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猫、時々姫君  作者: 篠原皐月
第四章 長過ぎる一日

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13.陰謀が露見する時

 当初、舞踏会は滞りなく進行していくかに見えた。

 まず主催者であるランセルから、出席者への挨拶と開会の宣言がなされ、続いて招待を受けた周辺各国の大使や、国元から派遣されてきた特使達が、タウロンが紹介する順に進み出て祝辞を述べ、贈答品の目録を献上する。その中にトレリア国の大使も含まれていたが、惚けているのか全く知らされていないのか、平然と祝いの言葉を口にして頭を下げていた。

 国王夫妻は何食わぬ顔でそれに応対していたが、横に控えているレオンは苦々しい思いを苦労して押し隠し、茶番じみた挨拶の場面を乗り切る。そしてタウロンが次に進めようとした所で、予想通りラミレス公爵からの横槍が入った。


「それでは皆様、国王ご夫妻が一曲踊られます。その後皆様で」

「陛下! お待ち下さい! この場で暫し、お時間を頂きたく存じます」

「何事だ、ラミレス公爵。場をわきまえろ!」

「はっ! 自分の能力の無さを棚に上げて、良くも言えたものだ。私がラウール殿下を陛下の御前にお連れして、どれだけの日数が経過していると思っている。未だにお立場を認めて頂けないとは、殿下がお気の毒で仕方がない。全て貴様の怠慢故だろうが!!」

 タウロンとラミレス公爵ケーリッヒが、一段高い所にある国王夫妻の席の前で睨み合う光景は、否応なしに各国の招待客から好奇の視線を集め、それを無言で眺めている国内の貴族達の表情は、期待に満ちたものと憤怒の表情とに、ほぼ二分されていた。

 

「認めろと仰るのは、何についてでしょうか?」

「しらばっくれるな! あのラウール殿下を、陛下の第一王子と認める事だ!」

 そう言って、自分同様、最前列に並んで控えていたラウールを指差しながらケーリッヒが絶叫した為、会場中の視線が彼に集まる。しかしラウールは平然と突き刺さる視線を受け止め、タウロンは彼を一顧だにせず主張を続けた。


「その事でしたら調査致しましたが、事実と認めるに至りませんでした」

「何だと!? あれだけの証拠も出したというのに、真実をねじ曲げる気か! この逆賊が!?」

 ケーリッヒは顔を真っ赤にして相手を怒鳴りつけたが、タウロンはそれに怯む事無く、寧ろ目を細めて静かに恫喝する。


「……ほう? この私を、逆賊とぬかしたか。どこの馬の骨とも知れない者を、王子だと戯れ言を言って引っ張り出した、この愚か者が」

「あくまでも殿下を偽者呼ばわりする気か、貴様!? ハリード男爵! 貴様からも一言言ってやれ! 相手は宰相だろうが構う事は無い! ラウール殿下の名誉に係わるぞ!」

 ケーリッヒが勢い良く振り返り、背後に控えている貴族達の並びに向かってそう叫ぶと、何となく人垣が左右に割れ、身分上最後尾に近い場所に控えていたハリード男爵の姿が辛うじて現れた。

 しかし彼の顔色は蒼白であり、その様子はランセルやミレーヌにも見て取れた為、ここら辺が潮時だろうと顔を見合わせて頷く。そしてランセルが静かに立ち上がった。


「ラミレス公爵、少し控えて貰おう。皆、私から話があるので、このまま聞いて欲しい」

 唐突にそんな風に呼び掛けられ、出席者は何事かと思いながら、彼の言葉を待った。それはケーリッヒも同様で、不満げな表情ながらも一応口を閉ざす。しかしランセルが本物のラウール王子、つまりシェリルが行方不明になった経緯を口にしようとしたところで、その騒ぎは勃発した。


「うわっ!! 何だ!?」

「ぐあっ!! いててっ!! おい、誰だ! 今開けた奴!?」

「いや、俺達は何も……」

「お前達が、中から開けたんじゃ無いのか?」

 大広間正面の扉が、内側で警備していた近衛兵を巻き添えにして、勢い良く左右に開かれた。そして扉の内外の兵達の間で困惑したやり取りが交わされている間に、騒ぎが室内で広がる。


「うわっ!」

「誰だ、今押したのは!!」

「きゃあ!! 危ない!」

 貴族達の並びの一角が、何かになぎ倒される様に崩れ、複数の悲鳴と怒声が生じる。ここに至って魔術の関与を察したクラウス以下、大広間に控えていた魔術師達が、騒ぎの中心に向かって一斉に探査及び攻撃に備える態勢になったが、悲鳴に混じって怒りの声が上がった。


「シェリル! まず、こいつだけは殴らせてくれ!」

「分かったわ! もう好きにしちゃって!!」

「え? シェリル?」

 その会話を辛うじて聞き分けたクラウスが、慌てて部下に身振りで攻撃解除の指示を出すと同時に、唐突にライトナー伯爵の目の前にディオンの姿が現れた。それに驚く暇もなく、伯爵がディオンに殴り倒される。


「よくもやってくれたな! このクズ野郎がっ!!」

 そしてライトナー伯爵が無言のまま倒れると同時に、ディオンは呆気に取られている貴族達を掻き分け、ハリード男爵の元に駆け寄った。そして両肩を掴みつつ、語気強く言い聞かせる。


「父さん、心配かけてしまって悪かった! 俺はこの通り無事だから、もう嘘なんかつかなくても大丈夫だ!」

 しかし予想外過ぎる展開に、ハリード男爵は目を丸くして固まった。


「……本当か? お前、本物のディオンか?」

「当たり前だ! 早く陛下に謝罪してくれ!」

 息子に肩を揺さぶられて叱責されたハリード男爵は、我に返って転がり出る様に国王夫妻の眼前に進んだ。そして傍らの息子同様片膝を付き、深々と頭を下げて声を張り上げる。


「誠に申し訳ありません、陛下! 先程の夜会で、ラウール殿下だとラミレス公爵が紹介した者を息子と言ったのは真っ赤な嘘で、こちらが真実、私の息子のディオンです!」

「なっ、何を言い出す! 貴様、気でも狂ったか!?」

 蒼白になったラミレス公爵が怒声を放ったが、ハリード男爵の告白は止まらなかった。


「私が保管していたという証拠の短剣も、元々ラミレス公爵から渡された物です。捕らわれた息子の身柄を盾に、口裏を合わせる様に脅迫されていた故の作り話で」

「ハリード男爵、黙れと言ってるだろうが!!」

「それに、公にはしておりませんが、ディオンの両親が誰かははっきりしております! 甚だ外聞が悪い話でありますので、これまで周囲に漏れない様にしておりましたが、必要とあらばこの場で洗いざらいお話し致します! ですが今回の騒動に、妻子は全く係わってはおりません。処罰に関しては何卒、妻子及び一族の者達には、ご配慮を頂きたく」

「黙れと言っているだろうが!!」

「黙るのは貴様だ! ラミレス公爵!!」

 ひたすら恐縮して頭を下げているハリード男爵のすぐ後ろで、ケーリッヒとタウロンが怒鳴り合ったが、ここで最前列にいたラウールが小さく舌打ちし、周囲に分からない様に小声で呪文を唱え始めた。


「……ユーイ・グェン・ヒュール・ラス」

「フィル・コゥ・トリム・ルージェ!!」

 しかしラウールが目的の魔法を発動する為の呪文を唱え終わる前に、大広間に響き渡った力強い詠唱がそれを打ち消し、更にラウール本人が拘束される羽目に陥った。


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