救済
「ただの通りすがりの衛騎士だ。力になるから仲間にいれてくれないか」
「誰がてめぇなんか。守りだけのヘボ騎士はいらねぇんだよ」
刀やナイフを持った男PC2人が、その男に襲いかかる。
「そうか・・・。それは残念だ」
長身の鎧男が長い剣、ロングソードと言える剣を出して構えた。まさに英騎士風な構えだ。
そのまま、剣を斜めに軽く振る。すると、男の周りに大きなバリアが出現した。
そのまま襲いかかった男PCはバリアに触れると吹き飛ばされてしまった。
「な、なんだこいつ」
「護衛が本業だが、仕方がない」
「ぜ、全員で潰しちまえ!」
そういうと、ほとんどのPCが鎧男に襲いかかる。
錬金術士だと思われるPCも、呪文を唱え始めた。
それでも、バリアは攻撃を受け付けない。それどころか吸収しているように見える。
「大人しく退いてくれ。不毛な争いはしたくない」
それでも「トリーズン」は後退しなかった。あちらにもプライドがあるらしい。
「少し手荒だが・・・」
鎧男が剣を横に振る。すると、剣の軌跡通りに衝撃波を飛ばしてきた。
どうやら、バリアが受けた攻撃分をそのまま衝撃波として跳ね返すらしい。
なんだか反則的な強さだ。
「お、お前はもしかして」
「『メドゥーサの盾』のエルか!」
「メドゥーサの盾?」
(メドゥーサってあの神話の?)
ギリシア神話に登場する怪物で、ゴルゴーン三姉妹の一人である。
宝石のように輝く目を持ち、見たものを石に変える能力を持つ。
それは、かつては見た者を恐怖で石のように硬直させてしまうことからいわれていたらしい。
「あまりの強さからそう呼ばれているみたいだが、本当に存在するPCだったとはな」
「私はその呼ばれ方を気に入ってはいないがな」
そう言った鎧男は、俺の方に歩き始めた。どうやら救世主みたいだ。
「君がコウヘイ君だね」
「俺のことを知っているのか?」
「もちろん。ある男に頼まれて連れてくるよう命じられた」
「ある男?」
「そうだ。その男は」
「待ちな!私を無視しておしゃべりかい。正義きどりの傭兵さんよぉ」
メルが怒鳴り散らすようにいう。仲間だった時の彼女とは違う、突然の豹変ぶりである。
「悪役きどりの君に言われたくないな。療術士さん」
「は!私にとってはあんたが悪役だね!私の楽しみを邪魔してくれたからね」
「確かにな。人は、自分の価値観だけで相手を評価しがちだ。善か悪かも結局、自分の都合で決めてしまう。君の言う通りだ」
「納得したならどきな!私の獲物だよ!」
「そうはいかない。私は依頼されている。彼を護衛しながら連れてこいと。その依頼を邪魔する君は私にとって悪だ。よって、退いてもらう」
「知らねぇよ、あんたの都合なんて!」
「そうか・・・仕方ない」
「グゥ!」
メルはその鎧男に吹き飛ばされてしまった。剣の衝撃波を飛ばしたのである。
「さぁ、ついてきてください。あなたに会わせたい人がいます」
「あんたはいったい・・・」
「詳しい話はあとにして、早くいきましょう。ここでは落ち着いて話もできません」
周りには「トリーズン」の残党がいる。確かにこれでは話もできない。
「・・・わかった。いくぞ、アイ」
「う、うん」
「ま、待て」
メルがボロボロな状態ながらもこちらに近づいてくる。とんでもない執念だ。
「・・・皮肉だな」
鎧男が呟く。
「天使が堕ちる、まさに堕天使。翼をもがれた天使は闇にのまれる」
「そ、それはどういう意味で・・・」
構わずさぁいこう、と鎧男が俺たちに言う。
俺は泣きべそをかくアイを引っ張って、鎧男についていく。
この男は何者なのか、誰に俺を会わせたいのか、謎な部分もあるがこの救世主を信じることにした。
これが、長い冒険の始まりとなる。「NEXTCITY」と呼ばれる、呪いのゲームでの冒険である。