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猫、時々姫君  作者: 篠原皐月
第三章 思惑渦巻く王宮

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13.暗躍する者達

 シェリル主催のお茶会に、ラウールとジェリドが乱入して一騒動あった翌日。事の顛末を魔導鏡越しに語ったミレーヌは、溜め息を吐いてから結論を述べた。


「……このような次第で、今現在、シェリルとジェリド殿は、婚約者に準ずる関係になっています」

「詠唱契約石とは盲点でしたね……。確かに今までその類の物をシェリルに見せたり、説明する事はありませんでした」

 鏡の向こうで唸るように応じたエリーシアに対し、ミレーヌが小さく頭を下げた。


「今回、ジェリド殿に勝手な事を許してしまい、申し訳ありません」

 その謝罪の言葉にエリーシアは恐縮し、盛大に両手を振りながら弁解した。

「いえ、ミレーヌ様、お気遣い無く。ああいう物は契約魔法の初歩の初歩なので、わざわざ説明しておこうという気も起きなかったんです。全面的に私の手落ちです」

「街で仕事をしていたあなたならともかく、シェリルが森で暮らしている分には、契約石を誰かと取り交わす必要など無かったでしょうからね」

「はい、仰る通りです」

 しみじみと語ったミレーヌに、エリーシアが神妙に頷く。するとミレーヌが気を取り直したように話を続けた。


「取り敢えず、この件が発覚した時激怒したレオン殿が、シェリルに懇々とお説教をした上で、契約魔法の類について、初歩から一通り叩き込……、いえ、懇切丁寧に説明してくれましたので、これ以上変な騙され方はしない筈です」

(シェリルったら、相当絞られたわね?)

 それを聞いて、思わず笑い出したくなってしまったエリーシアだったが、それを何とか堪えつつ頷く。


「そちらに戻りましたら、王太子殿下には改めて私からお礼を申し上げます」

 それにミレーヌも苦笑で応えてから、話題を変えた。

「そうして下さい。それからジェリド殿への対応はどうしますか?」

「当面、放置しておいて構いません」

「あら、そうなの?」

 淡々と述べた彼女にミレーヌが意外そうな顔になると、エリーシアはとある事情を口にした。


「はい。実は王都を出る前に、ジェリド殿と直に顔を合わせて、一応釘を刺しておきましたので」

「そうでしたか」

「婚約者面するなら、きっちり守って貰おうじゃないですか。万が一何か有ったら、契約石ごと持ち主も粉々にしてしまえば良いだけの話ですし」

 エリーシアは目を細めながら、物騒極まりない事を口にしたが、ミレーヌはそれを咎めたり怯える様子などは見せず、片手で口元を隠しながら楽しげに言ってのけた。


「まあ、随分怖いお話だこと」

「これはお耳汚しな事を口にしてしまいました。申し訳ありません」

 二人で神妙に言い合っていても、含み笑いをしているのが丸分かりであり、彼女達の傍らにそれぞれ控えているアクセスとクラウスは、両者揃って(女って怖いよなぁ)と遠い目をしてしまった。するとミレーヌが、本来目的としていた話題を口にする。


「それで、そちらの状況はどうですか?」

 その問いかけに、エリーシアと鏡の正面の場所を交代したアクセスが、難しい表情で報告を始める。


「あまり芳しくはありませんね。二十日後の、陛下の即位二十周年記念式典までには、何とかしたいのですが……」

「それに出席する為に入国者が増えたり、人の出入りも激しくなって知らない人間が出歩いても、あまり不審がられなくなっているので、そこら辺を突いてみます」

「王都での別働隊は、短剣を扱った細工師と、ラミレス公爵とライトナー伯爵双方の屋敷に出入りしている人物を特定済みです。仔細はそちらから、別個に王宮に報告がされますので」

 時折エリーシアが補足説明しながら短い報告は終わり、ミレーヌは小さく頷いた。


「分かりました。引き続きお願いします。ところでエリーシア。この場にシェリルを呼ばなくて良かったのですか?」

 てっきり顔を見たいだろうから呼んでおこうと考えていたミレーヌだったが、事前の連絡でその必要は無いと言われ、内心不思議に思っていた。するとエリーシアが苦笑いの表情になって、その理由を告げる。


「はい、実は私の方も、シェリルと離れて過ごすのは初めてなので、思ったより結構寂しかったみたいです。なので、頻繁に顔を合わせない方が良いかと」

 それを聞いたミレーヌは意外に思って軽く目を見開き、次いで小さく噴き出した。


「あら、それでは、シェリルの顔を見た途端に泣きそうなのかしら?」

「さすがにそこまでは……、でも、否定し切れません」

「あなたのそういう所が好きよ。エリーシア」

「ありがとうございます」

 そうして立場も年齢も異なる女二人がおかしそうに笑い合ってから、別れの挨拶を口にした。


「それでは失礼します」

「はい。お二人とも引き続き、気をつけて下さいね」

 そして魔導鏡を操作し、通信回線を切ったクラウスが、ミレーヌに向き直った。

「王妃様、終了しました」

「ご苦労様でした」

 そこで、難しい顔になったクラウスが、ミレーヌに問いかける。


「王妃様、ラミレス公爵の一派は、やはり記念式典の日に動くと思われますか?」

「これまで再三『ラウール殿下を第一王子と認定しろ』と要求してきていますしね。宰相達がその都度、のらりくらりとかわしていますが」

 落ち着き払って答えたミレーヌだったが、クラウスの顔は益々険しい物になった。


「国内貴族及び近隣諸国の大使が王宮で一堂に会するその日は、自分達の主張をアピールする絶好の機会ですね」

「この前の夜会で一応釘を刺したので、さすがに日中執り行われる即位記念式典をぶち壊す暴挙には出ないと思いますから、夜の舞踏会が狙われるのでは?」

 その予想に、クラウスは深く頷く。


「同感です。その直前を含めて、一悶着起きる事を前提にした対処法を考えておきます」

「陛下と宰相殿も同意見です。宜しくお願いします」

「畏まりました」

 一礼してクラウスが退出していくと、ミレーヌは若干疲れたように椅子の背もたれに背中を預けた。それを見た侍女が、気を利かせて声をかける。


「王妃様、気分直しにお茶でもいかがですか?」

「そうね。お願いします」

 微笑んでその心遣いに感謝しつつ、支度の為隣室に出て行く侍女の背中を見送ったミレーヌは、一人きりになった広い部屋で、何となく窓の外に視線を向けた。


「さあ……、愚者達は、どう出て来るでしょうね? なるべく双方にとって、最高の舞台を整えたいのだけれど……」

 そう呟いたミレーヌは、先程の侍女が支度を整えて戻って来るまで、様々な可能性について黙考していた。



 次回更新分から次章に突入します。

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