1:Nobody Knows Where I Am
この小説は書き始めたときに、余りにも冒頭がアレだったので、話の順序を変えた修正版です。修正する前に見て頂いた読者の方々には申し訳ありません。このように未熟な者ですが、皆様に受け入れられるよう努力して参りますので、どうか温かい目で見守ってやって下さい。それでは、第一話へ……
とても温かくて気持ち良かった。
そう、まるで干したての布団で寝るような、暑すぎず寒すぎない温かさ。こういうのを温もりと言うのだろうか。
委ねればそれこそ一瞬で快楽へと誘う感覚を、いつまでも味わっていたい。むしろ、そのまま連れていってほしい。
錯覚なんかじゃない。本能がそれを訴える。睡魔の導くままに落ちていったら、どんなに楽な事だろう。
が、大抵こういうの
には何かしらとんでもないことが潜んでいるのがセオリーだ。麻薬みたいなものである。
……いけない。そろそろ考えるのも億劫になってきた。このまま寝ていたい気もするし、起きなきゃいけない気もする。
さて、俺は――
頑張って起きる
→ このまま寝る
……いいや。こんなに気持ち良いのはめったに味わえないし、麻薬に溺れるとしよう。 Mr.ウォッチの講義とサークルの集会が今日でないことを祈りつつ、今日は大学をボイコット………
―――大学?
俺は布団から跳び起きた。同時に、昨日の記憶が濁流のように流れ込んできた。
あんな出来事に遭遇してなに呑気に寝ていやがる。
とりあえずは現状把握だ。鈍い頭をフル回転させて、今考えられる事を考える。あれからどうなったのか、今どこにいるのか、あれからどれだけ経ったか、あいつらは無事なのか等々――――。
あんな事になるなんて、誰が予想できるだろうか。当たり前だ。こちとら国際紛争とか政治経済とは全く無縁の、一般の大学生活を謳歌していたただの大学生なんだぞ?
そりゃ幸せに暮らしたいだとか、ある程度金持ちになりたいだとかそういうのは思うけど、これだって一般論じゃないか。
そう思ってあの大学の門を叩いたっていうのに―――なんてことだ……。俺にはそういう一般的な事も成就されないのか。
とにかく今為すべきことは、ここがどこなのかということだろう。怒りや反発心は、心を惑わせる。……焦らず、落ち着いて、
はい深呼吸。
さて、俺は今ベッドの上にいる。俺が思っていた純白で干したての布団ではなく、緑色の、シーツすら掛かっていない羽毛布団
だった。
と、くると、最低限ここは病院ではない、ということが理解できる。
次に、部屋の中だ。壁も床もコンクリートで出来ていた。ところどころ鉄筋が剥き出して見えるあたり、鉄筋コンクリートだ。
が、それだけだった。強いていえば天井に野球ボール大の電球がぶら下がっていて、十字のふちがある窓と、緑の薄いカーテンがあるだけだ。壁と床がボロっちい事以外特に汚れてはいないし、かといって何かがあるわけではない。
まるで本当に寝るためだけに設けられた、無駄という概念を完璧に取っ払った空間。
と、いうことは、俺の部屋でもない。住んでいるアパートはに鉄筋コンクリートといえどボロボロじゃないし、大体部屋の中は
こんなにさっぱりしていない。
と、来ると、いよいよここはどこだろうか。
振り返ってみる。最後に見たのはそう、築50年を超えても一向に老朽化しない、例え震度10を超えても絶対に崩壊しなさそ
うな校舎が、零れ落とすかのように鉄塊を落としていったこと。
その前に聞いた。あれは爆発音だ。ドカンなんて音、初めて生で聞いた。
そして、おれを襲ったのは瓦礫の雨だった。逃げ道など無い。瓦礫は容赦なく俺の身体を包んでいった。
それが最後に見た記憶。あれからどれくらい経ったかはわからないけど、とりあえず今、俺はこうして生きていてここにいる。
いつまでもこうしているわけにはいかない。わからないなら、自分で確認するだけだ。
幸いにも身体は………よし、動くな。寝ていたせいもあって思うように身体が動かないが、まあ、うろついてれば自然と治るはずだ。
そう踏んで、俺は部屋から出た。
◇◆◇◆◇◆
建物は5階建てだった。ここら辺はそういった一般のアパートみたいな建物で構成されていた。
が、それは清楚と呼ぶには程遠かった。塗装が剥がれ落ちて中のレンガが見えてしまっている。剥がれ落ちた塗装は、無造作に道に散らばり、倒れたゴミ箱はもはや存在意義を無くしていた。
おまけに、とてつもなく日当たりが悪く、昼なはずなのに暗い。これではまるで路地裏だ。
いや、実際そうなのかもしれない。この荒れ方は見るからに治安が悪そうだ。女の子はこんなとこ来ちゃいけないな。
正直あまり動きたくはない。こんなところを歩き回ったら、何が起きるかわからなくて不気味でしょうがない。なんだろう、この形容できない悪寒は。空間から恐怖が伝わって来るかのよう。そこいらのテーマパークの幽霊屋敷よりホラーチックだ。
だが、今欲しいのは情報だ。あれからどうなったのか、ここはどこなのか、今はいつなのか。
残念な事にテレビもなければ新聞もなかった。せめて日にちだけでもと思っても、カレンダーすらなかった。どういうことかと思ったが、外を見て納得。恐らくテレビはおろか、新聞など仕入れる余裕もないのだ。
こないなら行けというのは誰の教えだったか。いちいちこんなことに怯えてたら、そうとう情けないぞ、俺。
立て付けの悪い階段を下り、勇気を振り絞って一歩外に出た。
◇◆◇◆◇◆
しばらく歩くと、大通りらしき道に出た。だが、道中全くといっていいほど人気がないのが、逆に不気味だった。
いや、人はいた。だが、あれは人と呼んでいいのだろうか。
そう、あれは俺が何気なく周囲を探索しながら歩いているときだった。歩いても歩いても明るくはならないし、なにより巨大迷路みたいに入り組んでいた。
失敗だった。土地勘もないくせにうかつに散策するものじゃなかった。ここをあなどっていた。おかげで、もといた場所がわからなくなってしまった。
というか、ここで重要な問題が一つ。
空腹だ。
あたりまえだ。とにかく俺は寝ていたのだから。寝ている人間が食事など出来るはずも無い。一気に襲ってきた空腹の波に、意識が昏倒しそうになる。
そんなとき、俺はソレを発見した。いや、正確には発見してしまった、か。
髪の長い、ボロボロの布切れを纏った女が、壁際に腰掛けてるじゃないか………。
女はまるで生気のかけらもない。というか生きているのだろうか。ミイラみたいだ。
つーかヤバイ、こっちを見てますけどーーー!
一度視界に入れたらあとはミイラ(命名)の独壇場だった。目を合わせなくてもわかる、見つめるだけで一方的に相手を恐怖に陥れるハメプレイ。立場は逆なはずなのに、ヘビに睨まれたカエルの気分になった。 そして、最早この状況に耐え切れずに、一刻も早く立ち去ろうとしていた俺に
「・・・クスリ・・・ちょうだい・・・」 ミイラはザキを唱えた。 不気味さが悪寒に昇華した。
もうイヤだ。
いつからこんなジャンルになったのか。
見てはいけない。見てはいけない。見てはいけない。
もう、それを見てはいけない。俺は一目散にその場を立ち去った。
……あれは酷かった。
もういい、思い出したくもないからこのことは忘れよう。人間、過去のことよりも未来に向かって進んでいくべきだ。
さて、そんなわけで俺は今、大通りらしきところにいる・・・んだっけ?
さっきの一件で闇雲に逃げ惑っていたら、たまたまここに出た・・・なんて、虫のいい話だなと思うのはなしだ。
なにせ出たのはいいが、そこもただ大通りなだけだった。人気もなければ、明かりもなく、ゴミがちらかり、塗装がはげている。つまるとこ、道が広くなっただけで、あとはなにも変わってないのだ。
期待はずれだ。いや、こんなところに希望を持ってしまったほうが浅はかなのかもしれない。当たり前だ。これだけ人気がないのだから、一般的に人の多いところに出たところで人が居る保証はない。まるで絶望の象徴みたいなこの街では、一切の未来を断絶させられる。マンガや小説で読んだけど、そのときはこんなに凄惨な環境だとは思いもしなかった。
世界はなんて理不尽なのだろう。
ああ、俺も空腹にのたれ死ぬのか。あのミイラみたいに誰にも助けてもらえず一人死んでいくのか。こんなことならおとなしくベッドの上で家主の帰りを待っていたほうがよっぽど良かった。
……そうだ、家主はどうしたのだろうか。俺があの家にいた以上、助けてくれた人間がいるはずだ。いまさら気が付くなんて、俺のまぬけっぷりにはほとほと愛想が尽きた。せっかく救われた命なのに、こうもあっさりと手放してしまうとは。
でも、もういい。どうせ瓦礫にまみれて死ぬ身は死ぬ身だったんだ。助けてくれた人には悪いけど。
瞬間、それはたしかに聞こえた。
遠くで、なにか聞こえる。これは・・・雨音?・・・いや、これは歓声だ。人の声だ。
俺はもう何も考えない。なにも考えないまま、声のするほうに走り出した。
最早それは、条件反射に等しい。道に転がる生ゴミが臭かろうが、瓦礫に足をとられようがしったこっちゃない。ひたすらに、ただひたすらに声のするほうへ。
駆ける。
駆ける。
おかしい。音は大きくなっているのに、なにも見えてこない。これだけの大歓声なのに、それらしき施設がまったくない。
まだ遠いのかと思って歩いてみても今度は声が小さくなってしまった。
とすれば、できる限りの想像から結びつく結論はただ一つ。
◇◆◇◆◇◆
探し出すのにはそれほど労力と時間は必要なかった。大通りから左に入って二軒目の、今にも崩壊しそうなボロボロの家屋の一階。
地下に続く階段は、たしかにそこにあった。
声のボリュームが最大になる。俺は迷わず階段を下った。
上の暗闇がウソのように明るく、ここは活気に満ち溢れていた。広大な地下空間いっぱいに人が入り込み、歓声が反響する、一種のドームってやつだ。
思えばこういうところははじめてかもしれない。思いっきり戸惑ったが上にくらべれば天国だ。
そしてすり鉢状のスタジアムは真ん中が円形にくぼんでいた。直径はおよそ十五メートル程度。周りが壁で囲まれているあたり、コロシアムを彷彿とさせる。 観客は老若男女問わず。服装から肌の色まですべての人種をごった返した感じ。見渡せばそれこそ人種万国博覧会。
そんな現状を十分ぐらい見回していると
「レディース、アーンドジェントルメーン!本日もようこそお越しくださいました!ただいまよりー、第三百十四回ぃぃ、当コロシアムのエキジビジョンマッチを始めたいと思います!」
渋い男の声が流れて、会場のボルテージも最高潮になった。今どき最初の出だしの一言はどうかと思ったが、今からはじまるであろうイベントでアンタッチャブルにしておいた。
もはや空腹であったことも、当初の目的もわすれて、食い入るように見入った。
会場が一気に暗くなった。無論、停電なんかじゃない。中央の円形がスポットライトに照らされる。
「イーストコーナァァ、鈍色のォォチンピラ魂ィィ。リィィィィゼントォォォォ、ニガァァァツゥゥユゥゥゥゥ!!!!!」
小柄の、だがいかにも柄の悪そうな、それでもってリーゼントがバカ長い男が現われた。俺の脚ぐらいの大きさだ。リーゼントの二つ名は伊達じゃないってことか。
それにしてもニガツユっていうのは――――ああ、
「四露死苦」の露と苦をとって苦露ね。ものすごいナンセンスだ。
だが、闘気はみなぎっている。ご自慢のリーゼントの迫力もあいまって、威圧感は充分だ。これでが体が大きければグッドだったんだけどなぁ。
アナウンスは続く。
「続きましてウエストコーナァァ、銀白のォォコロシアムの妖精ィィ。アナァァァスタァァシィィアァァァァ!!!!!」
俺が見た先には見た目がまだ幼い十五〜六歳の女の子だっだ。銀色の髪は遠めから見てもしなやかで、可憐という形容がぴったりだ。
バカげてる。いくらここが見た目的に経済がよくないからって、あんな女の子まで出場するなんて。相手のヤツだってチビだけど、それだけだ。ちゃんと骨格もゴツいし、筋肉も服のうえからわかるくらいに盛り上がっている。
あんな華奢な体じゃ到底かないっこない。ワンサイドゲームだ。
実際に会場も歓声の中に、少しのどよめきが混じっている。俺と同じように考えるやつがいるのだろう。
だが、既に賽は投げられた。アナウンスが構わずコールする。
「さぁ、両者ともはりきって参りましょう!デュエル1!!Lets Fight!!!」
カーン!!!
銀姫第一話、いかがでしたでしょうか。前書きの方にも書きました通りまだ未熟者なので、皆様からのアドバイスや感想を心待ちにしています。なお、ガンガンの某マンガとはルビが非常に酷似していますが、一切合切関係ないのであしからず。それでは。