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猫、時々姫君  作者: 篠原皐月
第三章 思惑渦巻く王宮

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6.真の黒幕

「まず結論から申し上げますと、自称ラウール殿下は、ハリード男爵令息ディオン本人では無い可能性が濃厚です。そして連中の背後には、トレリア国の存在が透けて見えます」

 それを聞いた瞬間、ラスティが厳めしい表情を更に険しくした。ミレーヌ達も無言のまま、緊張した顔付きになる。


「何だと? 条件に合致する人間が、ハリード男爵の息子になりすましている可能性は考えていたが、どうしてトレリア国の名前が出て来た?」

「それはこちらのエリーのお手柄です。両替所で『このままハウエルス国まで足を伸ばそうかしら? ここである程度纏まった金額を、ハウエルスの通貨に両替できますか?』とかの世間話から、ほぼ2ヶ月前にトレリア国のグェン金貨を大量に持ち込んだ、十人前後の旅行者が居た事を聞き出しました。他にもトレリアを含む東方のデザインの服装の彼等が、この国の服を大量に買い込んだり、この国の料理を『初めて食べたが美味い』とか言っていた事とかを各店で聞き出しています。他にも幾つかの事実を総合しますと、ほぼ間違いないかと思われます」

「……なるほど」

 難しい顔のままラスティがエリーシアに視線を移すと、彼女は無言で頷いた。室内の人間の殆どは、彼等のやり取りの内容に納得していたが、ピンと来なかったシェリルだけは真顔で考え込む。それを察したのか、レオンが僅かに体を寄せて囁いてきた。


「シェリル。地理は勉強したとは思うが、我が国とスーア地方で国境を接しているのがハウエルス国で、トレリア国はその国を挟んで東方に位置している。ここまでは分かるか?」

「え、ええ、なんとか」

 かなり冷や汗もので返したシェリルだったが、レオンは深く突っ込まずに懇切丁寧な解説を加えた。


「普通、スーア地方から侵攻してくるならハウエルスと考えるのが妥当だが、そこには父の姉、つまり俺達の伯母が国王に嫁いでいる。それ以来、両国の関係は良好なんだ」

「それは初耳だったわ。だから偽者の背後に他国の魔術師が関与しているかもって話になった時、皆が複雑な表情になってたのね?」

 そう言って納得した顔付きになったシェリルに、レオンは頷きながら説明を続けた。


「そういう事。だがその向こうに位置するトレリアが絡んできているとなると、話は別だ」

「どうして?」

 一転して不思議そうな顔になったシェリルだったが、レオンが苦々しい顔で説明を続ける。


「五年十年先を見越して、こちらとハウエルスの関係を悪化させ、この国とトレリアの双方向から同時にハウエルスを攻めて占領した後、領土を分割併合する様な、謀略の可能性が出てくるんだ」

「そうか……。こことハウエルスの仲が良いなら、もしトレリアが攻めてもこの国が味方して戦う筈だから、予め自分達の味方をする王子を作っておこうって事なのね……」

「そういう事だ」

 漸く合点がいったシェリルがそのスケールの大きさに呆然としている間に、鏡の中ではアクセスがエリーシアを勧誘し始めた。


「いや~本当に、美人で頭の回転が早くて度胸が良い女性が相方だと、情報収集が楽で良いな。エリーシア、魔術師勤務の傍ら本当に俺の部下にならないか? 俸給は弾むよ?」

「ありがとうございます、アクセスさん。でも魔術師としてだけで、十分過ぎる俸給が有りますので。それより話を横道に逸らすなと、総司令官様が無言で睨んでいらっしゃいますよ?」

「はは……、表向きの直属の上司がジェリドで、本当の直属の上司はラスティ様か……。俺の上司運って、本当にろくでもないよな……」

 そんな呟きを耳にしたシェリルが、不思議そうにレオンに囁く。


「ジェリドさんが上司だと、何か拙いんですか? 確かに司令官って感じでは無いし、随分若いのかもしれないけど……。あ、そうか! アクセスさんより随分年下だから、お互い変に気を遣って大変なのね?」

 如何にもありそうな事を思い浮かべてシェリルは一人で納得したが、何故かここでレオンは口ごもった。


「いや、あいつらはそんな事は気にしないから……。と言うか、そんな細かい事を気にする様な人間は、第四軍には皆無だと思っていい」

「そうなの?」

「ああ。近衛軍第四軍は奇人変人の集団で」

「レオン殿下、私語は慎んで頂きましょう。アクセスもだ」

「……悪かった」

「申し訳ありません」

 ラスティから低い声で鋭く叱責され、二人は素直に頭を下げた。それに呆れた表情を見せたエリーシアが、話を引き取る。


「それでハリード男爵子息のディオンですが、この数年、彼が王都に現れていなかった理由が分かりました。ハリード男爵所有の館が三年前に失火で焼け落ち、その際に逃げ遅れて顔の左上方と左肩に酷い火傷を負ったそうです」

「火傷、ですか? 治療はしたのでしょう? 死亡届けなどは出ていない筈ですし」

 ミレーヌとしては生存しているなら、きちんとした治療を受けて問題無く回復している筈と考え、エリーシアが何故わざわざそれに言及したのかが分からなかったのだが、その疑問にはアクセスが答えた。


「これ位田舎になりますと、王都と違って腕の良い魔術師や薬師を見つけるのも一苦労ですし、治療費もかさみます。加えてその年は不作で収入も少なかった上、館の再建費用も必要で物入りだったみたいですから」

「本人が『顔に痕が残っても支障がないから』と言って必要以上の皮膚の回復治療はせず、それ以降『周囲の方に見苦しい物をお見せできないから』と、養父母に付いて王都に出向くのも控えたらしいです」

「それでは、ディオン本人には、今でも顔に火傷の痕が有るのですね?」

 慎重にミレーヌが確認を入れたが、これには残念そうな声が返ってきた。


「その筈ですが……、そうラミレス公爵に問い質しても『こちらで腕の良い魔術師と薬師を手配して、完治させた』と言われてお終いかと」

「痛いのは男爵の館が消失して、それまでの本人を写した魔術像や肖像画の類が、全く残っていない事なんです。火傷をした後は『見苦しい物を残すのは気が引ける』と言って、その手の物は残していませんし。黒髪に琥珀色の瞳なのは領民の証言からもはっきりしているのですが」

「なるほど。ディオン本人を公の場に引っ張り出す以外に、あのラウールを偽者だと万人に認めさせる事は難しいのですね」

 そう結論付けたミレーヌに、アクセスが真顔で頷く。


「そうなります。今、王都に残している部下と二面作戦で、ディオン本人の居場所とラミレス公爵とトレリアとの繋がりを捜索中ですので、もう暫くお待ち下さい」

「分かりました。大変だと思いますが、宜しくお願いします。それからエリーシア。あなたが探索向きの人間だとは分かりましたが、色々気をつけて下さいね?」

「はい、余計な心配をおかけしないよう、十分注意致します」

 それからラスティとアクセスの間で実務的な相談が幾つか話されてから、その通信を終える事となった。



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