおかしかったのよ」
あざける梅が枝に笹雪は無言だった。
わらじが床板を蹴った。
思いっきり梅が枝の身体を体当たりで吹っ飛ばす。
「言いたいことはそれだけか」
笹雪は倒れた梅が枝を見下ろして言う。
「何をするのよ」
そして床を張ったまま笹雪の足に思いっきり梅が枝は噛みついた。
笹雪はそのまま転倒した。
二人の女はそのまま床を転げまわってつかみあいを演じていた。
「ここは私の美しさにひれ伏して、私の相手になろうなんて百年早いと悟る場所でしょ」
梅が枝が笹雪の襟首を締めながらわめき散らす。
「黙れや、そこまで厚化粧しなければ顔も晒せない醜女の分際で」
笹雪は梅が枝のこめかみあたりの髪をギリギリと引っ張りながら言い返す。
「誰が何ですって」
梅が枝の顔が引きつる。
首を絞める手を緩めて、笹雪の顔を思いっきり引っ掻いた。
笹雪は袴をはいている有利を生かし、梅が枝の腹を思いっきり蹴とばした。
「性根の曲がった醜女が」
笹雪はそう言って嘲笑う。
梅が枝は歯を食いしばった。
「痩せっぽっちの貧相な女のくせに」
そう言ってその辺にあるものを笹雪に向かって投げ始めた。
笹雪はその辺にあった畳を持ち上げて、梅が枝に向かって振り回す。
得物が大きいので、梅が枝もたまらず吹っ飛ばされる。
「よくも」
梅が枝は几帳を振り回した、これは木製なので軽いが殺傷力は高い。
当たった笹雪のこめかみから一筋の血が流れた。
指で流れた血をすくって舐める。
「これしきの事で私がくじけると」
笹雪はゆっくりと思い出していた。
人を殴る時は腕だけで殴ってはいけない。腰を入れて殴れ。
あの日から何度も繰り返してきた言葉。
笹雪は拳を握りしめた。
「くらええええぇぇぇぇっ!!」
笹雪は腰を落とし、渾身の一撃をたたき込んだ。
「死ねやああああああぁぁぁっ!!」
同じく梅が枝も拳を振りかぶった。
それぞれの拳が、それぞれの頬に食い込んだ。
その姿は後世の言葉で、クロスカウンターによるダブルノックアウトといわれる光景だった。
二人が倒れ伏したそのあと、塩辛声で「今じゃ」と叫ぶ声が聞こえた。
家の中に屈強な男たちが飛び込み家を荒らす女達を次々と取り押さえて言った。