争うはすべての女
笹雪は屋内を土足で歩きまわっている。
周囲では笹雪の連れてきた女達が笹雪を守るように取り囲み、向かってくる女達とつかみあいを演じていた。
小松は困っていた。何をしていいかわからない。適当な調度でもないか探してみるが、さすがにうわなり打ちに慣れているだけあって、その調度をどこかに隠すかしまいこんである。
「昔、八重の行李を見つけて、中の小袖をすべて引き裂いてやったから相手も懲りているようじゃの」
柳がそんなことを言った。
「あの赤い小袖がことのほか気に言っていたようで、あれを真っ二つに裂いてやった時のあの八重の顔ときたら」
二マーという擬音が付きそうな笑みを浮かべた。
何となく肌寒さを感じて、小松は自分の身を抱きしめた。
「どうやら、あ奴め、懲りたようだな」
何となくがらんとした室内を見回して柳は吠えたけった。
「いたなあ、八重」
「おいぼれが」
八重が憎々しげに吐き捨てる。
「八重があちらにいるということは、梅が枝はあちらじゃ」
柳が指差した方向に笹雪はとっさに目を向ける。
こくりとうなづくと、笹雪はその方向に走り始める。
小松はほんの数秒考え込んでいたが、柳のもとに戻った。
どんなに元気でも、柳は杖をつかねばならないほど足腰の弱った老婆なのだ。
ふいに小松の眼に床におかれた盆とその上の湯飲みが見えた。
笹雪たちが来る前にここでお湯を飲んでいたらしい、
小松はそのお盆とおかれた湯飲みをつかむと、思いっきりその一つを八重に投げつけた。
そしてほかの湯飲みをつかみ、視線を走らせる。
柳が数個の湯飲みを床にたたきつけた。
砕けたかわらけは草履をはいている柳達には早々危険ではないが、室内で裸足でいるこの家の女達には動きを抑制する効果がある。
しゃにむに八重に体当たりをかますと小松は柳の手を引いて、安全そうな場所を求めた。
その時、なよ竹と山吹はいまだにらみ合うままだった。
山吹の脇を狙った物干し竿を山吹はがっちりとその腕に捕まえるとそのままギリギリとひじに挟んで固定する。
なよ竹がどれほど引こうが離れない。
なよ竹の額に粘ついた汗がにじむ。
背後でどよめく声が上がったがそれにも気付かず物干し竿を握りしめている。
ギリギリと締め上げていた物干し竿の先端がいきなり折れた。
そのすきを逃さずなよ竹は竿をふるって山吹の顔を横からえぐった。
ついに山吹が膝をつく。
「若さの勝利か」
「いやまだまだいけるか」
そんな声は二人に届いていない。
山吹は再び砧をつかんだ。
笹雪は奥向きの部屋で、ようやく梅が枝を見つけた。
梅が枝は赤いこった模様の小袖に髪も油で溶かし、めかしこんで笹雪を迎えた。
そして笹雪を一瞥すると、そのぽってりとした唇に嘲笑を浮かべた。
「そんなざまだから捨てられるのよ」
青にかろうじて刺繍を施された小袖。
笹雪は歪んだ笑みを浮かべた。