卒業
「…ごめん、」
謝罪の言葉と同時に、息を飲むような声が聞こえた。
「…どうして、ですか…」
絞り出すように掠れた声で尋ねるのは、うちの学年で一位二位を争うほどの可愛い子。
目が大きくて、唇もつやつやで、背が小さくて声も可愛くて。女の私から見たって守ってあげたくなる。
彼女と私は、全然違う。
「俺にとって、生徒はいつまでも生徒だから
…だから、そういう対象として見る事はできない」
しばらくの沈黙が流れ、彼女は涙を流しながらその場を走り去っていった。美少女は泣き方も綺麗だな、なんて事をぼんやり考えた。
「………」
盗み見するつもりじゃ、なかった。ただ、先生を探してたら、偶然見てしまっただけだ。
けれど、あんな言葉を聞いてしまったら、もう言えない。
抱えた花束から、「先生の事が好きです」と書かれた手紙を抜き取る。手に力を込めれば、いとも簡単に握りつぶされる。
くしゃり。
私の心が、潰れる音を聞いた気がした。
「……せんせ、」
「ん、あぁ、卒業おめでとう」
ひょっこりと偶然通りかかった風を装って、先生の前に姿を現す。
先生は、私の想いなんてこれっぽっちも知らずに、いつものように笑いかける。
「…お世話になりました」
表面上は、感謝の気持ちを込めて。
震える手に気づかれないよう、花束を差し出す。
「はは、すごいな
これ俺が貰っちゃっていいの?」
「式が終わってから最初に会った人に渡そうと思ってたら、先生が」
嘘ばっかり。
泣きそうなのを悟られまいとすると、口が勝手にぺらぺらと嘘の言葉を並べ立てる。
「ん、ありがと」
「…はい」
けれど、先生の笑顔を見たら、何だかどうでも良くなってしまった。
「じゃぁね、先生」
「さようなら、だろ」
いつの日か、この想いを忘れる事が出来たのなら。
その時には笑い話として話せるように、今はこの胸に蓋をして。
私は貴方から、卒業します。