3面
3面主人公
シグマ・ウォルターウルフのボイスになります。
http://www.youtube.com/watch?v=333OzJWByio
●キャラ紹介③~「レーベン・スレイブ」
◆シグマ・ウォルターウルフ
・リンゴ農家の第2子、本名はビラーゴ・アプフェル(林檎)
・クーデターの報を受け旧首都の城塞都市ゲルブを任されていた教皇派の貴族、ウォルターウルフ家はほとんど私兵を持っておらず、領地の才に長けた者達をを集め、ウォルターウルフ家の養子として、私兵を徴集した際に、兄弟合わせて徴兵された、(兄は軍師として、ガンマ・ウォルターウルフを名乗る)
・リンゴの大箱を片手に抱える、街一番の力自慢。
・生まれつきの吃音もちで、ほとんどしゃべらない。
・ゲルブの旧王宮倉庫に眠っていた、巨大な3組の鋼鎧の一つを託された。
(その3つのプレート・アーマーは全身に棘をまとい、足裏にスパイクが打ち込まれている、まさに背水の装備である)
・街の力自慢、アディとハイドを伴って、ゲルブの守護隊長に任命される。
・兄ガンマは妻子に恵まれ、兄の家族は無口なシグマを家族のように慕う、心のよりどころ。
・自閉気味な28歳。剛胆そのものだが、ひたすらに孤独な男。
●序章③ ~「レーベン・スレイブ」
聖ガリリアント歴375年、教皇シムビアン13世の傀儡政権となった、聖ガリリア王国、首都の城塞都市ビリジアは、円卓騎士団の長、聖騎士バスチーフのクーデターによって戦火につつまれた。
戦力に劣る円卓騎士団は、首都ビリジアを陥落させたとはいえ、国内の今だ根強い教皇派の地方の貴族達になやまされていた…。そこで、円卓騎士団の一部を各地に派遣。王の名の下に「国家結束同盟」という徴兵制度をつくり、教皇派に属さない各地の貴族、そして一兵卒に至るまで、教皇派の殲滅を目的に「兵士狩り」を行った。
そこには、名を持たぬ傭兵やゴロツキなど、素性の確かならざるものが、この混乱に乗じて成り上がろうと、国家結束同盟に参じていくのだった・・・。
そして、教皇派の旧首都ゲルブをまかされた、ウォルターウルフ家の領地にも、国家結束同盟の一隊が派遣されるという檄文が届いた、ウォルターウルフ家は堅牢な城塞都市を任されていたため、多くの私兵を持つことを禁じられていた。そのため、領内の才あるものを集め、全てを養子として、ウォルターウルフ家の一員とすることで徴兵をおこなった。首都ビリジアから落ち延びてきた騎士達を筆頭に、兄ガンマは軍師として、弟シグマは鋼鎧をまとう守備隊長として、アプフェル家は兄弟合わせて徴兵されていた。シグマ率いる守備隊に配属された、漁師のアディと市場の競り師ハイドは槍の扱いに四苦八苦していたが、幸いシグマはリンゴ作りで培った怪力と、繊細な手つきで自由自在に鋼槍を扱う事が出来た。兄は軍師として、城塞の上からの弓の狙撃の鍛錬にあたっていた。
そしていよいよ国家結束同盟の尖兵が明日にも到着しようとの報をうけ、ウォルターウルフ家と領民達が私財を持ち寄って、慰労の宴がひらかれた。村人たちは、普段は口に出来ない葡萄の飲み物や羊の肉を饗して、久々にくつろいでいるようだった。一方、妻子ある兄ガンマ達は除いて、シグマ達、独り者たちは、傭兵に伴われてビリジアからやってきた娼婦達との夜を、今生の心残りがないように、めいめいにあてがわれていた。
シグマは、聡明な兄と慈しみ深いその妻、自分を慕ってくれる子ども、その全てを穏やかに愛してはいたが、話すこともままならぬ自分には、幸せなど一生あたえられないのだろうと、諦めにも似た気持ちに満たされていた。
「おにいさん。たくましいねぇ。たくさん見てきたけど、アンタほど良い道具持ってる男はいないよ。一晩で5000ギエンだって言うからついてきたけど…あぁ!!こんないい男なら、アタシぁほんとによ…か…!!」
娼婦は何度もシグマに満足して添い寝した。一方シグマ自身は、特に感動もなく、愛の無き我が身を、そう、どちらかというと嘆いた。そして、兄家族を絶対に護ろうと、ひたすらに心に誓うのだった。
夜明けと共に城塞都市ゲルブの正門に対峙し、都市を囲む堀に唯一かけられた木製の橋を挟んで、両軍はにらみ合う、シグマ・アディ・ハイドの鋼鎧隊は橋を封鎖し、木製の橋上で仁王立ちして待ち構える…。
「行けい!」
司令官らしき鷹の意匠をあしらったプレート・アーマーに身を包んだ騎士が馬上で号令をかけるとともに、
5名の鎧騎士たちがシグマ・アディ・ハイドに向かって突進してくる。鉄板がぶつかる高い音が響くが、ウォルターウルフ守備隊3名は、微動だにぜず手に手に槍の反対側の膨らんだ部分で鎧騎士たちを転倒させていく。
守備隊3人の足甲の足裏には、深いスパイクが打ち込まれており、木製の橋上に深く突き刺さっているのである。
既に帰る場所など無いのだ。ウォルターウルフ軍は良く見積もっても50名、国家結束同盟の部隊は300名ほど、
兄ガンマは、鎧騎士達を狭い橋で盾にして、城壁の上から打てるだけの弓を打ち下ろす作戦であった。
3人の活躍に後を押されて、弓の交互体制での正射がはじまる。
「んが!」
「ぅお!」
軽装の兵士達が次々に倒れていく…。鷹騎士はポールを持った兵を3人を打ち倒さんと突進の陣形をとり、軽装の兵をすぐに後ろに下げて、自分が矢面に立って士気を上げる。
「突撃兵、順列に突進。きやつらが倒れたら貫通兵を突進させる!奴らを討ち果たした者には500万ギエンを我から分け与えようぞ!」
矢の射程外では、鎧騎士の鎧の隙間から短剣を突きたてる奇兵が、弓に打ち抜かれまいと早駆けの準備に身体を温めている・・・。「打ち方、やめーい。」
兄ガンマも合わせて弓の正射をおさめる。さらに、シグマ・アディ・ハイドの3人は存外に粘り強い戦いを見せ、鎧騎士全てを転倒させ、さらには突撃兵も徐々に減らしていく。
「アニキ!鎧どもを!」
街の者がほとんど聞いたことの無いシグマの雄叫び。それに呼応して、おっかなびっくりな革鎧の一団と、娼婦を護衛してきた傭兵たちが短剣を片手に駆け寄り、鎧の隙間から短剣を突き刺す。
「んがぁぁぁ!」
「ぬぐぉ!」
鷹騎士が素早く救援を出すが、反応した弓兵の一斉掃射で、救援は届かない。鎧騎士を失った鷹騎士も、うかつには兵を出さずに、 シグマ・アディ・ハイドの3人の体力を奪うように、少数の兵を随時送っていく、矢が切れるのも懸念され、兄ガンマも迂闊に指示が出せない…。
鷹騎士は悠然と日暮れを待って、ついに貫通兵と呼ばれた、対鎧騎士の一団を一斉に突撃させる。
シグマ・アディ・ハイドら3人の鎧は全身がトゲに包まれており、拳にも長いスパイクが打ち込んである。
敵陣奥で指揮に徹する兜が鷹の意匠をこらされた鷹騎士はいまにも瓦解しそうなゲルブ自衛隊を的確に滅亡へのシナリオを一つ一つとえがいていく。
3人は槍を背中に収めて肉弾戦の準備。なにせ腕を振り回すだけでも、軽装の兵士なら肉を割き、拳を打ち立てれば即死という、全身凶器である、恐怖を抑えて突進してくる奇兵たちを引き裂き、打ち抜くその様は一騎当千の如しと言えた。
しかし、粘り強く突進を続けてくる貫通兵に全身をからめとられ、短剣を突き刺されて、順に息絶えていくアディ・ハイドの二人。
「アディ!」
「ハイド!!」
二人の鋼鎧を引き剥がして絶命させ、ふんだくっていく身軽な兵士どもを槍を取り直してなぎ払っていくシグマ・・・
兄ガンマの弓部隊の矢も、そろそろ尽きかけていて、援護も十分に出来ない。死屍累々の橋上に仁王立ちしているシグマも、徐々に体力を奪われて、兵士に全身をはがいじめにされていく。
全身トゲ状の鎧に食らいつくほどに、500万ギエンとは大金であろう。
なにせ、彼ら家族が荷台いっぱいにリンゴをビリジアに売りにいって1台100ギエンやそこらである。
俺も高く見られたものだと、自嘲気味に笑いをかみ締める。
そして、首筋に鈍い痛みがはしる!
走馬灯になにが走るかと、娼婦を抱いた後にシグマはしばし考えたが、見えたのは兄の家族の一家の団欒であった。
なにも言わずとも快く受け入れてくれる兄、慈愛で女神のごとく接してくれる兄の妻、おじさんみたいになりたいと、毎日腕相撲をせがんでくる子。
自分が倒れれば、そのささやかなともしびが消えてしまう・・・。咽もとの貫通した空気音と、吹き上がる血柱の中でシグマは絶叫する!
「わが命!燃え尽きるまで!!!!!!!!!」
うつろいゆく意識の中に、遠い、遠い呼び声がこだまする・・・。
「命尽きんとせん猛者よ、神々の眷属に屈服を誓うなら、主の命を、主の大切なものたちを護る力へと変えてやらんでもない…」
「兄貴…奥方…そしてマルコよ、俺は、俺はお前たちを護る、強く、大きな騎士でありたい!」
シグマの怒号とともに血塗られた全身の鋼鎧は再び大きく輝きを放った!!
苦痛が無痛となり、尽き果てたはずの力がみなぎる!心をよぎるは兄家族の全てであるのだが、大局を決さねば、いまの形勢を覆すこともままならない…。
(3面開始)
逆に、奴の首を取れば勝機は見える!もう動くこともままならなかった両足は、まるで全身を覆う鋼鎧が無いかのような早駆けさえ可能であった。いまは神だろうが悪魔だろうが、この信じられない力を信じるしかない。
振るう槍の一薙ぎは一振りで十数人を蹴散らす!走れば走るほど気力がみなぎっていく。
勝機と希望のかけらをにぎりしめ、雄雄しき鋼鎧騎士は一心に鷹騎士に向かって疾走する!
掴みかけていた勝利の美酒に酔いしれていた指揮官は、信じがたい光景に、すばやく捲土重来をと本陣の馬にまたがって後退の指示。自軍を捨てることもいとわない挙動さえも上回り、希望という名の速度をつけたその槍の一振りが空間を断ち、
鷹騎士の己が下半身を断絶されたことさえ気づかぬ所作で人馬を二分していた。
(3面敵全滅にて終了)
同時に撤退せんとしていた下士官の馬を奪って追って返す。人知をこえた一騎当千のシグマの有様に四散するゲルブ攻略軍。
しかし、ならずもの達の中には、少しでも戦功をあげようと、残りわずかな兄ガンマ率いる弓隊と、宮殿にあつまっている君主たちや女、わずかな宝物を狙って、火事場とばかりに我が物にせんとするしたたかな一団も中にはいた。
兄ガンマの弓隊は両側から引き車の付いた大盾のような戦具に兵が一人づつ引き倒されては後衛の兵がとどめを刺していくというような、むごたらしいやりかたで、残り十数人となっていた。もはや高低差のない弓が威力をもたず、隊の面々の持つ小刀では、なすすべがないというしかなかった…。
瀕死の兄とゴロツキどもに蹂躙されつつある宮殿にいる兄の妻と子のマルコ…。命の重さに差異などないのだ!
しかし、いま出来ることは何だ!一瞬の自問自答の末に先ほど人馬を一瞬にて薙いだ大槍を城壁の戦具、自走式大盾に向けて馬上から投擲した!
「あああ、兄貴ぃぃぃぃ!ままよ!!」
その怒号のこもった一閃は風を切り裂き、見事その戦具を城壁ごと粉砕し、一方の隊を足止めした、早駆けを強いられて勢いを失った馬を打ち捨て、もう一方の城壁を雑魚を蹴散らしながら迅速の速さで駆け上がる。
「奥方、マルコ、すまん!」
全ての雑魚を振り捨てて、振り払い、兄に駆け寄るが、既に兄は人質に取られて、首元に小刀を尽きつけられている・・・。
「ひゃーっはっは、一足遅かったな!こいつは俺様の手柄だぜ。武器を捨ててはいつくばりな・・・!」
王宮に向かう時間さえ惜しいのになんということか!
小悪党らしいその指示のままにはいつくばり、シグマは提案する。
「鷹騎士の元に、金なら、いくらでもあったろう…?」
「あんなもんとっくにあさられてもぬけの空だろ?俺様の今の唯一の希望は、オマエみたいなバケモノから命を守ることだ!だからこの兄ちゃんは俺が安全な所まで逃げるまでいただいていくぜ!ちっ、宮殿の女かっさらった奴らが当たりひきやがったぜ!くそいまいましいゼ…」
盗賊まがいの所業の満ち満ちたゲルブの有様に、奇跡とも言える神のごとき力を得たはずのシグマは兄、ガンマを人質に取られ、なすすべもなかった。
「ちきしょう、俺様だって同じ釜の飯を食らった仲間を何人も殺られてるんだっ!殺しても死なないお前のような男がいなければ、今頃酒と女で極楽行きだってのに・・・でもついてたぜ。命あっての傭兵稼業よ。」
下士官は兄を人質に多くも無い宝物と女達をかきあつめた、がめつい敗残兵の元に合流していく、そこにはやはり兄ガンマの妻マリアの姿…そして愛くるしい子、マルコの姿はもちろん無かった…。
「あなた」
「マリア…」
「おっと、そういう間柄でしたかい?おまえら!このお二方は丁重に扱うんだぜ。あの鬼神のごとき鎧騎士の肉親だ…。少なくとも、あいつが消えてなくなるまで『ごちそう』はおあずけだ!分かったか!ひゃひゃっひゃあ!愉快だぜ!!」
「お…お兄ちゃん!」
大局の決した戦場を抜けて、ひときわ光る鎧目がけ駆けてくる、兄の子、マルコ。
「ねえ、お父さんとお母さんが行っちゃうよ!どうして助けてくれないの?」
「…神官よ、なぜ俺を生かしたのだ!この力は、護るための力ではないのか!!」
神官は後方から姿を現し、さも満足げに微笑する・・・。
「気配を気取りましたか・・・。私はお前の神魂騎士としての素質を買っただけのこと。神は人の瑣末な営みなど眼中にはないのです。この事態を切り抜けるだけの力は与えたのですよ?ふっふっふっ…」
「うっうっ、お父さんが、お母さんが…兄ちゃん!さっきみたいに、みんなやっっつけてよ!!ねえ!!」
「マルコ、強くなれ、強くなるんだ…俺よりも強く!」
あの群集を瞬殺することは可能だろう。しかし、全てを失ってしまう暴力しかその方法を持たない…。
そしていままさに身体中を駆け巡る暴力の奔流が、大粒の涙となってこぼれ落ちる…
俺はなんと無力なのだ!俺はなんと無力なのだ!神々しい輝きを放つ鋼鎧は、全身から朝焼けを反射させてまばゆく輝いていた…