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猫、時々姫君  作者: 篠原 皐月
第一章 黒猫の秘密
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2.特別優先事項第一位案件

 翌朝、定時に出仕した彼は一度近衛騎士団本部に顔を出してから、王太子の執務室に向かった。

「失礼します、王太子殿下。クラウス殿もお呼び立てして、申し訳ありません」

 従兄弟同士ではあるが、いつも通り臣下としてジェリドが礼儀正しく挨拶をすると、王太子のレオンと予め本部から連絡を入れた王宮専属魔術長のクラウスが笑って応じた。


「朝からどうかしたのか?」

「特別優先事項、第一位に関する報告です」

 そのジェリドの硬い表情での報告で、二人の笑みが瞬時に消え去る。

「すまないが、人払いを頼む」

「畏まりました」

 言葉少なに傍らの補佐官に言い付けて下がらせた途端、レオンは顔色を変えて従兄に迫った。


「ジェリド、姉上の手掛かりを掴んだのか?」

「掴んだといいますか……、本人を目撃したかもしれません」

「なんだと!? 詳しく状況を説明しろ!!」

 クラウスも驚愕する中、ジェリドが順序立てて昨夜の内容を語った。


「そういう訳で、昨夜遭遇した王都外れの森に、クラウス殿も同行していただきたいのです。恐らく『エリー』と呼ばれていた女性が設置した防御結界を解除した上で、詳細について尋問するべきかと。今現在、国王陛下は視察で王宮外に出ておられますので、王太子殿下にその許可を……。クラウス殿、どうかされましたか?」

「どうした?」

 いつの間にかクラウスが片手で顔を覆っていたのに気付いたジェリドとレオンが訝しそうに声をかけると、彼はもの凄く気まずそうに言い出した。


「その『エリー』なら、私に心当たりがあります。既に亡くなっている、友人の養女です。因みにその友人というのは、私の前任者のアーデンの事ですが」

「はあぁ!?」

「しかし今の今まで、彼女はあの家で一人暮らしをしていると思っていたが……」

 レオンが驚きで絶句する中、クラウスが自問自答を始めたが、ジェリドだけは冷静に話を進めた。


「それならクラウス殿は、その女性と顔見知りなのですね? それに前魔術師長の養女なら、例の陰謀に関わっている可能性も皆無でしょう。これからすぐに出向いて、その女性に事の詳細を伺いたいのですが」

「そうだな。私も出る」

 ここで漸く気を取り直したらしく、レオンが会話に割って入った。しかしジェリドが渋い顔をする。


「殿下。陛下代行の公務はどうされるのですか?」

「そんなのは後回しだ。適当に処理しておくように、補佐官に言いつけておく」

「ですが事情が事情ですから、他に漏れないように護衛は私とクラウス殿だけですよ?」

「国内最強の護衛だな。何か不都合があるのか?」

「全く問題ありませんね」

「それでは急ぎましょう」

 レオンが目の前の二人を見ながら不敵に笑ってみせたことで、彼等は顔を見合わせて苦笑いし、小さく頷いてから早速行動に移った。




「シェリル、これからお客が来る事になったわ。その間、いつも通りどこかに隠れていてくれる?」

 寝室に飾ってある魔導鏡に通信が入ったのを察知したエリーが、誰かと話をしてから困り顔で戻って来た。そして事情を聴いた黒猫姿のシェリルは窓際に座ったまま快く頷いたものの、不思議そうに首を傾げる。


「それは良いけど、誰が来るの?」

「クラウスおじさんよ。なんだか急に直に確認したい事ができたとか。でも、これまでこんなに急に来る事はなかったのに、どうしたのかしら? 取り敢えず防御結界は、おじさんの気配を察知したら解除しておくわ」

 そう言って準備をするエリーを、シェリルは不思議そうに眺めていた。



 それから少しして来訪者が現れると、エリーの表情が微妙に変化した。

「おじさん、いらっしゃいませ……。同伴者がいると言っていましたか?」

「悪い。つい、言い忘れて。大丈夫、怪しい人物ではないから。私が保証するよ」

 慌てて弁解したクラウスの横で、同伴者の二人が冷静に自己紹介と挨拶をする。


「そちらの了承を事前に得ないまま、押し掛けてしまって申し訳ない。私は王太子のレオン・レスタ・エルマイン。こちらは私の従兄でもある、近衛騎士団第四軍司令官のジェリド・ミード・モンテラードだ」

「初めてお目にかかります、凄腕の魔術師殿。よろしくお願いします」

「こちらこそ、初めまして。エリーシア・グラードです」

 さり気なく手を伸ばしたジェリドを見て、レオンは(相変わらず女性にはマメだな)と呆れた視線を送った。その彼と握手を済ませてから、エリーシアは険しい表情で旧知の人物を問い質し始める。


「クラウスおじさん。どうしてこんな偉い人達と知り合いなの?」

「もの凄く今更だし、これまで確かに私も、自分の肩書きを口にした覚えはないが……。私が王宮専属魔術師長だということと、アーデンが私の前任者だったことは聞いていないかな?」

 クラウスが恐縮気味に述べた内容を聞いたエリーの顔から、瞬時に表情が抜け落ちた。

「全くの初耳です」

「……やっぱりそうか」

 そして二人揃って盛大な溜め息を吐いてから、エリーが冷静に客人達を促す。


「とにかく、中に入ってください」

「すまない」

「失礼する」

 そして小屋の中に招き入れられた男達は、目の前のテーブルに椅子が二つ向かい合って置かれているのを見て無言で頷いた。そんな中、エリーが何気なく声をかけてくる。


「取り敢えず、メインで話をするのはどなたですか?」

「私だが」

「それならそちらの椅子は、レオン殿下が使って下さい。おじさんは適当に、二人分の椅子を準備して貰えますか?」

「ああ、分かった」

 レオンが応じるとエリーが木製の椅子を勧め、彼はおとなしくそれに腰を下ろした。正直これに座るより、クラウスが魔術で空気を纏めて空中に浮かせた座面の方が座りやすそうだとは思ったが、それに関しては触れずに早速話を切り出す。


「この家には、黒猫がいるな?」

「……なんですか、いきなり」

「時間の無駄だ。いるのが前提で話をさせて貰うが、その黒猫には以前から妙な術式がかけられているよな?」

(シェリルの事がバレている? 昨日の夜の変な気配って、まさかこいつら!? でも術式まで判明しているなら、ここは素直に認めておくべきね)

 完全に予想外の話の流れになったことで、エリーは動揺しながらも瞬時に腹を括った。


「父と二人がかりで頑張ってかなり解析できていますが、あと一歩の所で解除術式が構築できていません。ですが殿下は、どうしてそれをご存じなのですか?」

 心底忌々しげに語ったエリーシアに、クラウスがしみじみとした口調で告げる。


「できれば、私だけには相談して欲しかった……」

「小さい頃は私も、どうして他の魔導師に協力を求めないのか不思議でしたが、父から例の《黒猫保護令》の話を聞いて納得しました。おじさんが王宮勤めの魔術師なら尚更です。例え友人付き合いをしていても、警戒して相談するわけがありません」

「そこら辺の事情も、完全に誤解されていたか。本当に失敗した。思い切ってアーデンには洗いざらい吐いて、協力を仰ぐべきだった……」

「おじさん?」

 クラウスの独白っぽい呟きにエリーシアが首を捻ると、彼はこれまで以上に真摯な口調で懇願してきた。


「とにかく、君とその猫の身の安全は私が保証する。迎えの馬車を差し向けるから、明日にでも王宮に出向いて貰えないだろうか?」

「どうしてですか?」

「その黒猫に施されている魔術の解除術式が、王宮の魔術師管理棟に存在しているからだ」

「ちょっと待ってください。どうしてそんな物が王宮にあるんですか?」

「クラウス、ここから先は私が説明する」 

 ここで警戒心を露わにしたエリーシアに向かって、レオンが単刀直入に衝撃の事実を口にした。


「エリーシア・グラード殿。驚かれると思うが、恐らくあなたと一緒に生活している黒猫は私の異母姉で、この国の第一王女だ」

「……はい?」

(どうして!? 私が王女様!?)

 こっそり屋根裏で話を聞いていたシェリルは勿論、エリーシアも驚愕のあまり固まった。しかしその反応は容易に予測できており、レオンは小さく溜め息を吐いて話を続ける。


「これは王家の恥ずべき失態であるので、今まで外部に漏れないようにひた隠しにしていたが、姉上の保護者であるあなたには聞く権利があるし、私の責任で全ての事情を説明する」

「拝聴します」

 そうして真剣な面持ちで頷き、居住まいを正したエリーシアに向かって、レオンが彼女達にとっては予想外、且つとんでもない内容を語り始めた。


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