続:ゲームの主人公がイラついてしょうがない件に関して
さて、入学早々リラの部屋で午前様まで過ごしてしまった。
フィリップとリラ、更には俺の学力も上がったから万☆々☆歳だ。やったね。
…………すまん、わかっているから現実逃避をさせておくれ。
Qまず、俺の目的はなんだ?
Aゴーマン君のためにも出来るだけ長く生きること。
彼のためにも弟妹はしっかり守る。
Qそのために必要なのは?
A主人公の仇役をしっかり演じ、彼らを覚醒させること。
Q今、何をした?
A朝まで主人公(+運命共同体)に勉強を教えていました。
…………………………あは★
冷や汗が、止まらない。
とりあえず、
「明日から頑張ろう!」
死亡フラグ建ててベットに倒れ込みました。
「俺の物語はまだまだ始まったばかりだっ!」
朝、一縷の望みをかけてベッドから立ち上がる。
朝日が見える。
希望の朝だ。
ゴーマン先生の次回作に期待してください。
こんな風に、爽やかに打ち切れたらいいね。あは☆
残念。人生は続くのだ。
とりあえず、床に寝たまま起き上がらないフィリップは放っておいて、生存戦略を練る。
(……とりあえず、好感度は最悪、フィリップに胸でも揉ませて下げればいい)
え?卑怯?せめて自分でいけ?何のことやら?え?当然、冗談でしたよ、冗談。
まさか、彼が実行に移すなんて……非常に遺憾であります!
……よしっ☆次!
次はどのように、システムに沿って主人公達を育成させるか、だ。
いくら“タンポポとクローバー”が恋愛をメインにしているから、といってラスボスが簡単に倒せる訳がない。
ましてや、ゲームと違ってセーブとロードはないのだ。確実に勝てるレベルまでは、もっていきたい。
しかし、情報を与える際、気をつけなくてはならないのは、接触しないこと。
不用意なイベント、それも原作乖離したイベントを起こし過ぎると、イベントコントロールが出来なくなる可能性もある。
既に出来てない気もするが、とにかくリラの好感度を下げて、絶対に負けたくない相手と認識させる必要がある。
だが、登校時間までに結論は出ず、僕は遅刻ギリギリに教室に滑りこもうとして気付いた。
「匿名のメモをリラの下駄箱に入れればよくね?」
そうだ。今度からノートもここに入れよう。
なお、下駄箱のゴーマン君のスペースは、既に壊され、中はゴミだらけでしたとさ。
合掌っ!
side 主人公
貴方は貴族をどう思う?
あたし?あたしは当然嫌い。それどころか憎い。
あたし達はいくら何かをやろうが認められない。生活だって保証されない。
なのに、産まれが貴族だから、ってだけで威張っている奴は大嫌いだ。
でも、最近貴族なのに嫌いになれなくて困っているやつがいる。
「はっ……へ、平民。……は……らしく……言えるかぁぁ、ボケェェェエ!」
「き、貴様。何故話しかけてくる。いや、照れたりしていない、というか来るな、現実逃避させろ」
「ふっ、君なんかが僕に話しかけようなど……え……?
一学期末のテストでパーティー組まないか?
……………………平民同士フィリップで我慢しろ」
そう。こいつは偉ぶろうとして失敗する。
堂々としていればいいのに、いつも凄く恥ずかしそうだ。
そのせいでクラスからイジメの対象に設定されている。
それだけだったら、あたしはそんな態度やめればいいのに、と思うだけだろう。
けれどこいつは、それだけじゃなく、誰よりも努力をする。
真面目に授業を受け、復習を怠らない。頼みもしないのに、ノートやメモを下駄箱に入れてくれたりする、お節介な所は欠点かも知れない。
「はっ。何か用かな?余り、僕を……え?今日の授業を教えて欲しい?
まかせ……いいだろう、言ってみろ」
「ふっ。メモ?何を寝ぼけ……何?
止めろ、まずはランニングで基礎体力をつけないと怪我をして危ない……
ま、まあ、僕に関係はないけどな」
「いい加減に……え?
勉強会。勝手に……可笑しいだろ!なんでゴーマンがヒーローの立ち位置やねん!」
でも、それすら魅力に感じる程親切だ。
でも、今日の放課後まではこんな貴族いたんだ、程度にしかあたしは意識していなかった。
そう、あれは今日の放課後、校舎裏から変な声が聞こえてきたんだ……
side ゴーマン
リポビタ○D……チオ○タドリンク……
駆け巡る思いは栄養ドリンクへのもの。あれは本当にいいものだ。
うへへへへ…………生命は素晴らしい……
ゴーマン君(つまり俺)の生存戦略を開始してから1ヶ月。
朝→食堂のおばちゃんから嫌みを言われ、クラスメートから虐められる。
昼→リラが無駄に主人公体質と向学心を発揮し、面倒を見させられる。
夜(夕)→フィリップが俺のノートを写している横で、本物のゴーマン君目指して修行。
その間の俺の生活サイクルは大体こんな感じだ。
無駄な時間、一切なし。
我ながらストイックだ。なのに、計算すると、次の闘いのゴーマンスペックになるためには猶予がほとんどない。
いや、本当に惜しい男を亡くした……
彼、少し劣るけどラスボスと単独で渡りあえる能力だったしな。
更に、リラが酷い。今のところ、仲間がフィリップ(生け贄)とミラ(親友)しかいない。
最大6人のパーティーが組めるのに、恋愛イベントどころか加入イベントもほとんど起こさないから、胃痛がする限りだ。
けど、もういい。修行途中だけど、今日はキレた。
今日起こるイベントで悪役を追い払い、ヒロインを一人ゲットしてやる。
可愛い女の子はいるだけで、清涼剤になってくれるからな。
そんなわけで、フィリップにはトイレに行くと言付け、校舎裏に行く。
そう。一部の人は定番のあれ、だと気付いているかもしれない。
うへへへへ……可愛い女の子はいねがぁ?
覗いてみると、ビンゴッ!原作知識が久しぶりに役にたった。複数の男達が二人の女の子を羽交い締めにしていたのだ。
来たっ!定番の強姦イベントだ!
え…………ふた……り?えと、あと一人ダレ?
まあ、いい。ゲームと多少の齟齬くらいはあるだろう。そして、ゴーマン君がヒロインを攻略するのも齟齬の内。
文句があるか?
ないよね?!
ないはずだ!(キリッ)
さて、そうと決めたら、全軍突撃ぃぃい!
この時の俺は、本当にどうかしていた。強姦されそうになっている、もう一人が誰か?
そもそも、自分が関わらない所はゲーム通りに動いているのに、例外なんて想定するのは間違っている。
そう、これは少し考えればわかったことだ。
「そこまでだ!教師を呼んだっ!
逃げるなら今の内だぞっ!」
その言葉に反射的にどこかへ逃げ出す、男共。
やりぃ!
この後は、原作だと念願の女の子とのハグだ。さあ、俺の胸に飛び込んで泣きな、そして俺を癒してくれ、ハニー。
一瞬の間の後、ドン、と来る衝撃。二人分の重さで体育館裏に押し倒される。
「うにゃっぁぁぁぁ」
片方は金髪の髪を腰まで伸ばし、その金糸の内二房を縛った美少女。ここで救った事により、初めて接点のできるクラスメート、ミハネ。
…………そして。もう片方は……
「ゴーマンッ!
……っ、ふぇ、怖かったよぉぉぉお!」
リラ、だった。
……………………………………いや。
……ウェイト。プリーズ、ウェイト。
“タンポポとクローバー”はエロゲーではない。そして、鬼畜ゲームでもない。
このイベントに主人公が関わった場合。
男女関わらず、“助けに行く”or“大声をあげる”という選択肢が出て、どちらでもこんな展開にならな--
「あたし、迷っちゃって……
助けに行くか、大声をあげようか、しようとして、出来なくて…………」
…………嗚呼。
まさか……こいつは…………選択肢を選べずに……
恋愛シュミレーションゲームに置いて、プレイヤーは大抵、選択肢を考えて選ぶことができる。まあ、考えるよりもセーブとロードを繰り返した方が効率的なので、あまりやらないけどね。
そして、迷って動けない場合を“タンポポとクローバー”では再現していない。つまり、プレイヤーが選択肢を選ぶまで時間は進まない。
が、時間という概念がここにはある。
リラは迷った結果……エロ同人チックな展開になってしまったのだ!
oh…………詰んだ☆
流石に、助けなくてよかったとまでは思わない。
元々、このイベントだけ主人公に教えなかったのは、ミハネが俺好み……ではなく、どんなイレギュラーが起きても、そんな胸糞が悪いことはさせないため。
だが、果てしなく詰んだ。
この状態から好感度を落とすのは無理。
セクハラも手段として考えたが、問題起こして学園を退学したら、それ以前の問題となる。
男主人公の行動?……参考になるかっ!
落とし神だぜ?イケメン(勿論、作中にそんな描写はない)で謙虚で恩を着せたりしない……
あっ……
とても恩着せがましくすれば、よくね?
ミハネは惜しいがここで、
貞操救ったんだから俺の女になれ、
くらい言えば、女の敵認定されて色々やりやすくなるんじゃね?
我ながら名案だ!
「ふっ……。精々……しろ」
「うん……うん……ありがとね……」
さあ、このタイミングだ。集中して……
「あと、お前ら、お、俺の女になれ」
心の中でガッツポーズ。どもらなかった。チキらなかった。
流石、俺。成長している。着実に成長しているぜ。
なんでギャルゲーの世界で女の敵やってんのか、理解できんけど。
リラとミハネは怒りで顔を赤くして、ボコボコに俺を殴る。
彼方へ消えていくリラの姿を見送りながら、この世界に来てからの初めての成功に俺はほくそ笑んだ。
性格もゴーマン君っぽく振る舞っているし、口調だってやればできる。しかも、ミハネとリラの接点が出来る、というオマケ付き。もしかしたら、4人目の仲間になってくれるかもしれない。
後は、二学期の対決イベントまで息を潜めて、と。
あはははは☆やったね☆
なお、フラグをへし折ってしまったミハネの事を想って涙したのは、内緒のお話だ。
side 主人公
校舎裏で助けて貰った後、あ、あたし、あたし達はカフェで話し合っていた。
とはいえ、さっきのショッキングな出来事についてではない。い、いや、確かにショッキングな出来事についてなんだけど。
「あれっ、あれ、だよね」
「……~っ!う、うん。そう思う」
「「こ、告白」」
それ以上に衝撃的なことがあったからだ。
も、もう少し言葉がロマンチックだったらとか、二人同時になんてとか、思わなくもない。
けど、男の子から積極的にされたのは初めてだし、世継ぎをつくるため、貴族は複数同時に愛するというのを聞いたことがある。
普通の子が言ったら、女を物扱いして、とか思うが、恥ずかしがり屋で傲慢の仮面を被っている彼のことだ。
きっと、思わず憎まれ口がついてしまったのだろう。
けれど、それは偽りのない本音で……うん、ちょっと強引なのも……
顔は悪くないし、性格だって悪くない。家はお金持ちだ。
恋はしてみたい。で、でも………………あぅあぅ。
「ミ、ミハネはどうするの?」
「リ、リラこそっ」
「あ、あたしは……大体、ミハネはいいの?
あ、あのゴーマンだよ?クラスで嫌われている」
「わ、私は別に嫌ってないし。む、むしろ--」
少女達の恋バナは夜が更けるまで続いた。
なお、“俺の女になれ”は少女漫画などで積極的なヒーローがヒロインに使う言葉だったりする。
……そう、例えばゴーマン君みたいなスペックの。