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猫、時々姫君  作者: 篠原皐月
第四章 長過ぎる一日

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3.一転して大ピンチ

 四本の脚の爪を立てて馬車の後部壁面にしがみついた彼女は、暫くは周囲に注意を払う余裕も無く過ごしていたが、徐々に出発地である王宮の周囲とは、明らかに景色が違ってくるのが分かった。


(ずいぶん来たわね……。周囲の様子がだいぶ変わってきたし、王都の端の方まで来たのかしら?)

 王宮を出てから、まず貴族の邸宅街と思われる地域を抜け、次に賑やかな商業地と職人達の街並みを抜けたと思ったら、一般の住宅街と思われる雑然とした地域を通って、いつの間にか家々の間隔がまばらに空いている地域になっていた。段々不審に思ったシェリルだったが、唐突に目の前に大きな門と高い塀を備えた屋敷が現れ、慌てて気を引き締める。

 馬車はその閉ざされた門の前でピタリと止まったが、御者の顔を確認した門番が、すぐに門を押し開けて馬車を通した。しかしその敷地内をざっと見回したシェリルは、密かに首を捻った。


(門や塀が立派な割には、庭が荒れているみたい。それに門の内側やお屋敷の前で警備している人達の服装がバラバラだし、雰囲気も柄が悪いと言うか何と言うか……)

 そこまで考えてシェリルが無意識に顔を顰めていると、屋敷の玄関前で静かに馬車が停まった。それと同時に自分の存在を気付かれないように、シェリルは素早く地面に飛び降り、馬車の下に潜り込んで死角に入る。


「やれやれ。今から王宮に戻っても、即位記念式典には間に合わんな。全く、事も有ろうに、こんな日に血迷うとは」

「それは申し訳無かった」

「……付いて来い」

 馬車から降りながら伯爵が悪態を吐いたが、男爵から全く誠意の籠もらない口調で謝罪され、気分を害した様に踵を返して玄関へと向かった。そこでシェリルは困ってしまう。


(どうしよう。不審に思われちゃうから、建物の中にまでのこのこ付いて行けないわ。でも……、あ、そうだ! あの手があった!)

 名案が閃いたシェリルは、素早く首輪に埋め込まれたガラス玉を前脚で探った。そして左から二番目の黄色のそれを探り当てると、それに触れながら強く念じる。


(起動!)

 すると難しい呪文の詠唱を省略し、ガラス玉に丁寧に封じられていた術式が、音も光も発生させる事無く作動した。そしてシェリルの姿が、余人には全く見えない状態になる。


(全然使って無かったから、この術式が封じてあった事をすっかり忘れてたわ。こんな所で役に立つなんて。お義父さん、ありがとう!! ……でも、これ、きちんと起動しているのかしら?)

 自分では全く効果の程が分からない為、伯爵や彼らを出迎えた人相の悪い男達の前に出て行くのは躊躇われたが、シェリルは勇気を振り絞って彼らの側まで走り寄った。しかし誰一人シェリルに気が付かないまま、気まずい空気を醸し出しつつ建物の中に入って行く。


(良かった。ちゃんと姿が見えなくなっているみたい。安心して付いて行けるわ)

 そして伯爵はある部屋に男爵を誘導したが、密かに続いて入室したシェリルの目には、ガランとした室内だけが映った。


「伯爵? ディオンはどこだ?」

 途端に問い質す視線を向けてきたハリード男爵に、伯爵がうんざりしきった表情を見せる。

「慌てるな。やはり一応ラミレス公爵の了解を取っておきたいからな。魔導鏡の回線をラミレス公爵の屋敷に繋いで、ちょっと話をして来るから、ここで大人しく待っていろ」

 そうしてライトナー伯爵達は部屋を出て行き、応接室らしきその部屋に一人取り残された男爵は、側に有った一人掛けのソファーに乱暴に腰を下ろし、肘掛けに片肘を乗せて頭を抱えて呻いた。


「全く……、どうしてこんな事になった。私達が一体、何をしたって言うんだ?」

 そんなハリード男爵の苦悩ぶりを目の当たりにしたシェリルは、かなり迷った。


(えっと、どうしよう……。男爵に姿を見せて、協力して貰うようにお願いするべきかしら? でも周りは敵だらけだし、どうして猫が喋っているのか、そこから説明を始めると長くなっちゃうだろうし……)

 決心がつかないまま男爵の周りをウロウロしているうちに、すぐに連絡がついたらしい伯爵が、手下らしき男達を連れて戻って来た。


「待たせたな。じゃあ地下室に案内する。付いて来い」

 それを聞いた男爵が、怒気を露わにして立ち上がって伯爵を非難した。

「地下室だと!? 貴様、ディオンをどんな所に閉じ込めているんだ!?」

 それに伯爵は、益々渋面になりながら応じる。


「言っておくが、これはあの馬鹿のせいだぞ?」

「何だと!?」

「何度も逃亡を図って、こちらの手勢に何人も怪我人が出たから、必要な措置を取ったまでだ。そうだ。ついでにこの際、息子に大人しくしているように言い含めておけ」

「ふざけるな……」

 どう考えても本末転倒な主張に男爵は歯軋りしたが、シェリルも思わず敷き詰められいる絨毯を叩きながら、心の中で怒りの声を上げた。


(本当に、何勝手な事を言ってるの、この人達!! 絶対許さないんだから!)

 しかし憤っているうちに、事態が動く。


(あ、え? ちょっと待って!!)

 シェリルが座り込んで絨毯を叩いている間に伯爵と男爵は素早く移動し、ドアから廊下へと出て行ってしまった。そしてシェリルの前で、素早くそのドアが閉じられる。

 慌てて駆け寄ったものの、ドアはきちんと閉められた後であり、丸いドアノブに飛び付いても回して開ける事はできず、シェリルは愕然となってドアの前に座り込んだ。


(嘘……、完全に閉じ込められちゃった?)

 そして改めて室内を見回し、時計で時刻を確認したシェリルは、あまりに予想外の事態に項垂れてしまった。


(もうお昼過ぎだし、夜には舞踏会だってあるのに。ここから出られなかったら、本物のディオンを探す事もできないわ。エリー! どうしよう!?)

 そうして涙目になりつつ、今この場に居ないエリーシアに思わず心中で助けを求めたシェリルだったが、すぐに気を取り直し、部屋から出る為の算段を必死に考え始めた。



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