捜索
「そうですか。ありがとうございました」
お礼を言うと、いかつい顔した中年PCは去っていった。
3時間聞き込みをして自分に関する有益な情報は得られなかった。
しかし、ゲームに関する情報は得られた。というよりついでレベルで聞いた。
単純な冒険RPG式で自然科学を題材にしたものらしい。
フィールドやダンジョンを攻略して、レアなアイテムを手に入れたり
レベルをあげるオンラインゲームらしい。
そして、仲間と協力して強いボスを倒したりして楽しむものらしい。
(しかし、どうしたものか)
自分に関する情報は皆無に等しかった。今後、どうすればよいのだろう。
(仕方ない。彼女に連絡してみるか)
3時間前に会った彼女に連絡してみることにした。
(ん?そういえば名前を聞いてなかったな)
登録時に適当に「少女」として登録していた。
(まぁいいや。直接会って聞いてみよう)
彼女の連絡アドレスを開くと、緑のアイコンの下に「ログイン中」とあった。
まだゲーム内にいるみたいだ。ショートメールを送ってみよう。
「や!久しぶり!」
「・・・会ったのはついさっきだがな」
少女はあどけなさを残した顔ではにかんでいた。どうやら楽天家な性格みたいだ。
「まぁまぁ、そんな小さなこと気にしない!」
「そ、そうだな。それで用件なんだけど」
彼女のテンションに着いていけないので、早めに用件を済ませることにした。
「さっきも聞いたと思うが、誰に頼まれて僕に会ったんだ?」
「わかんない」
「・・・なんでわかんないんだ?」
「わかんない」
負けるな俺。うろたえるな。耐えるんだ。
「じゃあ、君の名前は?」
「・・・わかんない」
「・・・ふざけてるのか?」
「いや、ほんとだよ。スタート画面見てみても空白なんだもん」
どういうことだ?バグか何かか?
「じゃあ実名のほうはどうなんだ。支障がなかったら教えてくれ」
半分やけになって聞いてみた。まぁどう返されるかは大体想像できる。
「・・・うーんと」
「そうだよな。教えられる訳が・・・」
「わかんない」
「はい?」
「わかんないのよね。自分のことが」
呆然としてしまった。自分と同じ境遇の人間がいるとは。
「もしかして君も記憶喪失なのか?リアルの方はどうなんだ」
「リアル?なんのこと?」
「いや、現実世界のことさ。ここをログアウトしたあとの世界だよ」
「・・・わかんないよ。なにを言ってるのか、わかんない」
「・・・俺も同様だ」
リアルを詮索されたくないのか。それとも本当に・・・。
「みんな、そう」
「うん?」
「私のことを理解してくれない・・・誰も・・・」
「それは・・・すまない」
しばらくの沈黙が続いた。が、俺は我慢できずに切り出した。
「・・・疲れた。ありがとう。もう帰るよ」
「あらら、もう終わり?わかった。じゃあね」
そう言うと、彼女はどこかへと走っていった。
(冗談をいっているようには見えない。本当に答えられない様子だったな)
話せば話すほど謎が深まる。俺の記憶喪失と関係があるのかもしれない。
(しかし、本当に疲れた。ゲームやめて、寝るか。)
俺は疲れた頭を抑えながら、ログアウトボタンを押した。