あの時は早すぎて、今では遅すぎる
ずっと、好きだった。
生まれた時からずっと一緒で、幼稚園も小学校も中学校もずっと一緒で、これからもずっと一緒なのだと信じて疑わなかった。
いつから好きだったとか、どこが好きなのかとか、そんなの今さら言われても分からない。気づいた時から。今まで見てきた全部が。好きだったんだ。
小六の卒業式の日だっただろうか。好きな人に振られた、と俺の部屋に来て夜通し泣いた日があった。
俺にしろよ。幸せにするから、絶対。とか言って抱きしめてやれば良かったんだ。だけど、あの時の自分にそんな事できる程の余裕はなかった。俺はまだ未熟だった。まだ早かったんだ。
その時の事をずっとずっと考えて、十八歳になったらプロポーズするんだと幼い俺は考えた。俺がアイツを守ってやる。幸せにしてやる。男が結婚できるのは十八歳だと聞いた事があったから、せめてその時までは幼馴染みでいようと、その時決めた。
だけど、それは叶わなかった。
十五歳の時に、アイツが引っ越してしまったのだ。
行った事もないような、遠い遠い場所だった。引っ越しの前日、アイツがいつものように隣り合った部屋の窓を乗り越えて俺の部屋に来た。
「あした、だろ…」
「…うん」
「お前の母さんのタルト、もう食えねぇんだな」
「……うん」
確か、そんな何でもない話をした気がする。アイツは終始俯いたままで、俺に背を向けて座り込んでいた。
いっそのこと、言ってしまおうかとも考えた。俺の気持ちを全部ぶちまけてしまおうと。けれど、言ったところでアイツの引っ越しが無くなるわけではない。困らせるだけだと、そう思って、自分の気持ちに蓋をした。
結局、アイツは一度も目を合わさないまま帰っていった。窓枠を乗り越える瞬間、何かを呟いた気がした。
引っ越しの見送りの日は体調が悪いと嘘をついて部屋から出なかった。
たぶん、ずっと泣いてた。
それから十二年が経って、俺も何度か女の子と付き合ったけど、アイツの事が忘れられなくて長続きはしなかった。そんな女々しい自分が嫌で嫌で、仕方なかった。
そんな時、アイツが帰ってくるという噂が舞い込んできた。前と同じ、俺の隣の家に戻ってくると聞いて、戻ってくるという当日は居ても立ってもいられずに訳もなく家の前の公園をぐるぐると回っていた。
帰ってきたアイツは、俺よりもずっと背が高くて格好良い、優しそうな目をした旦那と、生後まだ四ヶ月だという、笑い方がアイツにそっくりな女の子と一緒だった。
うまく笑えていただろうか。お帰りと、おめでとうと、笑って言えていただろうか。引きつっていたかもしれない。
けれど、幸せそうにはにかむアイツを見たら、遠い昔に告白しようとしていた自分が何だかどうでもよくなってしまう。
遅すぎたと後悔する自分にさよならを告げよう。