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猫、時々姫君  作者: 篠原皐月
第五章 姫、時々黒猫

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2.悩み深き為政者達

「それと、他にも幾つか、エリーシア殿の意見を聞かせて貰いたい事がある」

「何でしょうか?」

「例の、サイラス王子の事なんだが」

 タウロンが顔付きを改めて言い出した為、エリーシアも真顔で応じたが、つい数日前から同僚になった男についての話題になった途端、心底嫌そうに顔を歪めた。


「ああ……、あの年下の癖に口煩い、すれっからし元王子野郎の事ですね? もう元気にやってますよ。って言うか年下の上、私よりも新参者なんだから、少しは遠慮しろってのよ」

 国王の前である事を完璧に忘れて、エリーシアが忌々しげに悪態を吐いてバリバリと焼き菓子を頬張った為、タウロンは意外そうな表情になる。


「ほう? 思ったより随分、魔術師達の間で馴染んでいるらしいな。一応クラウスからは、真面目に職務に励んでいると報告は受けていたのだが、やはり異国人の上あんな陰謀に加担していた人間の事だから、是非直接接する事が多い、現場の人間の意見を聞いてみたいと思っていたのだが」

 その呟きを聞いて、エリーシアは口の中の菓子を飲み込み、お茶で流し込んでから淡々と告げた。


「王子と言っても、妾腹の上に第九王子で、小さい頃から冷遇されていたみたいですから。トレリア国から『サイラス王子は不慮の事故で既に死亡しており、そちらでその名を名乗っているのは偽者であるから、我が国は一切与り知らぬ事』なんて公式文書が届きましたから、あっさり見切りを付けたみたいですよ。あれは演技じゃないと思います。魔術師の力量があった事で周囲から便利屋扱いされていたみたいですから、今回トレリアを離れてせいせいしているみたいですし、母親ももう亡くなっていて、望郷の念に駆られる事も無さそうです。寧ろここで一日も早く確固たる生活基盤を作ろうと、努力していると思われます」

「それでは、今後の内通云々の心配はなさそうだな」

「自分を切り捨てた祖国に、盲目的に義理を立てる程の、馬鹿では無い事だけは確かです」

 きっぱり言い切ったエリーシアに、タウロンは満足そうに頷いて続けた。


「君の判断力を信じよう。一応、引き続き彼の監視……、というか、観察を続けて欲しい」

「承知いたしました。でもあいつを王宮専属魔術にしようだなんて、陛下や宰相様は随分豪胆でいらっしゃいますね。この話を最初に耳にした時、正直何を考えているのかと、呆れてしまいました」

 そんな正直な感想を述べると、何故か男二人は困ったように顔を見合わせた。


「あ、いや、それはだな……」

「元はと言えば、王妃様の発案なんだ」

「ミレーヌ様が、ですか?」

 彼女が関与しているとは夢にも思っていなかったエリーシアが目を瞬かせると、タウロンがその時のミレーヌの主張を簡潔に纏めて伝える。


「ああ。彼の処遇について検討している時に、『なかなかの力量の持ち主の魔術師など、放置しておくのは物騒ですし、かと言って死罪にする程でもないでしょう。有効利用しつつ手の内で監視するのが、最も妥当ではないですか?』と仰ってな。主だった面々で協議した結果、その方向で意見が纏まったんだ」

「……やっぱり只者ではありませんね」

 それをきいたエリーシアが、改めてミレーヌの底知れなさに感心しつつも呆れていると、ランセルが控え目に声をかけてきた。


「ところでエリーシア。実は、もう一つ重要な話があってだな……」

「なんでしょうか?」

 不思議そうに問い返したエリーシアに、今度はタウロンが問いかけてきた。


「その……、ジェリドの事なのだが……」

「はぁ……、あの人がどうかされましたか?」

「あれをどう思う?」

「正直に、思うところを聞かせて貰いたいのだが」

 真顔で二人に問われたエリーシアは、無言で眉を寄せてから、難しい顔のまま返答した。 


「実の父親と伯父の前で正直に口に出すには、一般的にどうかと思われる感想を抱いております」

 彼女なりに正直に述べた感想を聞いても、彼らは怒ったりはせず、寧ろ宥めるように頷いてみせた。


「うん、そうだな。そうだろう。無理に聞こうとは思わん」

「あれは能力に問題は無くとも、性格に些か問題が有るのは、こちらも既に分かっているからな」

「ですが……、まあ、シェリルに関しては、あまりぶっ飛んだ行動はしていないみたいなので、この際あの子を任せてみても宜しいんじゃ無いでしょうか?」

 二人が何を言いたいのか十分察したエリーシアが、そう先回りして言ってみると、案の定、彼らは驚いた表情になる。


「本当か!? エリーシア?」

「エリーシア殿……、思っていた以上の胆力の持ち主だな」

 半ば呆然としている二人に向かって、彼女は小さく肩を竦めてから、理路整然とその理由を説明し始めた。


「実際問題、シェリルが王女だと判明してしまいましたし、そうなると下手な所にお嫁に出す訳にはいきませんでしょう? 私としても他の国の王族とかに嫁がせるのは、滅多に会えなくなるから嫌ですし心配ですから。でも国内の貴族に降嫁する事になっても、公爵家か侯爵家位までですよね?」

「う、うむ……。その通りだ」

「それで婚約者が未定の、シェリルと年の頃が釣り合う男性となると限られてきますし、それ以前に誰かさんに『自分以外の奴にくれてやるとほざくなら、そこの家を丸ごとぶっ潰す』なんて事でも言われてはいないんですか?」

 そう問いかけると、ランセルは冷や汗を流しながら、タウロンは真顔で勧誘にかかった。


「一応、もう少し穏やかな口調だったがな。確かに、大体今言った様な内容の事を言われた」

「やはり洞察力が鋭いな。魔術師としてでは無く、官僚として仕えてみる気は無いか?」

 それを聞いたエリーシアは、その顔にはっきりと苦笑を浮かべた。


「官僚への勧誘はきっぱりお断りしますが、陛下や宰相閣下を困らせる気はありませんので、取り敢えず彼をシェリルの婚約者に据えて構いません。どうせ実際に結婚に持ち込むまでは、まだまだ時間がかかるでしょうし」

「そう言って貰えると、こちらは助かるが……」

「どうして当分先だと、断言できるのだ?」

 そのタウロンの問いに、エリーシアは彼等から視線を移し、窓の外の晴れ渡った空を見ながら、笑いを堪える口調で短く告げた。


「今日はこの陽気ですから」

「は? 天気がどうかしたのか? エリーシア」

 ランセルは怪訝な顔で窓の外と彼女を交互に見ながら問いを発したが、タウロンは少し考え込んでから、彼女同様笑いを堪える口調で呟いた。


「……なるほど。姫は今、一番楽な姿で、日光浴の真っ最中というわけか」

「はい、その通りです。人の姿で寛ぐ方が良くなるまで、まだまだ先は長そうですね。随分人の姿で生活する時間が長くなってきましたが、未だに頻繁に猫になっているのに、れっきとした上級貴族の公爵家に降嫁するのは、外聞が悪すぎると思いませんか?」

「違いない。我が家に来て頂く前に、その悪癖はきちんと直して頂かないといけませんな」

 そうしてエリーシアと顔を見合わせて楽しげに笑ってから、タウロンは義兄でもあるランセルに、笑顔で声をかけた。


「だそうですよ? 陛下。当分王宮にいらっしゃるようで、良かったですな」

「ああ」

 あからさまにほっとした顔で応えたランセルに、エリーシアは思わず笑いを誘われた。そして改めて今後の生活に思いを巡らせる。


(自称から公認の婚約者に格上げしたとは言っても、裏で色々糸を引いたりしないように、目を光らせておくけどね。それにもう少し、陛下にシェリルと親子らしい交流もさせてあげないといけないし。やっぱり当分忙しそうだわ)

 そんな事を考えながら、エリーシアは(これからの苦労に対する、ささやかな前払いよね)とばかりに、遠慮なく美味しいお茶とお菓子を楽しませて貰った。



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