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掌編匣  作者: 間宮 榛
三題噺
6/9

増える管轄外



 藍色に染め抜かれた居酒屋の暖簾を潜ると、既に面子が揃っていた。

「おー、おかえり」

「残業、お疲れ様です」

「というかフライング残業よね。こっち来て飲みましょ?」

 飽きるぐらい見慣れた面々に呼ばれ、いつも使っている掘炬燵の定位置に座った。

佐保さおもお疲れ。二人はまだ暇なんだろ?」

 何も言わなくても運ばれてきたジョッキを持ち、まず一口流し込む。炭酸の痛いような感覚にキンとした冷たさ、その後から苦みが追い駆けっこをして喉を通り、胃に落ちた。

「まぁね。まだあたしの担当じゃないもの」

 チーズを摘みながら、横の竜田たつたがお気楽に話す。

「俺もだな。おかげでぐーたら生活してるよ」

 斜め前の将軍はお猪口に少しずつ口を付けながら言う。既に朱に染まった白い肌から、長時間この店にいることが予想できた。羨ましい限りだ。

「だよな。なんか毎年仕事が増えてる気がするんだけどさぁ」

 ふぅ、とつい溜息が口を突いて出る。

「そうですね。年々私のが減って、筒井つついさんの仕事になってますもの」

 カルアミルクを片手に佐保は眉を曇らせる。

「今は私の担当の筈ですのに、筒井さん大活躍ですものね」

「こっちは大迷惑だよ。長時間働いても得なんて何一つない。あーあ、人間全滅しないかな」

 焼き鳥に噛り付くと、香ばしい醤油の味がした。

「それは無理だろ。あ、今って俺の管轄外のインフルエンザが流行ってるらしいな」

「ああ、ラジオでちらっと聞いた。もっと盛大に流行ってくれないと人口減らないんだよなー」

 今も待っている山積みの仕事を思い出し、ついぽろりと本音が出てしまった。

「何不吉なこと言ってんのよ。あんたそれでも神様?」

 ワイングラスを傾けていた竜田から、背中に強烈な平手打ちを食らった。

「痛っ! 冗談に決まってるだろ」

 半分くらい本気が混じっていたのは秘密だ。ジョッキの中の残りを呷り、早々に席を立つ。

「もう行くわ。まだ仕事あるし」

 三人を残し、居酒屋を出た。





「神様業も大変ですよね。特に筒井さんの夏は」

「人間の地球温暖化とかいうやつのせいだろ?」

「日本地区担当とはいえ、出番増えすぎよね」


 四季を司る神々は、溜息を吐いた。



題:残業、ラジオ(ラヂオ)、インフルエンザ

20090513:初出(三題噺参加作品) 20111101:移植 20111123:編集



※ちょっと短いうえに描写が少なくてオチがよくわからなかった人のための簡単解説。

佐保(女)→春を司る佐保姫さおひめ

筒井(男)→夏を司る筒姫つつひめ

竜田(女)→秋を司る竜田姫たつたひめ

将軍(男)→冬を司る白姫しろひめ(名前は冬将軍からとりました)

ということで、日本の四季を司る神様たちの愚痴大会、ということでした。

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