誓約
「やぁ、突然で驚かせちゃったかな。どうしても君に伝えておきたいことがあってね」
謎の少年が不敵な笑みを浮かべて続けた。
「おめでとう。君は選ばれたんだ。適合者に」
首をかしげながら不思議そうな顔をしている。
「信じられないような顔をしているね。ウケイができるんだよ、この僕とね」
ウケイ、とはなんのことだろう。
「まぁ、ウケイといっても軽く握手する程度だよ。今後もよろしくね」
そういって少年は手を差し出してきた。断る理由がなかったので握手をした。
「素直な人だね。これでウケイ成立だ。力が得られるのには少し時間がかかるから注意してね。あ、あと使いすぎには注意してね。じゃ、また」
少年がそういうと目の前が真っ暗になった。
「どうしたぁ、三上」
目が覚めたら、目の前に下品な顔があった。組合長だ。ここは森林組合の事務室みたいだ。
「お前、突然ぶっ倒れるから心配したぞ。仕事中なんだからしっかりしろよ」
「はい、すいませんでした。すぐに現場に戻ります」
「構わねぇよ、代わりの奴行かしたから。それよりお前、調子悪いなら休みとって帰れ」
「・・・わかりました。申し訳ありませんでした。福田組合長」
「いや、いいってことよ。こっち来てからたいして経ってないしな。まだ落ち着かないんだろ。このまま身体壊されても困るし」
大事にな、そういって組合長は荷物を持って出ていってしまった。
4月に就職して一年目、森林組合に就職してこの各務町に来た。
林業に興味があって就職を決めた。この町に興味があったわけではない。
林業を選んだのは特段理由があったわけではなかった。もちろん口では環境関係の知識をいかしたいとはいった。しかし、それは建前だ。
別に何でもよかった。就職できれば。
横断歩道を歩いていると、見慣れた空き地にパトカーが集まっていた。なにか事件があったみたいだ。事件現場と思われる場所に野次馬ができていた。
「なになに、なんの集まり?」
「人が死んでたみたいだよ。他殺の可能性があるみたい」
野次馬の女子高生がそんなことを話している。
「なんか身体が穴だらけだったらしいぜ」
「マジか。こえーな、今日部活やんねーで早めに帰ろうぜ」
「バカ、お前いつもだろ」
男子高校生が冗談混じりにそんな話をしている。俺はさほど興味がなかったのでそのまま通りすぎようとした。その時である。
「グッ!」
突然頭痛が襲ってきた。ちょうどつむじのあたりである。
しばらく歩いていたら治まってきた。
(なんだったんだ、さっきのは)
そんな疑問を抱きながら、そのまま帰宅した。
頭痛も倒れたのも過労が原因なんだろう。あのアホ組合長にコキ使われているせいか?
次の日は無事、仕事に戻れた。組合長は少し心配していたが、大丈夫なことがわかると意気揚々と現場にいく準備をした。本当に心配してくれてるのかはだはだ疑問である。
仕事が早めに終わり、夕暮れ前にいつもの道を歩いていると昨日の空き地に着いた。
(さすがに野次馬はもういないな。警察もいないみたいだ)
そのかわりに立ち入り禁止のテープが引いてあった。
空き地といってもガラクタの山が並んでいる場所なので少し異様な光景だった。どこかの工場敷地内に見える。
そのまま通りすぎようとしたら、空き地内でなにか黄色い物体が通った。
殺された人の亡霊かなにかか、と思い興味が湧いたので追いかけてみることにした。
すると、キツネらしき動物がガラクタの影に横たわっていた。
(なんだよ、イタチモドキか)
「イタチモドキじゃないよ、キツネだよ!」
「は!?」
キツネから明らかに声がした。なにかの悪戯か?
「なんのイベントだ?キツネの声を吹き替える大会か」
「違うよ!それより僕を助けてよ」
「は?なにからだ?猟師からか」
「野生化したゴーストからだよ」
「野生化したゴースト?」
「そう。人のモノに対する執着心が具現化した、心のなれの果てさ」
「なるほど、さまよう亡霊でゴーストか。いいネーミングセンスだ」
「そんなこといってないで助けてよ!すぐそこに来ちゃうから」
「フン、そんなバカみたいなこと・・・」
「グゴォォゥ」
確かにいた。俺と同じくらいの大きさの怪物が数十匹位。
ガラクタでできた熊みたいな姿をしていた。言葉でいうと可愛いが、実際はグロテスクに近い恐ろしい容姿である。
「なんだよ、こいつら」
「キシャャァ」手にはドリルのような鋭いトゲが何本もある。
今にも襲いかかってきそうだ。どうする。
「もしかして昨日のは」
昨日の男子高校生がしていた噂を思い出した。
(「なんか身体が穴だらけだったらしいぜ」)
(こいつらの仕業だったのか)
「キシャャァァァァァ」何匹かこちらに飛び付いてきた。
(もうダメか、こんなとこで)
完全に諦めかけたその時、目の前が真っ白になった。
「やぁ、また会えたね。三上君」
目の前には、夢の中で会った少年がいた。
「目覚めの時が来たね。力を解放するときが」
「お前、なにをいって」
「この僕、タケミカヅチの力をね」
ささやくように続ける「君には大きな可能性を感じるよ、全てを統治する者の資質を感じる」
「さぁ、この剣を手にとって」
少年から一本の剣を渡される。刃身がグニャグニャに曲がっている。
「荒らぶる神々を退ける霊剣、フツノミタマノツルギだ」
手にとると、神々しい光に包まれる。
「あまりに強力な力だから使い方に注意して。君が守りたいものに使えばいいんだ」
「そう、守りたいものにね・・・」
そのまま少年は消えてしまった。光と共に。
「ハァァァァ!!」