8面
●8面「オープニング」
大陸北西の都市、ブラウノース侵攻軍を撃破し、神魂騎士団は、メンバーのバラデロ・ハンマーシュミットの出身地、ここから南東の城塞都市、パーパロットへと次は侵攻するものと準備を進めていたが、神官ヘムによる指示は、意外なものであった。ガリリア王国の始祖、ユーライア民族の侵攻によって、約400年に渡り、大陸の西に追いやられ、しいたげられてきた蛮族と呼ばれる原住民たちを、国家結束同盟は国費を投じて神魂騎士団の殲滅に利用しようと、ここから南西にあたる、蛮族領の国境沿いに駐屯地をつくり、蛮族の猛者をあつめて、解放されたブラウノース、オーランゲ方面を狙っているとの事で、急遽南西方面の駐屯地へと進路を変えることとなった。
慈しみ深き僧侶、クレア・ハルトマンはその命を聞き暗い表情で、
「蛮族などという言い方はしているけど、ガリリア大陸は元々彼らのものを奪ってしまった訳よね…。ガリリアの戦を西の地に持ち込むなんて、正直いい気はしないわね。」
「ヘムのおっちゃん、『神々は無益な戦いは好まない』んじゃないの?オイラわざわざ西の人達を攻めるなんて、戦争が大きくなっちゃうだけじゃないの?オイラ怖いよ…。」
「所詮人間…、思慮が足りないようですね。戦の元は小さいうちに絶つのが鉄則。放っておけば西の勢力と東の円卓騎士団の両方に挟撃される恐れがあります。分かりませんか?」
「クレア、心配するな。オレ達はあれだけの大軍をブッ潰してきたんだゼ。駐屯地のひとつやふたつ…。」
「スパーダ、そういう事を言ってるんじゃないのよ。プロフットさんの所で見てきたんじゃないの?争いは争いを生み、戦いの怨みは一生残された者にのしかかっていくのよ。それだけ強いって言うのなら、直に円卓騎士団のところに直行すれば良いんではなくて?」
「それはなりません!クレア、あなたは子を神に救ってもらった恩義を軽んじてるようですね…。もの分かりの悪い低俗な人間達には失望です。ツヴァイ・ガリリア18世を筆頭とした神魂騎士団の活躍は、円卓騎士団に反抗する者達の希望となります。そして、各地を開放していくことによって、現ガリリア18世と、どちらが王の器にふさわしいのか、その民衆の忠誠を高めるための戦いでもあるのです。賢しいことを言うものでは有りませんよ!」
「戦火を広げるのが神の正義とでも言うのですか…?」
「クレアさん。あなたのいう事は僕はわかります。でも、国を乱し、果ては西の民まで利用しようとする彼ら円卓騎士団のやり方には承伏できません。争いをおさめるために我々神魂騎士はいます。」
フェーザーがいさめ、二頭立ての馬車から黒翼を離し、槍を片手に持ったハヤブサが到着を告げる。
「みなさん。到着しましたよ。戦いは、つらいけど…」
「ハヤブサさん、僕達は決して負けられません!いかなる敵も貫く矛となれ!神魂騎士団、いきますよ!」
王位継承権第2位、ツヴァイ・ガリリア18世ことフェーザー・ブルゲングルツは猛り、大きく叫んだ!
国家結束同盟の差し向けた、黒い革鎧に身をつつんだ「影」は2000万ギエンもの大金をたずさえて、急遽しつらえられた戦陣に、西の民の武将たちをあつめて、東への侵攻の準備を着々と整えていた…。
「メグロ殿、我々と敵対する神魂騎士団と名乗る者達、あわよくばあなた方の西の地を我が物として、悪政をしいてきた教皇政治の復活をもくろむ者。この戦に決着がつけば、あなた方の国家の独立も我々円卓騎士団の主は考えておられます。その証にここにある金、お国のためにご自由にお使いください。」
「うむ、おまえら円卓騎士団は、ガリリア王国のやり方とは違い、少しは話がわかるようだな。つまるところ、ワシらにもそのこざかしい者達の掃除をしろと言うのだな?して、その軍勢は?」
「約10名と聞き及んでおります。そしてブラウノースの300人の軍を殲滅したとのこと…」
「おぬし!ワシら一族を馬鹿にしておるのか?たかだか10名で、一部とはいえここにいる豪の者、集うこと2000名、うぬらのふぬけた兵どもとは鍛え方が違う!馬鹿に、馬鹿にしておるのかぁ!!渇!!!」
「…謹んで申し上げよう、あなた方も死力を尽くさねば、彼らを倒すことはかないますまい。だからこそ、我が国との友好をもって、素早く挟撃の策を講じたいと主は言っております…。」
「ぬるい!ぬるすぎる!我、鉄壁のメグロと呼ばれたこの身、にわか騎士共に見劣るわけがなかろう!」
「見張りやぐらから伝令!馬車に乗った数人が我が陣に向けて近づいています!いかがしましょう!?」
「おぬし、謀ったな!挟撃といいつつ、ここに誘い込むとは!」
「いや、これは我々の意図では…ぐあっ!」
(武将の長)は怒りにまかせて振り回せることが信じがたい大斧で、「影」を横に薙ぎ、身体を上下真っ二つに引き裂いた!
「皆の者、急いで戦支度を整えよ、たかだか数人に蹂躙されるようなワシらではない!戦功をあげたものは、大陸のこの金を思う存分分け与えよう!」
慌ただしい足音が周囲を駆け巡る。そして大斧の感触を確かめるように、武将の長、メグロが号令を発する。
「皆の者、ワシらの力を見せよ。存分に猛り狂うのだ!! 」
(8面開始)
(8面敵殲滅にて終了)
神魂騎士団の獅子奮迅の活躍に敗地にまみれるメグロ…
「気の毒だけど、決着はついたよ。」
「アンタが10人いればオレ達と互角だったぜ!」
「むうん、我が軍が数人に蹴散らされるとは、信じがたい…」
両手を地につき、完敗をかみしめるメグロ…。
「神官ヘム、この者はもう戦意を喪失しています、その者を殺めるのは、魔道にも反します」
神魂騎士団の面々は、大局が決した中、力尽きるまで戦った、武人としてのメグロに、敬意さえ感じていた。
「手ぬるい…神はあなたがたの選別を間違えたのかもしれませんね…。」
光と共にきらびやかな装束をまとった神官ヘムは、神魂騎士団に向けて呪詛のようなつぶやきをはじめる…
フェーザーのバンダナ、バラデロのペンダント、シグマの鎧兜、アネーロの赤子を抱えるたすき帯、ハヤブサの愛馬・黒翼の馬鞍、スパーダの腕輪、プロフットの指輪その神魂の証が光り出し、神魂騎士団の全員が苦悶の表情でのたうちまわる…!
「神官ヘム、僕達は勝ったんですよ!あぁぁぁ!!」
「ボクたちは、神の命ずるままに…!んぁ!」
「……!!!!」
「アンタ、手出し出来ないヤツは殺さないなんて当たり前だろ!!ぁぁぁああああンっ!!」
「神官ヘム、それは、おかしいですよ!うぅぅぅぅ!!」
「オメェ、戦争屋だって、無用な殺し合いはしねぇ…うぐぉぉぉぉぉ!!」
「神よ、我々は神の命ずるままに戦いました…ぁああああぁ!!」
「アニキ、にいちゃん、おっちゃん、おばちゃん!どうしたの?」
「あなた!?」
「センセイ!!」
駆け寄る人間達を見下すように神官ヘムは行く手を遮る…
「あなた方も神罰を受けたいようですね…さあ、誰かが手を下しなさい。ここで逃がせば、後に立ちはだかる敵になるのはあきらかです。さあ!!!!」
「全員が拒みますか…いいでしょう。バラデロ・ハンマーシュミット。あなたが、敵を倒しなさい…。」
バラデロの身体が、意に反して立ち上がり、万能銃を放たんと、上腕の筋肉が操られるがままに引き絞られる…。
「やめて!ボクは戦争をしてるけど、人殺しじゃないんだ!!」
「なにを言いますか?あなたの想い人、サリアン・プロハスカはあなたの手によってあやめられたのですよ…。なぜそのような迷いがあるのです?」
「やめて!サリアン!サリアンは!ボクは!ボクは!」
必死に抵抗するバラデロの左腕を、細剣がなぎはらった!
「あんたら、笑わせるよ!迷ってたら、戦場じゃ、即あの世行きだよ!」
突然現れた馬上を駆け下りて、叫ぶ女は、あのティーゲル、その者に違いなかった!
「てんめぇ、しょうこりもなくあらわれやがって!…んぐぉ」
苦痛に耐えながらスパーダが叫ぶ!
ティーゲルの後ろには、万はゆうにはいようかという西の民の軍勢が!
「このおっさんを助けるために、協力してくれたみたいなんだけどねぇ。オマエたち!今死にたいならバッサリやってやるけど!あーっはっはっ!やるかい!?」
ティーゲルにつらなってきた兵士がメグロを馬に乗せて走り去る。
「さあて…、こっちは頭数がいるよ。」
ティーゲルの手勢だけでも数百、ここで神魂騎士団の命運も尽きんかとせんその時、東の地平から数百の騎馬の集団が駆けつけ、ティーゲルの手勢を遮る。
「ティーゲル、久しぶりだな、すっかり円卓騎士団の犬かい?虎殺しの名が泣くぜ?」
一団のリーダーらしき傭兵が挑発する。
「ジェイかい、こんな所で会うとはねえ。アタシは常に勝って世間を渡り歩いてきたんだよ!勝つほうに鼻がきくのは生まれつきさ!」
「俺はくろがねのジェイ。このティーゲルとは闘技場でのくされ縁でね。それで、俺達の目的は神魂騎士団のあんたらに合流する事だ。そうだな、「国家救済連盟」とでも名付けようか。あんたらのおかげで、円卓騎士団が気に入らない連中が自然に集まって出来た軍団だ。腕には覚えのある連中ばかりだ、おまけに3食食えればタダで働こうってんだ。お買い得だぜ?」
「こんなチャンスにくそいまいましい!おまえたち、退くよ!」
体制を立て直し、数千の軍に駆け戻るティーゲルの手勢たち。
「おまえ達、そこそこの力はあるようですが、今万の兵と戦っても、無駄死には免れません。いいでしょう、神魂騎士団の末席に名を連ねなさい、人間どもよ。」
神官ヘムは呪詛をすかさずやめて、全員を転送する呪文を唱えはじめる。
「不本意ですが、ここは退きましょう…。」
勝利した神魂騎士団は、なぜか敗走するはめとなり、光につつまれて転移する。
「いいねえ。楽しいねぇ!あの神魂騎士団が逃げてくよ!あーっはっはっ! 」
あたりには、勝ち誇るティーゲルの高笑いのみが響いた…。